発達障害のある子どもが薬を飲んでも大丈夫?〜コンサータ、ストラテラの効能と副作用のまとめ
発達障害発達障害のある子どもが日常生活を安心して過ごせるように、医療機関は薬を処方することがあります。ADHDの症状を和らげる薬として、コンサータやストラテラが代表です。2017年には、インチュニブという新薬も出ました。とはいえ、親御さんとしては、子どもが薬を飲むことや副作用について不安も大きいと思います。発達障害のある子どもが飲むコンサータやストラテラの効能と副作用について教えます。
発達障害のある子どもが薬を飲むこと
発達障害の症状が重く、周囲や本人が工夫しても日常生活に困難を感じている場合、薬が処方されることもあります。ただし、薬はあくまで発達障害の症状を一時的に和らげ、本人が日常生活を過ごしやすくするための補助です。コンサータとストラテラの本題に入る前に、まずは発達障害(ADHD)の脳の仕組みを簡単に説明します。薬の効果と仕組みをより理解しやすくなるためです。
発達障害のある子どもの脳で起こっていること〜ADHDの場合〜
発達障害のある子ども・人の脳で何が起こっているのか、全てが解明されているわけではありません。現時点の通説として、ADHD(注意欠陥多動性障害)では、ドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の不足や、前頭葉の働きが弱いという報告があります。ドーパミンは、意欲や学習、快感などに関与し、脳を活性化させます。ノルアドレナリンは、脳と体の覚醒を促す興奮交感神経に働きかけます。前頭葉は、思考や集中力、感情や運動のコントロールなどに関与します。ADHDでは、これら脳機能の一部が上手く働かないことから、不注意や多動、衝動性が生じると考えられます。さらに、特にADHD等の発達障害の場合、脳の神経細胞にあるトランスポーターという機能が、ドーパミンやノルアドレナリンを過剰に取り込むことも報告されています。そうなると、脳内に流れる神経伝達物質の量が不足し、ドーパミンやノルアドレナリンがもたらす意欲や学習、集中力が低下するのです。
回転ずしを例にあげると、色々な種類のお寿司がまんべんなくコンベアーで回っている状態を、脳の働きが良い状態に置き換えます。しかし、お客さん(トランスポーター)が看板メニューであるドーパミン寿司ばかり食べ過ぎることで、コンベアーの上にドーパミン寿司がなくなってしまい、回転寿司としては活気がなくなってしまうのと似ています。
それでは、コンサータとストラテラは、発達障害のある子ども・人の脳にどう作用するのでしょうか。
コンサータの効果と副作用
コンサータ錠は、メチルフェニデート塩酸塩の一種で、主にADHDに処方されます。ADHDの症状の内、特に不注意に効果的だと言われています。服薬回数は、朝に1日1回。初回の服薬量は、子どもと大人ともに18mgからです。それ以降は、一週間の間隔をあげながら、必要に応じて増量していきます。
効果
主にドーパミンに働きかけ、ノルアドレナリンにも関与します。回転ずしの例に戻ると、お客さん(トランスポーター)に対し、ドーパミン寿司を取る制限ルール(コンサータ)を設けることで、コンベアーからドーパミン寿司が消えることを防ぎます。
副作用
交感神経を促進するので、人によっては食欲低下や体重減少、不眠、チックの悪化が出ることがあります。特に食欲低下は30%〜50%に見られる、と報告されています。めまいや眠気、目のかすみを訴える場合、自転車に乗ることは避けたほうがいいです。さらに、ごくまれにですが、筋肉の強いこわばりや高熱などの悪性症候群や、重いアレルギー症状が出るケースもあります。この場合は、服薬を中止し、すぐに医療機関を受診してください。
服薬のポイント
主治医との相談や子どもの様子を見ながら、服薬量を調整します。日常生活を妨げないために、休薬日を定めて調整もします。継続して服用する場合、医療機関で定期的に血液検査を受けます。副作用の問題の他、血中濃度にも問題はないかを確認するためです。前述した代表的な副作用や重篤なもの以外にも、気になる症状や心配があれば、自己判断をせずに、まずは医療機関に相談してください。
メリット
個人差もありますが、3回ほどの服薬で効果を確認しやすいです。※リタリンと比べると、効果はゆるやかで副作用や依存のリスクが少ないです。
※リタリンもメチルフェニデート塩酸塩の一種ですが、一時期は乱用や依存性の強さが問題となりました。現在は、認定医による慎重な処方しか許されていません。
デメリット
効果は10時間〜12時間しか続かず、夕方には薬効が切れます。回転ずしの例で言うのならば、ドーパミン寿司を食べる数の制限ルールが夕方には解除されてしまい、ドーパミン寿司が再び消えてしまうということです。リタリンほどではありませんが、他の薬と比べると副作用や依存性は出やすいです。とはいえ、医師の指示に従って正しく服用すれば、薬物依存や副作用の悪影響はほぼ防げる、と言われています。
ストラテラの効果と副作用
