失敗を許さない社会を変えたい~元警察官が福祉の現場でたどり着いた答え
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京都市伏見区でA型事業所を運営するNPO法人「ENDEAVOR EVOLUTION」の個性は、本気で社会へ送り出したいという意思です。それは決して画餅や絵空事ではなく、京都新聞福祉賞を受賞するなどさまざまな実績を得ながら、地域でやり直していくことの大切さを発信し続けています。

ベースは福祉・教育
──元々社会福祉を学ばれていたようですね
「父が刑務所の職員をしていて少年院とも繋がりがあったんです。当時は排除の理念という、刑務所に送れば地域が静かになるという考え方があって、それを疑問に思っていました。地域で生きていくことが大切ではないかと思い、佛教大学で福祉と教育と心理学を学び教職免許も取りました。なので福祉と教育が自分の基底にあります」
──警察官を志した経緯はなんですか
「元々警察のことは嫌いでした。大学の頃は失敗を許さない社会を変えるのが大事だと説いては無視されてきましたが、ある時京都府警察少年課の係長だという方を紹介され、彼に話を聞きに行くよう勧められました。その係長さんは初対面の学生の長話を嫌な顔一つせず聞いてくれて、あのような少年課刑事になりたいと思うようになり、警察官になりました。警察学校では不満は多かったですが、少年課の刑事になりたい一心で取り組み、京都で最も事件が多いという伏見へ配属となりました。しかし人間関係を作るのも更生を促すのも許されず、自分は何をしているのかと悩んだものです」
「ある日、知的障害の方が捕まりました。当時は知的障害者について何も知らず、言われるがまま作業所へ事情聴取に行くと、色々な方が一生懸命楽しそうに作業している様子が目に入ったんです。少年院を出た子の居場所がないものかと考えていたのもあって、こういう職員をやりたいと思うようになりました。困っている人が活躍できる居場所を地域に作りたいと言いましたが、周囲はまともに聞いてくれず、自分の意思を貫いて警察を辞めて福祉の道へ進みました」

──作業所立ち上げの経緯を教えてください
「社会福祉法人も無認可も、いい所はあれど納得できるスタイルではありません。障害者の多くが働いて給料を得たいというのに、施設側は居場所として作業させればいいという考えが多いんです。そこでリネン会社と縁あって、2007年に起業します。立ち上げた時から、B型からA型、A型から施設外就労、施設外から一般職というロードマップを意識していました。前科があってもやり直したい人、引きこもりで外に出られない人、色々困っている人をミックスしたい。訓練等給付費の対象かどうかよりも大事なものが地域にはあります」
「運営の傍らで講演に呼ばれることも多く、2012年に府議会議員から経営者セミナーに呼ばれた時のことです。物凄くパワーのある社長さんが質問の末『うちと一緒にやってくれ』『著書50冊全部買うわ。職員に読ませるから』『明日見学に来てくれ』とアクションをかけてくださいました。伺うと『我が社は大きくなったことで社会貢献せねばならない』『障害者の働く姿を通じて襟を正す必要がある』と言われ、空箱センターの作業に興味があると伝えたら今の施設外就労の基となる契約を勧められました。やがて『建屋の全部をやってくれ』と言われて、戸惑いはしましたが同時に色々な企業さんと繋がって最低賃金以上の給料も出せるのではないかと思い、提案に乗って2014年に新たな事業を始めました。A型から施設外就労への道が形成され、2015年に今の会社となっています」
苦楽を共にするのも事業長のつとめ

──A型の平均月給10万に対して貴社は17万出ていますね
「その差は実働時間によるものでしょう。うちは1日6~8時間働くので、そのぶん手取り月15万くらいはいくわけで、そこから自立へのシステムを作るのは最初からブレずに続けていることです。軽度障害ばかりではなく色々な方がいて、トラブルや問題もありますが、人間なので色々あって当たり前だし、それに寄り添うのが福祉の仕事。仕事は手段であり、目的は彼らの自立と幸福です。そのためには仕事を手段として色々学んでもらい、苦楽を共にし時には叱ったり宥めたり、共に学び合い育ち合うのがA型事業所の醍醐味ではないでしょうか」
「どんな相談でもすぐ受けて解決できるようにしています。誰でも生活が崩れたら仕事できませんよね?困っていたら手を差し伸べるのは当然で、17時過ぎたら終わりではないんです」
──利用者は頑張りすぎることなくついて行けていますか
「肝心なのはしんどいことを乗り越えた後の達成感や報酬です。頑張ったぶんお金や評価がついてくると、また頑張ろうと思えるじゃないですか。お金だけポンと貰っても大事に使わないじゃないですか。自分で働いたお金だからこそ大事に使うし、そうでなくても使い方を教えてもらうんです。お金の使い方を一緒に考えるのもまた支援ですよね」

