アスペルガー症候群の診断・検査方法は?
発達障害勉強や仕事はよくできるのにこだわりが強く、人付き合いが苦手な人がいます。アスペルガー症候群は、興味の限定やこだわり、コミュニケーションの不器用さ、特殊な感覚等、自閉症と同じ特徴を見せます。しかし、自閉とは違い言葉の遅れや知的障害を伴わないアスペルガー症候群はどのように診断され、どんな検査方法があるのか解説します!
アスペルガー症候群の定義・診断
アスペルガー症候群は、オーストリアの小児科医であるハンス・アスペルガーが初めて報告した症例です。アスペルガー症候群の定義と診断基準は、ICD10(国際疾病分類)とローナウィングの自閉スペクトラム症3つ組、DSM5が代表です。DSM5では、2013年にアスペルガー症候群という記名が削除され、自閉スペクトラム症に統一されました。
アスペルガー症候群の定義
アスペルガー症候群と自閉症の大きな違いとしては:
①言葉の遅れがない
②知的能力は平均以上
上記の特徴に加え、ローナウィングの3つ組の内、①と③に当てはまる場合、アスペルガー症候群と見なされます。
①社会性の障害:他者との相互的な関わりや、友好的な反応が生じないのが特徴です。具体的には、思ったことを悪気なく言ってしまう、相手の言葉通りに受け取ってしまう、暗黙のルールが理解できないといったものです。表情や雰囲気だけで相手の気持ちや状況を察することが苦手なのです。さらに興味や関心が非常に狭く、人付き合いや自分が興味のない物事には、とことん無関心です。なので、趣味を優先するために相手の誘いを断る、難しい専門知識が豊富でその話はよくできるのに、何気ない会話ができない方がいます。
②コミュニケーションの障害:話す・伝えるといった①表出性言語、聴いて理解するなどの②受容性言語、そして身振りや表情で気持ちを察する・伝えるといった③非言語的コミュニケーション等の障害です。アスペルガー症候群の方は、言語的なコミュニケーションには問題ありません。ただし、感情面での発達がゆるやかなので、無表情になったり、辛いという気持ちが身体症状に出たり、感情表現が苦手な方が多いです。
③想像力と行動の障害:アスペルガー症候群の方は、見通しを立てることが難しいです。そのため、予想外の出来事には強い不安を覚え、臨機応変に行動できずにパニックになる方が多いです。また、あいまいな表現やほどほどの加減を理解し辛いので、具体的な指示がないと混乱する、イエスかノーどちらかという両極端な行動を取りやすいです。変化への強い不安から、ルールや習慣などの秩序を好み、強いこだわりを見せます。
その他の特徴:
・手先が不器用:ものをよく落とす、紙を綺麗に折れない等。
・マルチタスクが苦手:食べながら話ができない等、二つ以上の作業が同時にできない。
・感覚の特異性:聴覚などの過敏さや、一方で痛みや体温感覚などの鈍さ等。
ICD10においても、言葉の遅れと知的障害が明らかに見られないうえで、①相互的な対人関係の障害②興味の限定と強いこだわり、特定の習慣を狭く繰り返し常にやることを好む傾向が見られる点を診断基準とします。そのうえで、実際に日常生活や学校・職場、人間関係に何らかの支障が出ているかどうか、他の病気や障害の可能性を除いたうえで、アスペルガー症候群と診断できます。
検査方法
アスペルガー症候群の診断と検査は、成育歴の聴き取り、知能検査、その他の心理テスト等によって行われます。
成育歴の聴き取り
初診時には、アスペルガー症候群の診断のために、本人の成育歴を含む様々なことを訊かれます。しかし実際は、幼少期のことを訊かれても簡単に答えられないことが多いです。幼少期から自分のことをよく知る家族等から話を聞き、自分が昔から困ってきたことやトラブル等、伝えるべきことをメモしておくと、聴き取りはスムーズになります。
