闘う車椅子「ラグ車」と、それを支えるメカニックたち

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「車いすラグビー」は数ある車椅子パラスポーツの中で、唯一「ぶつかり合い」が認められています。その特性上、車椅子同士が衝突するシーンも珍しくありません。

白熱のぶつかり合いが許されるためには、競技に使われる車椅子にも相応の性能が求められます。俗に「ラグ車」と呼ばれるラグビー用の車椅子には、ぶつかり合いを前提とした様々な工夫が施されており、「マーダーボール」「車椅子の格闘技」を直接盛り上げ支えています。

まず、ラグ車はコンパクトな「オフェンス用」と、前面にバンパーのついた「ディフェンス用」の2種類があり、役割分担がハッキリとしています。ディフェンダーはバンパーを盾にぶつかればいいというものではなく、ルール上では「車輪より後ろにぶつかってはいけない」と決められています。それでも車輪にぶつかってしまうことはあるので、車輪には頑丈なスポークガードを取り付けるのですが、ただ頑丈なら良いのではなく競技の邪魔にならないよう軽量化にも気を遣わねばなりません。

ラグ車は小回りが利き、360度どこへでも瞬時に方向転換できます。ラグ車のクイックな動きと豪快なぶつかり合い、選手たちの頭脳戦や心理戦、相反する要素もまた車いすラグビーを盛り上げる要素といえるでしょう。とはいえ、見せ場となるのはディフェンスの駆け引き。トライを決めたときよりも、ディフェンスを成功させたときの方が選手にとって嬉しい瞬間であるといわれています。

車いすラグビーを盛り上げるのは選手だけではありません。ラグ車の手入れや選手の介助を行うメカニックもまた協議に不可欠なメンバーです。競技中の選手は転倒することも少なくないですが、その復帰はかなり洗練されています。まず倒れた選手は車椅子ごと仰向けの状態となって待ち、介助スタッフは車輪を受けるマットを敷いてから選手を助け起こします。その作業は非常に手際が良く、転倒した選手が復帰するまでほとんど時間はかかりません。

練習中でも競技中でもラグ車はしばしばパンクに見舞われ、メカニックにとって最大の出番となります。試合中、ラグ車を修理できる持ち時間はわずか1分ですが、その1分間でタイヤの交換だけならスムーズに出来ます。パンクしたタイヤは捨てずに、ベンチで直して再度使えるようにします。なお、1分以内に交換できないと判断して選手ごとベンチに退避する場合もあります。

パンクは仕方ないにせよ、他のトラブルがラグ車に起こらないのはメカニックによる日頃のメンテナンスが功を奏しているからです。選手が全力を出せるよう、ミリ単位の調整で最適な漕ぎ心地を守っているそうです。海外などへ遠征する時は真っ先に会場入りし、競技場となるコートの状況と、ラグ車を置く倉庫から会場までのアクセスを入念に確認します。選手が競技に集中するため、メカニックも陰に陽に活躍している訳ですね。

車いすラグビーの選手たちが文字通り本気でぶつかり合えるのは、接触戦を見据えた構造を持つ「ラグ車」と、それを多角的に支える「メカニック」たちのお陰です。過去の試合もネットで配信されていますので、一度見てみるといいかもしれません。


参考サイト

三井不動産2023ワールド車いすラグビー アジア・オセアニアチャンピオンシップ 決勝戦
https://www.youtube.com

世界一のチームを支える車いすラグビー日本代表メカニックはミスから技術を磨いた
https://sportiva.shueisha.co.jp

車いすラグビー日本代表選手の使用したラグ車のスポークガードに信州大学の研究成果が
https://www.shinshu-u.ac.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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