ストラテラは、アトモキセチン塩酸塩の一種で、こちらもADHDによく処方されます。不注意や多動性、衝動性を含む症状全体を改善します。服薬回数は子どもの場合、朝と夕方の1日2回、大人の場合は朝1日1回です。初回服用において、子どもは体重に応じて一日あたり0.5mg/kgから、大人は40mg/から始め、その後の様子に応じて量を調整します。
効果
主にノルアドレナリンを増やし、神経伝達物質が脳内で上手く流れるように調節します。こちらは、ノルアドレナリン寿司を取られ過ぎないようにする他、コンベアーの動きと流れを整えてくれるようなものです。
副作用
服薬開始や増量時に、頭痛や食欲低下、吐き気、眠気、ふわふわ浮くようなめまいなどを覚えることがあります。こちらも、眠気やめまいが強い場合、自転車に乗ると危険なので避けたほうがいいです。ごくまれにですが、重いアレルギー反応や黄疸などから生じる全身倦怠感などの重い症状が出る方もいます。この場合も、服薬を中止し、すぐに医療機関を受診してください。これら以外の症状が出た場合や心配ごとがあれば、すぐに主治医または薬剤師に相談しましょう。
メリット
薬の効果が緩やかで、24時間持続します。コンサータと比べると副作用は出にくく、出ても軽いか2〜3日で治まります。カプセルと液剤を選べますので、小さな子どもにも飲みやすいです。2018年8月には、ストラテラのジェネリック薬品も販売され、値段も安くなったので入手しやすくなりました。
デメリット
効果が表れるまでに1〜2か月ほど時間がかかります。コンサータと比べると、効果はゆるやかなので弱い、物足りないと感じる方もいます。
まとめ
発達障害の治療薬であるコンサータとストラテラ、薬を飲む際のポイントについて、以下にまとめます。
薬を飲むポイントQ&A
Q:コンサータやストラテラの効果や副作用が一番心配です。
A:発達障害の治療薬とその服用について、少しでも気になることがあれば、すぐに主治医もしくは薬剤師などの専門家に相談してみてください。適切な量と飲み方を守れば、服薬による危険はほぼ防げます。
Q:薬を飲めば、発達障害は治りますか
A:治療薬の役割は、発達障害のある子ども・人が日常生活を送りやすくするための補助です。発達障害そのものを根治する薬ではないので、ご了承ください。
Q:食欲低下や不眠の副作用が出ると、子どもの健康状態と発達が心配です
A:朝食を多めに食べてから薬を飲む、遅めの夕食や夜食を作るなどによって、栄養が不足しないように工夫してみましょう。必要であれば、医師から胃炎治療薬を処方してもらうこともできます。不眠に対しては、朝早めの時間に服薬することで改善しやすいです。なお、コンサータを飲んでも睡眠の質は下がりません。
Q:薬はいつまでのみ続けるのですか
A:ADHDの症状が落ち着き、日常生活をそれなりに上手く送れるようになった頃、徐々に量を減らし、必要に応じて断薬します。個人差はありますが、幼少期から治療を開始した場合、高校生頃に服薬は必要なくなることが多いです。
Q:薬を飲むだけで、発達障害の症状や日常生活の困りごとは解決しますか
A:発達障害の症状や困りごとは、薬を飲むだけで改善されるわけではありません。薬物療法のみに留まらず、ペアレントトレーニングやSST(ソーシャルスキルトレーニング)、環境調整を組み合わせてみましょう。それによって、ADHD等の発達障害に悩まされている子どもが、落ち着いて日常生活を送り、学校で学ぶことを支援します。
いかがでしたか。発達障害の治療薬は、適切な量と飲み方をきちんと守れば、本人が安心して日常生活を送りやすくするのに有効な補助具となります。発達障害の症状を少しでも和らげることによって、成長期の子どもが安心と自信をもって学び、成長し、自己対処能力を身に付けていくことにも繋がります。
発達障害の我が子、もしくは発達障害のある大人で、努力や工夫だけでは症状が中々落ち着かずに困っている方は、まずは医師や薬剤師に相談してみることをおすすめします。
参考文献
・「コンサータ錠・患者向け医薬品ガイド」独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
http://www.info.pmda.go.jp
・「ストラテラカプセル」くすりのしおり
http://www.rad-ar.or.jp
・「ADHDは薬物治療で治る?薬の種類と特徴」Medical Note
https://medicalnote.jp
・「ストラテラ」『ジェネリック医薬品4成分13 品目の製造販売承認取得』ニプロ株式会社
https://www.nipro.co.jp
・「マンガで分かるADHD・注意欠如多動症4回:ADHDの原因と治療!」マンガで分かる心療内科・精神科in池袋
https://yuk2.net
・「注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療薬解説」日経メディカル
https://medical.nikkeibp.co.jp
注意欠陥多動性障害(ADHD)