メンタルを安定させる栄養学~基礎知識編

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出典:Photo by Spencer Davis on Unsplash

日本のイメージのひとつとして「おいしくバリエーションに富んだ食事」というものがあります。

コンビニでさえも多種類の弁当やデザートを購入することができ、海外からの旅行者もコンビニの豊富な品揃えにおどろき、なかには複数の店舗をまわって買い物を楽しむ人もいます。

豊かな食生活を楽しんでいるはずなのに、日本人の多くは栄養不足に陥っているといわれています。しかも困ったことに、栄養が足りていないのにもかかわらずエネルギーは過剰な状態なのです。

しかも、その状態が「メンタルに悪影響をおよぼしている」と近年指摘されるようになりました。

エネルギーの過剰摂取と栄養不足、なにが問題?

エネルギー過剰の原因としてよく指摘されるのが、スーパーやコンビニなどで幅広く販売されているスナック菓子やカップ麺などの加工食品です。

これらには3つの共通点があります。「値段が安い」「手に入りやすい」「おいしい」こと。その反面、糖質や脂肪が多いため、エネルギーの過剰摂取につながりやすいのです。

生活費の節約だったり、仕事などの疲れからカップ麺や菓子パンだけの食事が増えると、肥満やメタボリックシンドローム、糖尿病になりやすくなることはよく知られています。

しかし、糖質を急激にとることで低血糖状態を起こし、うつ状態にもなりやすくなることについてはどうでしょうか。実は低血糖は心身をはげしく疲弊させるため、血糖値によっては不安状態を引き起こすのです。

さらに、低血糖状態を何度も繰り返すと、体にもストレスがかかります。

精神疾患のある方、とくにうつ病の方は知っておいて損はない知識だと思うのですが、あまり知られていないのが現状です。

つけ加えると、肥満があるとうつ病発症のリスクが高まることも知られていません。

メンタルに影響するもうひとつの理由、栄養不足についても説明します。

ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンなどの神経伝達物質が不足することで、感情や気分を調節する機能が低下し、うつ病になりやすいと昨今言われています。

神経伝達物質を産出したり、産出の補助をするのが必須栄養素であるため、偏った食事では栄養素が足りず、じゅうぶんに神経伝達物質の産出などができないのです。

栄養不足の原因としてよくあげられるのが、加工食品と精製された食品です。

精製された食品の代表として、白パン、白砂糖、白米などがあります。

これらにも加工食品同様に「値段が安い」「手に入りやすい」「おいしい」という共通点があるのですが、一部の食品は精製の過程でビタミンやミネラルなどの、必須栄養素が取り除かれるものが多いという欠点があります。

メンタルの安定に関連がある栄養素とは

1、ビタミン類

特にうつ病との関連が指摘されているのは、ビタミンB群のうちのひとつである葉酸です。

葉酸は、神経伝達物質の合成に必要な栄養素なのですが、健康な人と比較すると、うつ病患者は葉酸が不足しているという調査結果が出ています。

葉酸のほかにも、ビタミンDも脳機能を保つために必要な栄養素であり、うつ病、統合失調症、認知症などとの関連性を指摘されています。

ビタミンDは、合成のために適度に日光を浴びる必要があります。ここ数年コロナ禍で在宅勤務が増えて外出しなくなった結果、精神的にめいってしまう「コロナうつ」の人が増えたと話題になったこともありました。

「コロナうつ」の発生は、未知の病気への不安感や閉塞感の他にも、外出の機会の激減により、ビタミンDが合成されにくくなったのも要因のひとつかもしれません。

そのほか、葉酸以外のビタミンB群(ビタミンB1、2、12、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン)が不足しても、たんぱく質を脳の栄養や神経伝達物質の材料に変換しにくくなります。

ビタミンといえばビタミンCが真っ先に思い浮かぶ方も多いと思います。ビタミンCが不足すると、脳がストレスを受けやすくなるようです。


2、鉄や亜鉛などのミネラル

鉄は、神経伝達物質の算出や、脳を正常に機能させるために必要です。鉄が不足すると不眠や疲れやすさが出たり、前向きな気持ちになりにくくなるなど、うつ病発症のリスクが高まることが分かってきています。

