
(C)2023『月』製作委員会
10月13日(金)から、映画『月』が全国で公開されています。辺見庸による同名の小説を基にしたこの作品は、社会における「禁忌(タブー)」の奥深くへと切り込んでいき、「社会派映画」などと既存の言葉では片付けられない作品に仕上がっています。
原作は相模原の障害者殺傷事件をモデルにした小説で、石井裕也監督が演出を手掛け、スターサンズが配給しています。石井監督と一線級の俳優陣による覚悟のこもった映画作りは、誰もが「見て見ぬふり」をしてきた現実を暴き、まさに「観客たちに刃を向け」てきます。
キレイゴトのコーティングを引き剥がし、「内なる優生思想」との対峙を強いてくる映画だったと、著名人のコメント欄では多く触れられています。この作品には「社会と隔絶された施設」「意思疎通のとれない入所者」「『さとくん』の決心」が収められていて、衝撃的な内容になっています。
見て見ぬふりした現実を暴く
(C)2023『月』製作委員会
「深い森の奥にある重度障害者施設。ここで新しく働くことになった堂島洋子(宮沢りえ)は“書けなくなった”元・有名作家だ。彼女を「師匠」と呼ぶ夫の昌平(オダギリジョー)と、ふたりで慎ましい暮らしを営んでいる。洋子は他の職員による入所者への心ない扱いや暴力を目の当たりにするが、それを訴えても聞き入れてはもらえない。そんな世の理不尽に誰よりも憤っているのは、さとくんだった。彼の中で増幅する正義感や使命感が、やがて怒りを伴う形で徐々に頭をもたげていく──。そして、その日はついにやってくる」 〜 映画『月』公式サイトより
主人公と同じ生年月日でどこか他人と思えない「きーちゃん」や、部屋に誰も入ってはいけないとされている「高城さん」といった入所者が登場します。そして、高城さんの部屋の扉を開けてしまったとき、さとくんの中で何かが一線を越えてしまいます。「やっと決心がつきました、頑張ります。この国のためです、意味のないものは僕が片づけます」と宣言し、物語は展開していきます。
主演の宮沢りえ、石井裕也監督らが公開記念舞台挨拶で作品への思いを語る
左からオダギリジョー、磯村勇斗、宮沢りえ、二階堂ふみ、石井裕也監督
10月14日、公開記念舞台挨拶が東京・新宿のバルト9にて行われました。宮沢りえ、磯村勇斗、二階堂ふみ、オダギリジョー、石井裕也監督が登壇し、制作・出演を決断した思いや作品に対する感想・印象を語りました。
石井監督は「すごく怖かったですが、人類全体の問題であると捉え、逃げられないなと思いました」と映画化に踏み切った気持ちを話しました。
重度障害者施設で働く洋子を演じた宮沢りえさんは「内容的には賛否両論ある作品になると思いますが、そこから逃げたくないという気持ちが強く湧いてきた」と言い、この作品に参加することを決めたそうです。
洋子と同じ障害者施設で働く陽子を演じた二階堂ふみさんは「我々も消化できていないこの事件を作品にするのはやっていいことなんだろうか」と吐露しました。一方で「みんなの関心が薄れていったりとか、考えるのをやめていってしまうことが一番怖い。社会に生きる当事者として考えたい」とこの作品への参加を決断されました。
作中の重要人物である、洋子の同僚のさとくんを演じた磯村勇斗さんは、企画書を見て直感的に「参加したい」と感じたが、エネルギーのいる役柄だったので、覚悟を持つまで時間がかかり、慎重に話し合って出演を決意したそうです。
洋子の夫の昌平を演じたオダギリジョーさんも同様の思いから参加し、「感じたことをSNSなどでいろんな方と共有して、賛でも否でもいいので、話し合うことから始めればいいなと思います」と話されました。
重度障害のある当事者も出演し、監督、出演者が覚悟して臨んだ作品
(C)2023『月』製作委員会
石井監督は「障害者施設の内部暴露のようなものであったも仕方がない。一部の障害者は声が上げられない、閉鎖された空間でいろんなことが起こり、それを隠ぺいをするということは、障害者施設だけの問題ではない。むしろ僕たちの身近な所での話で、そこにあるものは必ず自分の人生、生き方に繋がっているということを意識して書きました」とこの作品を通じて伝えたい思いを語りました。
この映画には和歌山の就労継続支援事業所AGALAに通所する利用者の方々が出演されています。石井監督は、実際に重度障害者の方々に会って、コミュニケーションを取りながら、取材を重ねたそうです。そこで「生きてるということの不思議さ、面白さ、素晴らしさを強烈に感じたんです。そういう存在っていうのは、多分俳優の芝居では絶対出ないんじゃないかと。そこにカメラ向けて、そこを見つめるってことがすごく重要だと思います」と当事者の出演を無くしては、この映画が成立しなかったと明かしました。
映画「月」オフィシャルサイト
https://www.tsuki-cinema.com

障害者ドットコムニュース編集部
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