──具体的にうまくいったエピソードはありますか
「精神障害には色々なことがあって、どこにあるか分からないスイッチを探すのも仕事のうちです。過去に、大卒で全く仕事の出来ていない方がいました。返事は良くても全然仕事を覚えない。ある時『もしかして怒られてると思ってた?怒ってるんじゃないよ』と言ったら、『えっ、怒ってなかったんですか?』と翌日から人が変わったように仕事しだすようになったんです。彼は父親からずっと怒られ否定され続けていて、話をシャットアウトする癖が自衛として染みついていたんですね。それが『怒られているのではなく教えてもらっている』と気付いた途端、別人のようになりました。一度も戻らなかった実家に帰り、親との関係も修復までしたんです。このように本音の部分を探していくのは、一緒に過ごして苦楽を共にすることでしか掴めないので、1日2時間は毎日一緒に作業に入っています」
「彼らには吸収し成長する力があり、ただ環境が無かっただけです。環境さえ合えば人間は必ず成長できます。ただ、精神障害の方には波があり、ちょっとしたことで大きく落ち込みます。その時にフォローできる仕組みが無いと、一般企業に行ったところで1年も持ちません。企業に就職するのも大事ですが、それが全てではなく、その人なりに一生懸命生きて誇りを持てば素晴らしいと思うし、共に喜び合い成長し合えるのが福祉の仕事だと感じています。大変とかしんどいとか一度も思ったことはないですね」
──元警察官としての経験や人脈は活かせていますか
「障害者が犯罪に巻き込まれたり犯罪を犯してしまったりしたとき、即座に動くのが自分の役割です。チームで彼らを守らないといけないんですよ。もし有罪を受けたとしてどう処遇するか裁判所に聞かれると、『うちにはこういう支援があり保護司の支援もあるので、一回うちで更生させてください』と言います。ただ、障害者だから大目に見るなんて言動は認めません。犯罪と分かってやった以上は、けじめをつけて罰せられることも教えねばなりませんからね。問題を起こしたから見放すのではなく、やったことは戻らないけどやり直しは何度でも出来るという考えでやっています」
やり直せる価値観を一般層にも

──今後のビジョンはありますか
「一つはもう60歳近いので跡継ぎのこと、もう一つは我々のスタイルを全国に伝えていくことです。色々な賞を賜り講演にも呼んでいただきましたが、福祉以外の分野とも繋がっていく為の活動も始めています。福祉に留まらない一般のネットワークを作ること、一生懸命生きて頑張る姿を理解されることが共生社会の形ではないでしょうか」
「創業者というのは個人的な思いがあり、引き継ぐ人がそれをコピーすることは出来ません。真髄は引き継いでも、残りのことは残った人で考える必要があります。自分の生き写しを作るのではなく、引き継いだ後の仕組みづくりを皆が納得できる形でやっていけたらいいなと思います」
「事業所を増やしてはどうかとよく勧められますが、そうしません。ここで育った人が自立して出ていき、また新しい人が入っていく循環型として考えており、定員は20名のまま変わりません。別のB型や生活介護と連携して支援をつないでいくのが自分たちのスタイルです。極めるとしたらA型としての在り方、他は信頼できる方と連携していきます」
──共生についてメッセージをお願いします
「高校生の頃から爪弾きやスティグマへの違和感を持っていました。非行少年でも引きこもりでも、頑張りたい人はおり、彼らが頑張れる場所が必要です。人生には色々な通過点があり、それを一緒に探しながら課題も乗り越え、最終的に『生まれてきてよかった』『やり直せる』が共有できる社会になれば良いなと感じています」
NPO法人ENDEAVOR EVOLUTION
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