・成育歴:アスペルガー症候群を含む発達障害は、基本生まれつきの脳機能のアンバランスが原因とされます。アスペルガー症候群の特徴が、乳児期・幼児期の頃から見られたかどうかを確認します。その他は、出産時の状況や家族関係、既往歴、学校での様子や成績等も、有効な判断材料となります。
(参考になる資料:母子手帳、育児記録、学校の通信簿等)
・今の生活状況と健康状態:本人が今困っていることや生きづらさ等は、アスペルガー症候群等の発達障害に起因するのかを考えます。また大人のアスペルガーの方が、精神疾患等の二次障害をきっかけに心療内科等に受診した際、発達障害が判明するケースは最近増えています。
ウェクスラー式知能検査
ウェクスラー式知能検査は、言語性IQと動作性IQ、さらに4つの下位能力に分けて、知的能力の多様な側面を平均で測ります。検査方法はそれぞれ、WAIS(18歳以上)、WISC(6歳~17歳)、WIPPSI(6歳未満)まで、年齢別にあります。ウェクスラー検査では、平均値をIQ100と定めます。なお、IQ70未満は知的障害、IQ70以上100未満を境界型知能と定めます。
・言語性IQ:知識や言葉の理解、耳で聴いた情報を処理する等
①言語理解:語彙(ごい)、知識、言葉の理解力等
②作動記憶:最初の情報を記憶に留めたまま、別の作業や計算に取りかかれるか
(話を聞きながらメモを取る、暗算をする等のマルチタスク)
・動作性IQ:感覚・運動に関する能力。パズルなどの視覚的な認知処理、非言語的サインを理解できる等
①知覚統合:目で見たモノとモノの関係や全体像を理解する
(例:パズル、間違い探し、りんごとバナナは果物)
②処理速度:目で認識した情報を素早く・正確に理解する
(例:記号探し)
アスペルガー症候群の場合、言葉の遅れはなく、知的能力は平均以上なので、ウェクスラー検査では、平均であるIQ100以上を示します。しかし、通常の方のIQ100、とアスペルガー症候群の方のIQ100を比較すると、明確な違いがあります。通常の方では、全体IQ100であれば、言語性と動作性、下位能力の各数値は、IQ100前後にバランスよく表れます。しかし、アスペルガー症候群を含む発達障害の場合、言語性と動作性、下位能力それぞれの数値の間に大きな差が見られます。
自閉スペクトラム症の※グレーゾーンの私も、過去にWAISを受けたことがあります。結果、総合的な数値と下位能力の数値に大きな差が見られました。全体IQは90前後であるのに、言語性IQの作動記憶、と動作性IQの知覚統合の数値は65前後で有意に低かったのです。
全体IQと特定IQは平均以上高いにも関わらず、他の特定IQが平均以下の低い数値を示し、その差が10~15以上ある現象を、ディスクレパンシーと呼びます。ディスクレパンシーのみで確定診断ができるわけではありませんが、アスペルガー症候群の識別には有効な判断材料となります。一概には言えませんが、アスペルガータイプでは言語性IQが高くて動作性IQが低い、自閉症タイプでは動作性IQが高くて言語性IQが低い傾向がよく見られます。
※過去のコラム「発達障害のグレーゾーンとは・私はどこにいけばいい?」
https://shohgaisha.com
その他の検査
①AQ(Autism Spectrum Quotient)自閉スペクトラム症指数:50項目の質問に、本人もしくは家族自身が回答するテストです。あくまで目安ですが、27項目以上当てはまれば、アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の線が非常に濃いです。ただし、AQはあくまで参考であり、確定診断を与えるものではありません。
②PFスタディ:このテストでは、欲求不満やストレスを与える場面にふきだしが描かれているイラストを使います。例えば、横断歩道を渡っている最中に車が飛び出してきたうえに、運転手が逆ギレし、文句を言われたとします。その理不尽な場面において、自分は何と言って対応するのかを、ふきだしに書きます。アスペルガー症候群等の場合、状況の理不尽さや意味合いを理解できるか、社会的常識から見て両極端な対応をするか、共感できるかどうかに着目します。
