愛着障害と発達障害は似ている?

発達障害 その他の障害・病気

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愛着障害とは、主に対人関係を築く行動パターン等において、持続的な問題や情緒不安定などを示す心理行動の問題です。大きな要因としては、虐待やネグレクト、不適切な養育等が挙げられます。愛着障害と発達障害は、外から見れば非常に似た症状を表します。それゆえに、愛着障害なのに発達障害と診断され、あるいはその逆で見落とされ、適切な支援に結びにくい問題があります。近年社会問題になっている児童虐待にも深く関係する愛着障害、発達障害との違いについて、私自身の話と一緒に紹介します。

愛着障害とは

①「抑制性型」愛着障害
一言で表すのであれば、心をすっかり閉ざしたタイプです。このタイプは、誰かに懐くこともなく、人間関係には非常に消極的です。感情表現も乏しいので、冷たく淡々として見えます。では、ただのクールな性格との違いは何でしょうか。抑制タイプの人は、「自分に優しく、親しみを寄せてくれる相手に対しても」、関わりを「過剰に回避する」傾向が強いです。

②「脱抑制型」愛着障害
一方、こちらは他者との距離感がないタイプです。このタイプは、誰に対してもすぐに懐き、馴れ馴れしく近づいてきます。ただ人懐っこい性格とは異なり、相手が「初対面のまったく見知らぬ人にも懐き」、平気でついていってしまうことが多いです。

では、何故「愛着障害」になるのでしょうか。

それを理解するために、まず「愛着」の話をします。愛着とは、「特定の人との間に結ばれる情緒的な絆」を指します。愛着は、自分を大切な存在として愛してくれる親や養育者から始まり、成長していくにつれて親以外の他者との関係へ発達していきます。

「愛着障害」は、親や大切な存在との間に絆が育まれずに、見捨てられ体験や自己否定などの「心の傷」を負った結果です。愛着障害になる背景には、社会問題にもなっている児童虐待から、親との早すぎる離別、愛情に欠けた養育、きょうだいからの暴力や差別、大切な存在の喪失や裏切りなどがあります。さらに学校や職場での「いじめ」も、自己肯定感や人間関係上の安心感を強く脅かします。愛着障害の人は、人間関係のトラブルや自己肯定感の低さ、情緒不安定、ストレス過敏症等を抱えやすく、さらにうつ病や不安障害、パーソナリティ障害などの精神疾患から、高血圧などの生活習慣病等のリスクが上がりやすくなります。

発達障害との違い

実は、発達障害と愛着障害は症状がよく似ているため間違われやすく、専門医でも区別するのは難しいです。また現実には発達障害の人が、二次障害の一つとして愛着障害も抱えていることは多く、適切な支援についても悩むところです。発達障害と愛着障害の相違点を、私自身の事例を交えながら、以下にまとめます。

事例①:小学校の頃、私は同級生に「土日、一緒に遊ぼう!」と誘われました。しかし、当時の私は乗り気ではありませんでした。私が断ろうとすると、同級生は「何で?土日何も用事ないのに、私達と遊ぶのが嫌なの?」、とつめ寄ってきました。私は言葉に一瞬詰まりましたが、最後まで誘いを断り続けました。

・「発達障害」の場合
自閉スペクトラム症の人が、友達付き合いを回避し、せっかくの誘いを断る理由には「自分の興味やこだわりを優先する」からです。私の場合、土日は特に用事も入っていなかったのですが、家で一人ゆっくりしながら趣味のマンガやゲームを楽しむつもりでした。同級生と一緒に遊ぶよりも、「趣味とこだわり」のほうが私の優先順位を占めていたのです。

・「抑制性愛着障害」の場合
愛着障害を抱える方は、親や人との関わりにおいて、見捨てられた、受け入れてもらなかったなどの「深い心の傷」を抱えています。もしも私が(抑制性)愛着障害の場合、遊びに誘ってくれた同級生にも「誰にも心を許さない」ことで、「傷つくことから自分を守る」ために、誘いを断るでしょう。

事例②:小学校時代の私は、基本一人遊びを好んでいました。しかし、大好きなウォーターパークに行くと、「一緒にプールで遊ぼう!」、と誰問わず声をかけていました。それこそ、同じ年の子どもから、自分より年下の幼稚園児、年上の中学生、高校生のお兄さん集団まで。しかし、当時の私は自分の好きな遊び方を提案し、一方的に話しかけていたため、途中でうんざりしてしまう人が多かったです。

・「発達障害」の場合
自閉スペクトラム症には、一方的な関わり方をするという「コミュニケーションの障害」や、相手の表情や雰囲気からうんざりされていることに気付かない「社会性の障害」などが目立ちます。この事例をADHD(注意欠如多動性障害)の視点で見る場合は、色々な人に後先考えずに声をかける、自分の好きな遊びをしたい!という気持ちが先走ってしまう「衝動性」が考えられます。

・「脱抑制性愛着障害」の場合
一緒に遊んでくれるのならば、誰にも見境なく声をかける点はこのタイプに当てはまります。私の場合、相手がうんざりした反応を見せてもそれに気付くことはできず、相手の都合や気持ちもおかまいなしでした。来るもの拒まず去る者追わず、でした。一方、(脱抑制性)愛着障害の方は、相手の顔色に敏感です。相手が少しでも拒否的な反応を見せれば、相手の気を引くために甘えてきたり、困らせるような行動をしたりします(意図的に)。このタイプは、来るもの拒まず去る者「引き留める」、といえるでしょう。