ある調査では、鉄欠乏性貧血とうつ病やストレス症状との間に、関連性があることが認められました。

鉄のほか、亜鉛やマグネシウムなどの不足も、うつ病のリスクと関連しています。亜鉛が不足した状態が続くと、落ち込みやすくなったり不安感が高まることもあるようです。


3、必須アミノ酸

必須アミノ酸は神経伝達物質の原料として必要ですが、必須アミノ酸は体内で作れないので、食事から摂取する必要があります。

たとえばトリプトファンは、セロトニンの原料となる必須アミノ酸のひとつです。しかし、うつ病患者は健康な人とくらべると血中トリプトファン濃度が低下しているというデータもあります。


4、EPAとDHA

EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)は魚に多く含まれる脂肪酸です。特にこのふたつは、うつ病との関連を示す報告が数多くされている栄養素です。

例をひとつあげると、フィンランドの疫学研究では、魚をよく食べる人はそうでない人に比べ、うつ病の罹患率が低いと報告されています。

また、EPAやDHAの作用として「抗炎症作用により心身のバランスを整える」「DHAには酸化ストレスによる脳保護作用がある」などが近年わかりつつあります。

必須栄養素が豊富に含まれた食品

それでは、前の章でお話しした必須栄養素が、どのような食品から摂取できるのかをお話しします。

1、ビタミンB群

ビタミンB1が含まれている食品=豚肉、大豆、たらこ、うなぎなど。

ビタミンB2が含まれている食品=レバー(豚、牛)、鶏のハツ、干ししいたけ、アーモンドなど。

ビタミンB6が含まれている食品=にんにく、ピスタチオ、まぐろ赤身など。

ビタミンB12が含まれている食品=貝類(しじみ、あさり、はまぐり、牡蠣)、魚卵など。

ナイアシンが含まれている食品=たらこ(すけとうだら)、落花生、煮干し(かたくちいわし)など。

パントテン酸が含まれている食品=レバー類(牛、豚、鶏)、魚卵、納豆など。

葉酸が含まれている食品=主に葉物野菜(ブロッコリー、芽キャベツ、ほうれんそうなど)、枝豆、納豆、きな粉、レバー、のりなど。

なお、ビオチンについてはさまざまな食品に含まれているので、通常の食生活を送っているのであれば、それほど不足を心配しなくてもよいようです。


2、ビタミンCとビタミンD

ビタミンCが含まれている食品=パプリカ(赤)、キャベツ、ブロッコリー、さつまいもなど。

ビタミンDが含まれている食品=主にキノコ類、イワシ、サンマ、鮭など。特に含有量が多いのは鮭といわれています。

先の章でも少しお話ししましたが、ビタミンDの生成にあたっては、太陽光を浴びることも必要になります。

「日焼けしたくないから、日焼け止めを塗って日光浴をしたいけど、それでもビタミンDは作られるの?」と心配になる方もいるかと思いますが、どうぞご安心ください。日焼け止めはビタミンDの生成を阻害しません。


3、鉄(ミネラル)

鉄が含まれている食品は、主にレバー、牛の赤身肉、魚介類(赤貝、いわし、まぐろ、かつおなど)青菜類(ほうれん草、小松菜など)、豆類(レンズ豆、納豆、小豆、大豆)など。

ここで鉄の種類について、少し説明しておきます。鉄はヘム鉄と非ヘム鉄と大きくふたつにわけることができるのですが、そのうちヘム鉄は肉や魚の赤身に多く含まれ、人体への吸収率が10~30%と高めです。

一方の非ヘム鉄は野菜、穀類、豆類、海藻類に含まれ、人体への吸収率は5%とやや低め。しかし、ビタミンCや動物性たんぱく質と一緒に摂取すると、吸収率が高まります。

もっとも「非ヘム鉄よりヘム鉄の方がたくさん吸収されるから、肉か魚だけ食べておけばよい」というものではありません。2種類の鉄分をバランスよく取るようにしましょう。


4、亜鉛(ミネラル)

