発達障害と補完代替療法~治るという単語を信じてはならない
発達障害子どものうちに発達障害の診断が下りると、「どうしよう…」となる親御さんは少なくないです。大人になってから診断された場合は、親も本人も「生きづらさの原因が特定できた」と安心する場合が多いのですけれども。子どもの時に診断されるとどうしても将来の不透明性から不安に駆られてしまうものです。
不安に苛まれた親の中には「発達障害を”治す”ッッッ!」と言われる方法(大抵が補完代替療法)を試そうとする人もいるでしょう。ですが、「傾向を抑える」ならまだしも「治すッッッ!」と大々的に宣伝している場合は、どうか焦らず「眉唾物」として精査して頂きたいのです。
個人的には「治す」という単語を使った時点で宣伝としては「負け」だと思うのですが。
アメリカ食品医薬品局(FDA)からもダメ出しを食らう
アメリカ政府機関である食品医薬品局(以下FDA)は、「発達障害を治す方法は無い」という前提のもとで以下の旨を提言しています。
・「すぐに治る」「何でも治す」という主張は信じがたい。
・個人の体験談は科学的根拠にならない。
・「大発見」「秘密」「奇跡」という大袈裟な単語は信じがたい。
FDAが「発達障害と関係ない」と実際にダメ出しした補完代替医療には、「キュレーション療法」「高気圧酸素療法」が挙げられています。前者は鉛中毒患者、後者は減圧症に向けた治療法なので、発達障害を治すために行うのは本来の目的から逸脱した行為といえます。また、補完代替医療は多くが保険の対象外なので、費用も莫大なものとなります。不確かのレベルを超越したものに巨額の財産を投じるのは狂気の沙汰でしかありません。
それを「よかれと思って」と言うんです
「発達障害を治す」という謳い文句を持ち掛ける人間には2つのタイプがあります。ひとつは発達障害の子を持つ親の不安に付け込んだアコギなタイプで、FDAなどの公的機関からダメ出しを食らうこともあります。
もうひとつは、あくまでも善意で「よかれと思って」勧めるタイプの人間です。親戚や知人など近しい関係の者に多く、純粋な善意でもって勧めるために却って断りづらくなります。
Twitterで見かけた事例ですと、親戚から勧められたクリニックらしき所でトラブルにあった方がいます。投稿者は紹介されたクリニックらしき所へ新幹線を使ってまで行きました。そこで何時間も待たされて担当者に面会できたのですが、担当者は投稿者の子どもの脈を計るなり「この子の自閉症は治ります!」と宣言し漢方薬など多様かつ無関係な代替医療を勧めてきます。投稿者は遠方から来ていたのと長く待たされていたのとがあったため、思考が鈍り言われるがまま受け始めてしまいます。帰ってから思考力を取り戻した投稿者は、未だ信じ込んでいる夫を説得して代替医療を1ヶ月限りで断ち切りました。後にそのクリニックらしき所は閉鎖されたようです。
「不安に付け込む」よこしまな宣伝を「よかれと思って」紹介してしまうハイブリッドな事例でした。
「通常医療」になるチャンスも…?
代替医療の対義語として「通常医療」がございます。正当な根拠が医学界で認められている由緒正しい医療手段で、病院で正しく受ける医療手段でもあります。多くの人に効果があるという科学的な根拠があり、大掛かりなものでなければ保険の対象にもなる、極めて汎用性と信頼性に富んだ医療手段です。裏を返せば代替医療は効果・費用・科学的根拠のいずれかに課題が残っているといえます。ちなみに、代替医療の基準は国によって微妙に異なっており、東アジアでは通常医療でも処方される漢方薬が欧米では代替医療扱いされているなどの地域差があります。
しかし、今は代替医療でも科学的・医学的な根拠と信頼を得られれば、通常医療として格上げされる可能性があります。医学界では様々な発明や実験が繰り返されており、気合のある所では実際の患者に協力してもらうことさえあります。根拠と信頼を集めようと努力している研究についてご紹介しましょう。
①ADHDに働きかけるゲームアプリ「AKL-T01」
ADHDを持つ児童に対し、前頭前野を使うことで症状を改善するゲームアプリ「AKL-T01」がアメリカの企業で開発されています。治療法の有効性を問う「ピボタル試験」を既に突破しており、現在はFDAへ承認申請をしている段階です。日本の導入に際しては、塩野義製薬(シオノギ製薬)が国内での販売権を獲得していますので、輸入の準備は整っています。あとは認可待ちですね。
ASDの児童に向けた「AKL-T02」の開発も進んでおり、こちらは臨床実験を重ねている段階だそうです。
②「便移植」で腸から自閉症を改善する
アリゾナ州大学の研究チームでは、「ASD児童は消化器系の問題も抱えていることが多い」という点に着目し、健康な人の腸内雑菌を移植する「便移植」でのアプローチを真剣に考えています。
研究チームは7歳から16歳の自閉症児を対象に、10週かけて便移植を行いました。その結果、対象者の8割が腸内環境を改善させ、その中で自閉症そのものにも改善が見られる児童が出ました。改善した児童は2年後も良い状態を保っており、自閉症の評価も重度から中度以上へ改善される児童さえいました。
この方法は未だ発展途上にあり、もしかしたら通常医療にはなれないかもしれません。しかし、脳と腸の関係性という切り口から自閉症の改善へアプローチしていく試みは大いに評価されるべきです。
まとめ
子どもに発達障害の診断が下りると、不安に駆られる親は多いです。「発達障害を治す」という謳い文句は、そうした不安に付け込む悪しき誘惑として断罪しましょう。米政府機関のFDAが出した声明のほうが格段に高い信頼性を持っています。
しかし、代替医療の中には通常医療として認められるべく、医学的な根拠と信頼を得ようと努力している研究もあります。現にゲームアプリや便移植といった特異なアプローチから発達障害に向き合える可能性が示唆された段階です。もしかしたら食事療法なども真面目に研究されるかもしれません。
無意味と蔑まれていた療法が通常医療にまでなる可能性はあります。ただ、そのシンデレラストーリーを紡ぐのは一般人でなく、医科学に精通し正しく統計のできる研究者の役割であることは忘れないでください。
参考文献
発達障害を「治す」偽りの方法に注意 – 発達障害ニュースのたーとるうぃず
https://www.turtlewiz.jp
「ゲームで発達障害を治療」塩野義製薬が「デジタル薬」アプリ開発への参入を発表
https://www.huffingtonpost.jp
発達障害を食事やミネラルで改善しましょうというお話には気をつけて(成田崇信)- 個人 – Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp
「便移植」で重度の自閉症の子が47パーセント減 – 発達障害ニュースのたーとるうぃず
https://www.turtlewiz.jp
注意欠陥多動性障害(ADHD) 自閉症スペクトラム障害(ASD)