その他発達障害と愛着障害の相違点(参考資料に基づき)
・発達障害は生まれつきですが、愛着障害は養育・人間関係などの環境要因で生じます。
・発達障害(自閉スペクトラム症)と比べ、愛着障害のこだわりは弱く、より「柔軟性」があります。
・愛着障害には、発達障害に多い「運動が苦手」、「手先が不器用」があまり見られません。
・愛着障害は、適切な治療と支援を継続的に受ければ、大幅に改善しやすいです。自閉スペクトラム症等と比べると、コミュニケーションスキルの獲得に要する時間も短いです。
・一対一のやり取りはよくても、三人以上のやり取りが苦手なことについて。発達障害の場合は、三人以上で会話すると、内容や声などの情報量が増え、処理しきれないため「混乱する」からです。一方、愛着障害の方は、人との適切な距離感に課題を抱えます。大人数の会話についていけない、仲の良い存在が自分以外の人と仲良くしている状況に対し、情緒不安定になりやすく、疎外感などの「マイナスな感情」に強くとらわれやすいのです。

愛着障害と発達障害を越えて

「愛着」の形成に関しては、特に「生後8か月前後」の大切な時期に、その子が安心できる関わりをすることが大切です。ただし、関わる時期も大切ですが、子どもと関わる時間の長さよりも、「関わり方(質)」のほうが大切です。

私の母は仕事をしなければならなかったので、生後間もない私を保育所にずっと預けました。さらに、母が多忙、私は学校で不適応を起こしたことで海外に行っていたため、母と同じ空間で過ごした時間は少ないです。しかし、私は母のことを誰よりも信頼し、母に愛されているという自信と安心を持っています。理由は、関わった時間の長さよりも、母が常に「私が嬉しい時に一緒に喜び、私が悲しんでいる時は一緒に悲しみ、励ましてくれた関わり」が、私の心に強く残っているからです。また、母は私と一緒にいるときも、温かい言葉がけやスキンシップを欠かさなかったです。

授乳や抱っこなどのスキンシップや、目を合わせて優しく語りかけるなどのマメな関わりが、安定した愛着を育てます。子どもの気持ちや欲求を敏感に感じ取る、「感受性」の高さが大切です。ただし、親の中には感情表現の難しい方や、子どもの変化に敏感に反応しすぎて情緒不安定になる方もいます。しかし、子育ては「出来る限りで、ほどほどでよい」、と親と周囲がゆとりを持ち、子どもの「安心」を第一に関わることは、愛着障害の予防だけでなく、発達障害児の精神的安定にも影響します。
これは生物学的にも根拠があり、オキシトシンホルモンの分泌を促進します。オキシトシンとは、授乳やスキンシップ、受容的な関わりの中で分泌されやすく、主な効能は「精神的・身体的安定」から「人との関わりを楽しく感じる」、「ストレス耐性の向上」などがあります。最近は自閉スペクトラム症の子どもにオキシトシンを投与した結果、視線合わせや人との関わりが増えた(改善)という治療効果が紹介され、研究開発が進んでいます。

とはいえ、全ての親や養育者が子どもを愛し、適切な関わり方をできるわけではありません。さらに、家庭内不和や貧困、虐待体験、DV被害、病気や障害、心理的問題など、親自身が生きづらさを抱えていると、子どもの養育や関わり方で悩み苦しみ、あるいは不適切な対応をしてしまいます。さらに、育てやすい子どももいれば、親がどれほど努力しても育てにくい子どももいます。色々な子どもを親一人だけで育てるには限界があります。周囲は子育てをする親が孤立しないようにサポートし、専門の支援機関や子育ての悩みを共有できるコミュニティなどにつなげる必要があります。

まとめ

・愛着障害と発達障害は、「人間関係の困難」など類似した特徴があります。
・愛着障害は環境要因が強く適切な支援によって改善しやすいです。
・一方、発達障害は生まれつきのものであり、「人間関係の不器用さ」などが残りやすく、継続的な支援を必要とします。
・親や養育者など、「特定の人」とのスキンシップや情緒的な関わりなどは、「安定した愛着」を築きます。それは愛着障害の予防と発達障害を持つ方の問題行動の改善、安定にも繋がります。

その子ども・その人は、愛着障害だけか、それとも発達障害のみか、もしくはその両方を抱えているのかについて考える必要はあると思います。しかし、いずれも重要なのはその子どもの「特性を理解」し、当人が「自分はここにいていいのだ」、と安心できるように、周りが支援することだ、と思います。そして、子育てをする親を孤立させず、その人自身の安心を図ることも、間接的には子どもの安心に繋がります。

最後までご拝読ありがとうございました。

参考文献

・岡田尊司(2012)『発達障害と呼ばないで』幻冬舎

・岡田尊司(2016)『愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる』光文社新書

・星野仁彦(2011)『発達障害を見過ごされる子ども、認めない親』幻冬舎

*Misumi*

*Misumi*

自閉スペクトラム症のグレーゾーンにある、一見ごく普通のネコ好きです。10代の頃は海外と日本を行き来していました。それもあいまってか、自分ワールドにふけるのが、ライフワークの一つになっています。好きなものはネコ、マンガ、やわらかいもの、甘いもの、文章を書くこと。最近は精神保健福祉士を目指しながらコミュニケーションを学び、今後の自分について模索する心の旅人。

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