エコーロケーションとは?音で視る!視覚障害を補う能力
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エコーロケーション(反響定位)という言葉を知っていますか?音の反響によって、物体との位置や距離とをはかり、周囲の状況を察知していく能力です。動物で有名なのはイルカとコウモリです。先日、盲目の視覚障害者の男性が、エコーロケーションを使って、杖がなくても、周囲の状況を正確に判断でき、自由に動き回ることができるという、画期的な内容の番組が放送されたので紹介します。
動物のエコーロケーション
イルカ
仲間のイルカとコミュニケーションをとったり、餌を捕まえるために音をだします。カリカリ、ギリギリ、ピーピーといった短い音を出します。イルカは目が退化しているので、その分聴覚が発達しています。
コウモリ
自分の出す超音波の反射で餌を捕まえたり、洞窟の中で障害物を避けたりしています。この能力によって暗闇でも自由に飛び回ることができます。
エコーロケーションのドキュメンタリー番組
2016年7月2日放送、フジテレビ「知られざる脳の真実!!世界を変える奇跡の力〜今夜解き明かされる人類の不思議」の中で、エコーロケーションを使って、全盲の人がマウンテンバイクを乗りこなし、最後はバンジージャンプをするという衝撃的な内容が放送されたので、あらすじを紹介します。
番組内容
ホアン・ルイズ(34)は、生まれつきの白内障と緑内障で両目が全く見えません。エコーロケーションに出会ったときは12歳のときです。ダニエル・キッシュという、同じように全盲の男性から、このやり方を学びました。以来22年ひたすらトレーニングを重ね、ハンディキャップをものともせず世界を広げてきました。
彼は初めての場所でもマウンテンバイクを自由自在に操り、障害物を避け、地面の段差さえ察知する能力を持っています。クリック音と呼ばれる、舌打ちで音を鳴らして、物にぶつかったときの反響音、このエコーを聞き分けられる能力に優れています。跳ね返ってくる時間で距離を測り、エコーの微妙な変化で対象物の端がどこにあるか、大きさや形が判断できます。この船が海底物を探知する「ソナー」のような仕組みのことをエコーロケーションといいます。
彼によると、木の太さや、物の材質、建物、石などのラインが手に取るように分かるそうです。エコーロケーションの第一人者であるホアンは、目の見えない人にこの技術を伝えてきました。これまで20か国で1000人あまりを指導しています。彼によると、僕は超人ではない。エコーロケーションは努力によって、誰でも取得できる技術ですと言っています。
番組ではこの技術を習得したいと、元パラリンピックスイマーの秋山里奈(28)が挑戦します。彼女は2012年ロンドンパラリンピック競泳女子100M背泳ぎ(視覚障害S11)で、1分19秒50秒のパラリンピックレコードで金メダルを獲得しました。引退後OLをしながら一人暮らしをしています。エコーロケーション初体験です。
今年5月、母に手を引かれて、空港でその達人と初対面を果たします。里奈さんは、仕事を終えた後、公園に行きエコーロケーションのレクチャーを受けます。跳ね返る音を感じる訓練として、まず最初にパネルの前で、クリック音を聞きます。次にホアンは透明のパネルを、上部から少しずつ里奈さんの顔に近付けていきます。また、パネルが右か左、どっちにあるかを感知するトレーニングをします。今度は透明パネルと布で、材質の違うものを聞き分けられるかどうかのトレーニングを行います。
次に、場面が変わり、直進の長い廊下を里奈さんがクリック音を出しながら歩きます。ホアンによると、ドアが開いていると、音の反響音は小さくなるといい、空いているドアを探すよう促しますが、なかなか気づきません。ホアンは後から、お手本を見せますが、あっというまにドアが開いている部屋を見つけてしまいます。世の中の人たちは目の見えない人間には限界があると考えている。でも僕は自分の力でいろんなことをやってきた。だから里奈に対しても、もっともっと頑張れと言えるんだよとホアンは言います。
番組では、ホアンの脳を最先端の研究機関でfMRI検査というものを行い、頭の中を画像診断します。予め録音した自身のエコーロケーションの音を聞いたとき、ホアンの脳はどのうような反応するのか調べたところ、解析した結果は思いもよらない結果をだしていました。目が見える人の脳は、音を聞くと聴覚野が反応し活性化します。ところがホアンの脳では、物を見る時に使う視覚野の血流が増えていました。同じ実験を里奈さんに行うと、血流は少ないが、やはり視覚野が反応していました。
また、次に場面が変わり、四角い部屋の中で、窓の下の壁際に置いた杖を、クリック音を出して探すトレーニングをします。この訓練では、部屋の位置と自分の位置とを正しく把握する必要があります。レクチャーを受けましたが、里奈さんは、自分がどこにいるのか、どうしたらよいか分からなくなってきていました。
ホアンは脳は筋肉と同じだ。鍛えれば鍛えるほどパワフルになるよ。エコーロケーションは自由を手に入れる手段だ。失敗を恐れていたら世界を広げることはできないと言います。
最後に帰国を目の前にして、里奈さんが行きたいところに僕を連れて行ってほしいとお願いします。里奈さんは、抜き打ちでホアンをバンジージャンプ場へ連れていき、なんと2人ともバンジージャンプをしてしまいます。
エコーロケーションがテーマになった映画
イマジン
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2016年
製作国:ポーランド・ポルトガル・フランス・イギリス合作
ワルシャワ国際映画祭監督賞、観客賞受賞・グディニャ国際映画祭音響賞受賞・ポーランド映画祭音響賞受賞作品
リスボンにある視覚障害者のための診療所に、盲目の男性新任教師イアンが赴任します。診療所の盲目の子どもたちに、エコーロケーションを教えるためにやってきました。彼は反響定位というテクニックを使って、白杖なしで歩くことができる不思議な先生です。指を使わずに、ガラスのコップに、水をこぼさずに満杯まで注ぐ方法を教えたり、杖に頼らなくても、自由に動き回ることができることを、自身の姿を通して教えます。
彼は、杖を使わなくても、街を自由に歩き回ることができます。そのため、子どもたちは、目が見える人が、見えていないふりをしているのではないかと思い、半信半疑でした。そこで、子どもたちは、避けられると思って、廊下に色々な障害物を置いて、いたずらを仕掛けてきます。果たして、子ども達からの挑戦状に彼はどのように対処するのか。
こういった交流の中で、徐々に信頼関係を築きます。診療所の庭に置かれた、離れた場所にある自転車を、あっというまに見つけ出し、ベルをかき鳴らすシーンは拍手喝采です。
この作品はDVD化されています。視覚障害者用に、字幕と状況を読み上げる音声ガイドがついています。音声ガイドとは、目の不自由な方が、作品を理解できるように、スクリーン上の字幕を読み上げ、映像の説明を音声で聞けるようになっているものです。視覚障害のある方も、映画をお楽しみいただけるようになっています。字幕版と音声ガイド版が同じDVDに入っていますので、2つを見比べてみるのも面白いでしょう。
今回は視覚障害のある人がエコーロケーションができるという、驚きの内容でした。この方法が認知されれば、障害があって制約を受けていた人も、もっと自由な世界で物事を見ることができるようになります。日本でもこういった取り組みを行っているところがたくさんできると良いと思います。
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