「親離れ・子離れ」について最後の特別授業!?『旅立つ息子へ』、『都立西高校3年生』と
エンタメ 暮らし3月9日に卒業式を迎えたばかりの高校3年生と保護者が集まった教室で、特別授業のゲストである『旅立つ息子へ』脚本家ダナ・イディシス(以下「ダナ」)、ウリ役の俳優ノアム・インベル(以下「ノアム」)がスクリーンに登場。イスラエルとZOOMで繋がって会話する興奮を滲ませながら、本授業にあたり事前に映画を鑑賞した生徒たち・親たちによるゲストへのQ&Aがスタートしました。
生徒たち・親たちとダナ・ノアムによるQ&A
生徒「自閉症を抱えたウリは、ダナさんご自身の弟さんがモデルですね。ダナさんは弟さんの性質をどのように受け止めていらしたのですか?」 ダナ「仰る通り、これは私の父と弟の関係をモデルに書いた脚本です。いずれ来るであろう2人の未来を予見しながら、また畏れながら書いたんです。弟は4人兄弟の末っ子で、皆とても彼を可愛がり、守ろうという気持ちでした。彼のコミュニケーションは一般の人と違うので、私たちは外の世界との橋渡し役でした。監督のニル・ベルグマンも弟を10歳の頃から彼を知っているので、この映画には監督から見た父と弟の姿も反映されていると思います。」
保護者「親離れ、子離れの普遍的な気持ちが丁寧に描かれていました。私自身も2人子育てをしているので、アハロンの親としての色々な苦労が報われたような笑顔にはとても感動しました。なぜ本作は、母親との別離などがあった後の、ウリがある程度大人になってからのストーリーにしたのでしょう?」
ダナ「大きく環境が変化した出来事を描くよりも、父と息子の間の細やかなやり取りにフォーカスした方が、2人が”シャボン玉の泡の中”に入っているような、現実から離れたような特別な関係性が際立つと思ったんです。」
生徒「卒業式の翌日に観たので、親元を離れていくウリの姿が自分と重なりました。ノアムさんは、役作りにおける歩き方や立ち居振る舞いの研究はどのように行ったのですか?」
ノアム「父が、自閉症の子たちを預かる施設に勤めていたので、小さい頃からそういった子たちと関わりを持っていました。また今回、ベルグマン監督と一緒に様々な施設を訪ねて、どんな風に皆が交流をしているかを学びました。長いプロセスを経て、自閉症を持っていない人たちと同じように、彼らが深くて広い内面を持った人たちだと心から理解することができました。」
保護者「父親の立場で観て、父と母で感じる時間軸が違うというのが印象的でした。質問ですが、オファーを受けた時と、実際演じてみた時で、予想外だったポイントはありますか?」
ノアム「オーディションの時すでに、この役は自分にもらえると確信を持っていたくらい、入念な準備をして臨みました。撮影中はその世界の中に入り込んでいたので、映画が完成した時に初めて物語を外から眺めた気がして不思議な気持ちでした。」
生徒「自閉症を持つ息子と父親という特殊な関係を描いているようで、不思議と自分のことのように共感できる作品でした。質問ですが、親子に限らず、共依存のような関係になっている2人を見ると、第3者の視点でそれを脱した方がいいと思っても、踏み込むことは難しいです。そんな時、どうすればいいと思いますか?」
ダナ「私は、アハロンとウリはとても孤立した状態だということを多くの人に知って欲しいと一番望んでいたんです。だから、あなたが自分ごとのように感じてくれてとても嬉しいです。共依存の関係性には、ケースバイケースですがどのような形にしろ、いずれ終わりが来るものだと思います。解決方法の一つとしては、私が映画の中で描いたように、周りが手助けをすることだと思います。2人が”泡”の中にいる限り、成長は難しい。それは一般の親子関係でも同じなのではないでしょうか。」
生徒「コロナ禍で家族との会話が増えた反面、それぞれが独立した個人だと実感しました。同じ屋根の下で暮らしていると、つい、似た価値観を持つと誤解して衝突してしまうことがありますね……。お二人はこの1年で家族関係に何か変化がありましたか?」
ノアム「僕自身は、コロナ禍で家族と長く過ごすことが苦痛になってしまい家を出たので、ちょっと複雑です……」
ダナ「私自身はコロナ禍の最中に娘を出産したので、印象深い1年でした。その前はベルリンに住んでいて、パンデミックの直前にイスラエルに戻ることができました。自分の大切な人が自分の近くにいるということの大切さを実感しました」
生徒「物語のモデルになったお父様はこの映画をご覧になってどのような感想を持たれましたか?」
ダナ「父はいつも私の仕事に批判的だったので、ドキドキしていたのですが、『自分たちのストーリーの純粋な部分を抜き取ったような、嘘のないものになっている』と言ってくれてとても嬉しかったです」
生徒「演じているご自身は、ウリをどのような性格だと考えていますか?」
ノアム「ウリの性格を考えながら演じたというよりは、父親との関係性を考える中で自然とウリというキャラクターが出来上がっていきました。とても優しくて繊細で、可愛いところがあって、愛情深い人だと思います」
最後に、日本の新たな旅立ちを迎える親子たちへ、2人からメッセージが。
ダナ「互いに耳を傾ける。親、子供、そして自分自身の声を聞くということが大切だと思います。弟から多くを学びます。弟は言葉で表現するのが苦手ですが、しっかりと見ていると、彼の言いたいことのエッセンスは分かるんです」
ノアム「ウリの立場から伝えてみようと思います。ウリは、自分の内面を外の世界に表出するというのがとても困難で、いつも戦っている。自分自身も、同じようなところがあります。でもそれを克服しようとすることが大事です。それによって他者と繋がりや関係を持てるんだと思います。」
授業終了後、生徒・保護者それぞれのグループに別れ感想共有と意見交換の時間へ。
生徒「先ほどダナさんから、親子が”泡”に入ってしまっているという表現がありましたが、最後、2人は”泡”を破ったのではなく、”泡”自体が広がったんじゃないでしょうか。自立の象徴となるあるシーンも、行動のきっかけを作ったのが父で、一人でできるようになったのがウリだから」といった意見が。
さらに保護者への問いかけの声もあがった。
生徒「もし自分の子どもが発達障がいを抱えていたとしたら、どういう幸せを子どもに与えるべきだと考えて、どういう育て方をしたと思いますか?」
保護者「私の弟が知的障がいを持っていたのですが、父は、親が亡くなった時に子どもがどのように生きていけばいいかを考えていたと思います。知的障がい者のグループホームを作ったり、自活するための収入が得られるような手段を授けようとしたりしていた。障がいの有無にかかわらず、親は少なからずそのようなことを考えるんじゃないでしょうか」
最後に、子から親へ、親から子へのメッセージで授業はしめくくられました。
生徒「高校生活の中でも、旅立ちのときでも、両親はいつも私のことを待ってくれていると感じます。その感謝を改めて伝えたいです。」保護者「1本映画を観ただけでこんなにも語り合える、子どもたちの成長を感じました」
コロナ禍で家族の繋がりや自立について改めて考えるきっかけになったいま、旅立ちや成長をテーマに、子供、親の視点で意見を交わしながら、こうした機会だからこそ伝えられる感謝、そして成長の思いを「最後の授業」となりました。