③ロールシャッハテスト:インクの染みの図が何に見えるかを答えます。アスペルガー症候群の場合、独特な着眼点やものの見え方の偏り等が見られます。
④アイズテスト:相手の目や表情を見て、相手はどんな気持ちでいるのかを答えます。
⑤社会常識テスト:社会的常識に関する文章を読んでもらい、偏った解釈をするかどうかを見ます。
アスペルガー症候群の診断と鑑別は非常に難しく、医師の間でも意見が割れます。発達障害を専門としない医師には、発達障害は子どもだけのもの、と考える方はいまだ多いです。そのため発達障害の専門医に診てもらうほうが、より確実な診断が可能です。発達障害の専門医は、お近くの発達障害者支援センターや保健所に相談すると紹介してもらえます。また、最近はインターネットで専門医を探し、問い合わせてみる方も増えています。ただし、心療内科や児童精神科の医療機関にもよりますが、受診予約は短くて1か月、長くて6か月以上待ちになることもあるので、予め電話等で確認してください。
まとめ
アスペルガー症候群の定義・診断・検査方法について、以下にまとめます。
・アスペルガー症候群は、①言葉の遅れがない、②知的障害を伴わない特徴に加え、①相互的な対人関係の障害や興味の限定、②想像力の障害や強いこだわり、その他感覚の特性や手の不器用さ等の特徴があります。
・ICD10やDSM5、ウィング3つ組が代表的な診断基準に利用されますが、アスペルガー症候群本人が、日常生活と社会生活に大きな生きづらさを抱えている場合に、障害と見なされます。
・代表的な検査方法は、言語性IQと動作性IQ+下位能力等を多面的に測定する、ウェクスラー式知能検査があります。
・アスペルガー症候群の場合、言語性IQと動作性IQ+下位能力の間に、大きな数値差(ディスクレパンシー)の特徴が確認できます。
・知能検査に留まらず、成育歴の聴き取りや様々な心理検査を用いて、アスペルガー症候群の特徴を探し、それ以外の病気や障害の可能性を除外することによって、より綿密な診断が可能となります。
・発達障害者支援センターや保健所等の専門機関に相談することで、発達障害の専門医の紹介や、必要な支援に繋がることができます。
アスペルガー症候群の方は、言葉もよく話せるうえに勉強もよくできるので、一見困っているようには見えません。しかし、多くの方は学校を卒業し、実際に社会人として働き始める時に初めて、人間関係を上手く築いていくスキルや雑務をこなすことにつまずきます。今までは勉強さえできていれば何とかやっていけていたのが、社会人では通用しなくなったことで、孤立や自信喪失、さいあく健康を損なってしまう問題があります。他の発達障害を持つ場合も、人間関係や日常生活において見えない困り感を抱えたまま大人になった方も少なくはありません。
アスペルガー症候群の確定診断に留まらず、一人一人が抱える生きづらさと向き合い、どうすれば活き活きと生活できるのかを共に考える姿勢が、専門家や本人の理解者に必要となります。
参考文献
・「こころのはなし・アスペルガー症候群」ハートクリニック
https://www.e-heartclinic.com
・「発達障害のグレーゾーンとは・私はどこにいけばいい?」障害者ドットコム
https://shohgaisha.com
・清水將之(2012)『子どもの精神医学ハンドブック第2版』日本評論社
・岡田尊司(2016)『アスペルガー症候群』幻冬舎新書
・上野一彦(2012)『大人のアスペルガーを知る本』アスペクト出版
・星野仁彦(2012)『発達障害を見過ごされる子ども、認めない親』幻冬舎新書
・洲鎌盛一(2013)『乳幼児の発達障害診療マニュアル、健診の診かた・発達の促しかた』医学書院
自閉症スペクトラム障害(ASD) アスペルガー症候群