衝撃や振動による脳への障害、高次脳機能障害とPTSDの関連性~軽度外傷性脳損傷という病気をご存知ですか?②
その他の障害・病気◀過去の記事:衝撃や振動による脳への障害、高次脳機能障害とPTSDの関連性~軽度外傷性脳損傷という病気をご存知ですか?①
前回のコラムでは、主に頭部衝撃の危険性や辛い記憶で起こりえるPTSDなど、目に見えなくても、脳に悪影響を与える症状を紹介しましたが、このコラムでは、振動や衝撃波で起こる症状や衝撃波というものはどういったものなのかを、症状の一例と自身の体験をもとに紹介します。
振動や衝撃で起こりうる症状の一例
脳脊髄液減少症・・・脳脊髄液という脳、脊髄周囲の液体成分が減少してしまうことによって、頭痛やめまいなどの症状を引き起こすことを言います。
脳しんとう・・・頭を打った後、衝撃や振動で意識消失や意識障害、頭を打つ前後の記憶を覚えていないなどの症状、あるいはそれらの症状が続いているけれども、脳のCT検査などで異常が写らない状態を言います。交通事故やスポーツで起こりやすいです。
振動病・・・強い振動を伴う工具を用いる職種の人が発病しやすいのが特徴です。血行不良を起こした指がロウソクのように白くなることから白蝋病(はくろうびょう)とも呼ばれています。
爆発衝撃波による脳への障害
近年アメリカの研究で戦場に出た兵士たちの多くが、爆発の際の衝撃波(気圧変化の波)によるものと思われる、外傷性脳損傷に苦しんでいることが分かりました。外傷性脳損傷の原因はさまざまですが、爆発の際に、音速を超えた衝撃波が、脳の空洞部分に衝撃波が入り込み、圧力の急激な変化で血管が急激に収縮します。その結果、血管の酸素濃度が最大40%まで酸欠状態になり、その時間は長くて数時間続くという実験結果がでました。これは、今までPTSDや軽度外傷性脳損傷と言われた症状に近いため、本格的な研究が始まったのは、ここ最近のことなのです。
この衝撃波は爆発だけでなく、日常の道路工事、建築現場でも起こっています。安全のためにヘルメットを着用していますが、衝撃を受けた際に、ヘルメットと頭の間に衝撃波が入り込むことで頭蓋骨が歪み、波のようなものを引き起こし、それが脳を圧迫して損傷を引き起こしていると言います。脳は水分を多く含むため少し押されただけでも大きな圧力が生まれるとのことです。また衝撃波は一瞬で到達するため、拡散される時間的余裕もないため、見た目よりも重大な損傷を与えているのです。知らないまま脳に損傷を与えている可能性もあるのです。
衝撃波は体感的にどんな感じなのか?
私自身の経験で感じたことは、射撃でライフルを撃った瞬間、静かな水面に水滴をたらしたような波紋が広がるような衝撃の後、脳が揺さぶられている感覚があります。発砲音が聞こえるのはその後です。これは直接ライフルに頬を付けて射撃しているため、撃った瞬間、衝撃波がはっきりと分かります。これがさらに大きな火器になると、衝撃波はもっと強く感じます。発砲音だけだと、耳が痛くなるだけですが、衝撃波は時には内臓すら痛めてしまうのです。大型の火器、例えば155㎜クラスの大砲だと、近くにいる場合、耳栓をしてさらに両手で耳を塞ぎ、口を開けておかないと、衝撃波で内蔵破裂を引き起こし命を落とす危険性もあるのです。
アメリカで従軍帰還兵のPTSDや軽度外傷性脳損傷が社会問題となったことで、衝撃波が脳に悪影響を与えていると解明されました。認知能力の障害、さらには不安や抑うつなどの長期的な影響まで及ぶことがあります。
振動による脳の傷病は様々ありますが、特に軽度外傷性脳損傷は日本では認知度が低いため、診断されるまで本人が気づかないことも多いです。そのため高次脳機能障害まで症状が悪化する可能性が高いです。
頭を揺さぶれる、頭をぶつけるなどの日常の範囲から射撃まで、幅広いケースを紹介させて頂きました。まだまだ研究が始まったばかりの分野ですので、更なる研究の発展が望まれます。
参考文献
【サイエンスポータル】
https://scienceportal.jst.go.jp/
【ウィキペディア白蝋病】
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8
【physicscentral衝撃波は兵士の脳にダメージを与える】
http://www.physicscentral.com/index.cfm
精神障害