「俺の時間を返せ!」リベンジ夜更かしは発達障害にとっても難しい
発達障害決まった時間に就寝するのは難しいものです。簡単に習慣化しているという御仁もいそうですが、とにかく夜更かしせず素直に床に就くのは難しいです。なぜならば、「今日を終わらせたくない」という心理が働くからですね。
日中の不自由を取り返そうとして夜の余暇時間を無理矢理引き延ばすタイプの夜更かしは「リベンジ夜更かし」「リベンジリラクゼーション」などと呼ばれます。自分の時間を取り返そうと睡眠時間すら犠牲にするさまを「リベンジ」になぞらえているわけですね。
単純に意志だけで夜更かしを止められないのは、こうした理由もあるのかもしれません。睡眠が安定している人とそうでない人の間には絶対的な認識の差というものがあり、互いに分かり合えない原因にもなっています。
何に対してのリベンジか
「リベンジ夜更かし」などと呼ばれていますが、一体何に対してのリベンジなのでしょうか。それは充実感や達成感のない日中へのリベンジです。日中の不自由を取り返すために睡眠時間を切り売りしてまで夜の余暇時間を延ばそうとするのです。
単純な話、日中は仕事をしています。夜の自分の時間で出来ることは星の数ほどありますが、日中の仕事の時間で出来ることは鼻の穴の数ほどもありません。この格差がリベンジ夜更かしの根本的な原因といえますし「寝たら不自由な日中へ逆戻り」となれば尚更です。
夜更かししたことで日中の不満が増え、また夜更かしをするという悪循環にも陥りやすいです。こうした睡眠時間の減少を自傷行為として解釈する人もいます。また外で仕事をしないライフスタイルでも、例えば専業主婦なら子どもと夫を寝かしつけてようやく自分の時間なので、やはりリベンジ夜更かしをしやすいです。自分の時間と呼べるものが夜にしかない以上、ニートの昼夜逆転とも矛盾しません。
発達障害との関連
「リベンジ夜更かし」は発達障害のほうが起きやすく、とりわけ診断名の出ないグレーゾーンがこの手の悩みを抱えやすいです。精神科医で医学博士でもある本田秀夫医師は、「やるべきことが増えるほど、やりたいことの上積みが求められ、睡眠時間が減る。発達障害はこのパターンに陥りやすい」としており、分かりやすいオリジナルの図まで作られています。
本田医師の図には、やるべきこと・やりたいこと・身の回りのこと・睡眠の4つがあり、これを24時間の範囲内で割り振っています。そして、やるべきことの占める割合が増えた時、定型と発達障害で対応が大きく異なるのだそうです。(図そのものは引用元サイトに載っているはずなのでご参照ください)
定型であれば、やるべきこと(ここでは義務時間と呼びます)が増えた分だけやりたいこと(同様に余暇時間と呼びます)を減らし、身の回りのこと(家事時間)と睡眠時間を確保するという時間配分が自然と出来るのだそうです。平日は余暇時間を削り休日に取り返すような感じです。
これが発達障害だと、余暇時間に「これ以上は減らせない」という限界が生まれ、その限界を義務時間に侵されると強いストレスを感じるようになります。余暇時間を削らないとなれば、削られるのは家事時間、それでも足りなければ睡眠時間です。
本田医師の経験によれば「オンとオフの切り替えは、苦手な人は努力しても改善しないことが多い。むしろ努力の苦痛がうつ病のリスクになりうる」そうで、ほとんど才能といってもいい領域だそうです。定型からすれば「睡眠時間が足りないなら余暇時間を削ればいいのに、なぜそんな簡単なことが出来ないのか」と疑問でしょうが、そういうものです。
そもそも本田医師がお手製の図をこしらえたのも、発達障害の子どもについて定型の親へ説明しやすくするためだった節があります。
対策よりも発想の転換を
リベンジ夜更かしはその特性から「自傷行為」だの「負のスパイラル」だの言われていますが、本田医師に言わせれば「仕事に差し支えない程度の夜更かしはOKと捉えるべき」なのだそうです。
「生活リズムは改善するのが社会人のマナー」から発想を転換させ「身の回りのことなど先延ばしにしていいことは意外とある」と、自身のタイムスケジューリングを大らかに捉える必要性が説かれています。
仮に定型のように余暇時間を削って睡眠時間を確保したとしましょう。確かに生活リズムは安定しますが、意識を「オフ」にする気晴らしの時間もまた無くなってしまいます。そうすると、「オン」である日中のストレスやイライラを軽減する術が無くなり、精神的な疲労は蓄積されたままとなります。それ以前に過剰なストレスで眠れなくなり結局寝不足になることさえあります。
「やりたいこと」と「睡眠」は別物で、やりたいことをしていても肉体の疲れは癒えません。同時に、余った時間を寝てばかりで過ごしたとしても心の疲れまではカバーできません。
パートの時は健康に働けて評価も高かったのが、正社員になると余暇時間の減少がストレスとして蓄積し心身が潰れて辞めてしまうパターン。このような二次障害で退職したケースに、本田医師は何人も遭遇しました。
蓄積されるストレスに対処できなくなるくらいなら、ある程度余暇時間を優先させた方が精神衛生上では優れた判断となります。生活リズムを正そうとして過剰適応すると、それ自体が強いストレッサーにもなるので、発達障害持ちにとってはそれが理に適っているのかもしれません。
生活リズムの呪縛
しかし仕事に支障が出るレベルの寝不足をともなうなら何かしらの対策はしたいです。とはいえ「やるべきこと」は減らせても義務時間を減らすのは現実的に難しく、取れる手段というのは限られています。
一応の対策としては、義務時間のうちにできる「やりたいこと」があればそれをすることが挙げられます。例えば毎晩読み進めている小説や漫画などを昼休みに読むなどです。しかし1時間程度(人によってはそれ未満)の昼休みを使っても焼け石に水でしょうし、そもそも必要なものを持ち込めなければ意味がありません。
「やりたいこと」と「やるべきこと」の境界が曖昧なのも問題です。スマホゲームは勿論コンシューマーゲームでもオンライン要素に伴い毎日立ち上げる必要が生じており、ゲームが余暇活動になっていないのではと個人的には考えています。最善なのは生活リズムの呪縛を断って過剰適応しなくていいようにすることではないでしょうか。
ところでオンオフの切り替えで思い出したのですが、就活が始まったころに「週に1日は休む日を設けなさい」という話を聞きました。あれはオンオフの切り替えが苦手な発達障害を早めに排除するための偽アドバイスだったのでしょうか。さすがに違うでしょうが、あの詭弁には様々な意図を邪推してしまいます。
参考サイト
発達障害の人ほど「リベンジ夜更かし」をやめられないメカニズム
https://diamond.jp
発達障害