亜鉛が含まれている食品=主に牡蠣、ウナギ、牛肉、レバー、大豆製品など。


5、マグネシウム(ミネラル)

マグネシウムが含まれている食品=主に海藻類、コーヒー、ココア類、ゴマなど。


6、トリプトファン(必須アミノ酸)

トリプトファンが多く含まれている食品=主に肉、魚、乳製品、ナッツ、大豆製品、卵、バナナなど。


7、EPAとDHA

EPAやDHAは中性脂肪の値を下げることがよく知られていますので、どのような食品に含まれているかご存じかもしれませんが、念のため記載しておきましょう。

EPAやDHAは、主に青魚(イワシ、サバ、サンマなど)に含まれています。


ここまで必須栄養素の取れる食品を紹介して来ましたが、注意点がいくつかあります。

まず、ビタミンB群は水溶性ビタミンであり、特に葉酸は調理中に失われることが非常に多い栄養素です。また鉄と亜鉛に関しても、食事から必要量を取ることがむずかしいときもあります。

したがって葉酸、鉄、亜鉛については、サプリメントを補助的に利用することも検討してみてください。

最後に、すぐにできる簡単なお食事の工夫をご紹介します。

たとえば「朝は忙しいので、朝食はパンとコーヒーだけで済ませる」という人は多いでしょう。しかし、食事の内容を見てみると、糖質にかたよっています。これでは、バランスのいい食事とはいえません。

そこでチーズ、ヨーグルト、バナナなどをどれか1品プラスすることで、トリプトファンを摂取することができます。余裕があるときはゆで卵をつけるのもいいでしょう。

コーヒーではなくカフェ・ラテを好む方は、豆乳を使ってソイ・ラテにしてみるのもおすすめです。

和食の朝食をとるのであれば、サバやイワシの缶詰をご飯のお供にする方法もあります。焼きのりや納豆を食事につける方が、簡単かも知れません。

また野菜については、シリコンスチーマーなどの少量の水と野菜をいれてレンジにかけて加熱する、便利ツールを活用してみて下さい。手間いらずで栄養の流出を最小限にした、ホットサラダが作れます。

必須栄養素を摂ることと同じくらい、エネルギー過剰な食事を避けることは大事なことです。体調が悪く調理が難しいときだけカップラーメンを使うなど、インスタント食品中心の食事は、できるだけ控えた方が無難です。

うつ病に代表される精神疾患の治療は、服薬が中心です。日々の正しい服薬に加えて、食事からもメンタルの安定に関連する栄養素を摂ることで、症状の軽快や体調安定につなげていきましょう。


【心の健康にも食事は大切!メンタルヘルスと栄養の関係】
https://kenko.sawai.co.jp

【食生活とメンタルヘルス】
https://www.shaho-net.co.jp/kokoromokaradamo

【ビタミンDと精神疾患について】
https://www.cocorone-clinic.com

【【医師解説】低血糖でうつやパニック?糖質の摂りすぎが招く危険症状と6つの改善策|チェックリスト付】
https://wellmethod.jp

【ビタミンCの働きと1日に摂取する目安量は?ビタミンCを多く含む食品も紹介】
https://www.morinaga.co.jp/protein

【ビタミンB群を豊富に含む食べ物は?それぞれの食事基準や作用も解説】
https://medipalette.lotte.co.jp

オランプ

オランプ

長年にわたってうつ病で苦しみながらも病気を隠して働き続け、40歳になる前にやっと病気をオープンにして就労したものの生きることのしんどさや職場でのトラブルは軽減されず。実はうつ病の裏に隠れていたものはADHDであり、更に気が付けばうつ病も病名が双極性障害に変化。これだけ色々発覚したので、そろそろ一周回って面白い才能の1つでも発見されないかなーと思っているお気楽なアラフォー。
実は自分自身をモデルにして小説を書いてみたいけど勇気がない。

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