発達障害の強いこだわり〜ルールや勝ち負けにこだわる、かんしゃくとその理由、対処法は?

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発達障害には何故、強いこだわりがあるのでしょうか。ルールや特定のモノ、行動へのこだわりが強く、止めようとするとパニックになる。勝負やゲームで負けるとかんしゃくを起こす。こういった強いこだわりから、本人も周りも日常生活で困ってしまうことは多いです。強いこだわりが生まれる理由から、一人一人に合った対処法、そしてこだわりは長所になることについて解説します!

こだわりとは

発達障害の強いこだわりとは、特定のモノや状態・行動パターンを絶えず好み、強く執着する傾向です。こだわり行動は、発達障害の特性や本人の置かれた状況等によって起こります。こだわりを貫くことができない状態や変化を受けると、本人はパニックやかんしゃく、不安、フリーズ(恐怖や混乱によって凍りついたように動かなくなること)を起こします。

【こだわりの例】
・同じおもちゃや遊びをずっと続ける。
・自分なりのやり方を好む。自分ペースを乱されると嫌がる。
・同じ服ばかり着る、特定の素材に苦痛を感じる。
・毎日同じ道順を選ぶ。進路変更があるとパニックになる。
・同じ遊びや活動をやりたがる:休憩時間は外で遊ぶという行動パターンにこだわり、雨天でも貫き通す等。
・ルールや規則に強くこだわる:周りから融通が利かない、協調性がないと思われる。
・細かいところが気になる完璧主義:図形の線やモノの配置が少しでもズレていると、何度も直そうとする等。
・勝ち負けにこだわる:負けそうになるとかんしゃくを起こす、他の子どもを叩く場合も。
・過去の傷つき体験へのこだわり:悲しみや恨みを引きずり続ける。

とはいえ、発達障害に関係なく、誰もが多かれ少なかれ特定のこだわりを持っています。一般的なこだわりとの違いは、状況に応じて妥協できるか極端で限度を超えていないかです。毎朝決まった時間の散歩にこだわる人の例があります。もしも、人からの電話や悪天候等、予想外の出来事に見舞われた際、通常であれば時間をずらす、安全を考えて別の日にする等、妥協や調整ができます。しかし、発達障害のこだわりは融通が利きづらいため、悪天候でも外に出る、一分でも時間がズレるとパニックになるといったことが起きます。

こだわりにも色々ありますが、内容や限度を超すことによって、本人も周りも困ってしまうことが多いです。しかし、こだわりを抑えつけようとしたり、叱ったりすると、本人はさらにパニックや不安を強めます。こだわりを止めさせられた反動で、不安や恐怖といったネガティブな感情から自分を守るために、さらに頑固になります。周りから見ればどうしてそこまで、と思える発達障害のこだわりには、ちゃんと理由があります。

【こだわり行動=発達障害にとっての精神安定剤】
・感覚過敏からくるもの
発達障害は聴覚や触覚等が敏感なあまり、通常であれば平気であるはずの刺激に痛みや不快感を覚えます。服へのこだわりの場合、ウール素材や服のタグ、フィットした服を着ると、針でチクチク刺されるような痛みとかゆみ、圧迫感が苦しいという声もあります。同じ素材のおもちゃや遊びを好むのも、それが本人に安心感を与えてくれるからです。私の場合も、特定の服の色や形にこだわり、指定のスーツやえりつきシャツ等の窮屈な服が苦手です。同じ青系の服を集めれば、自分の好きな色を見ることによる安心感を得られます。同じシルエットと丈であれば、自分の体にとって楽な服を確実に選べるのです。

・秩序が生む安心、変化への恐怖
発達障害のある方は、未来や行動の結果を想像すること、臨機応変に行動することが苦手です。例えば、お家に帰るためにいつもと違う進路を歩くとします。通常であれば、たとえ別ルートで帰った経験をしていなくても、地図や方角を頭の中に浮かべることができるため、家に必ず帰れると信じます。また、行き止まりの時は別の道を使えばいい、と上手く対処できます。しかし、発達障害の場合、経験したことのないものは白紙に等しく、イメージすることは難しいです。発達障害の方にとって、変化と不測の事態は地図やコンパスなしで砂漠を歩くような不安と恐怖に等しいのです。そのため、同じ結果と決まった答えが保障される規則やルール、行動パターンを守っていれば安心できるのです。

・感情と行動のコントロールが苦手
上記にあげた理由から、発達障害のある方は常に大きな不安やストレスを感じながら生活しています。こだわりを止められる、通せない状況になると、本人はパニックやかんしゃくを起こします。本人にとっては、精神安定剤をいきなり取り上げられたような恐怖と理不尽な怒りとなります。

・失敗体験による自尊心の低下、過去の傷つき体験
もともと負けず嫌いな性格の方もいますが、発達障害で勝ち負けに強くこだわる方も多いです。発達障害のある方は、普段から人間関係や勉強、日常生活の自立でつまずきやすいです。そのため、周りからの叱責や同年代からのからかいを受けやすいです。劣等感や自己否定の強さ、過去の傷つき体験から、本人は自分が不利で劣っていると見なされる状況に悲しみや怒りを覚えます。また、勝負には結果にもとづく勝ち負けしかない、という思い込みや、自分が負けた時の状況を想像できないことも、こだわりに拍車をかけます。別の話では、過去に受けた仕打ちを大人になっても鮮明に覚え、恨みや傷を引きずり続けて苦しむ方もいます。

こだわりへの対処法

発達障害のこだわりは、年齢が上がるにつれて本人の自覚や努力、成長によって和らぐことが多いです。子どもの頃のこだわり、と大人になってからのこだわりは違っていることもあります。とはいえ、ストレス等の負荷がかかった時に、頑固なレベルのこだわりが現れやすいです。また、子どもの頃からこだわりを悪いものとして抑えつけられ、二次障害によって心の傷を抱えている方もいます。その場合は、こだわりが本人や周りに負担をかける形で、大人になっても持続したりします。
では、強いこだわりに対し、周りと本人はどう対処すべきでしょうか。↓

①安心感を保障する
こだわりへの対処として、第一に大切なことは、本人のこだわりと気持ちを一旦受け止めることです。内容や理由は色々ですが、発達障害のこだわりは本人の不安や恐怖を和らげ、安心感を生む精神安定剤でもあります。「〇〇してはいけない」、「ダメでしょ!」等の否定的な言葉、「〇〇しなさい!」等の命令口調を受けると、本人はよけいに不安になり、こだわりを悪化させます。そのため、「雨がひどいから外で遊んじゃだめ!」、「中で遊びなさい!」、ではなく:
「家の中に入ろうか」→「お絵描きしようか」、といった肯定的で具体的な言葉かけをします。そうすることで、本人は気持ちを受け止めてもらえたこと、具体的な行動指針を教えてもらえた、と安心できます。

②リラックス・クールダウンの方法を身につける
発達障害のある方にとって、こだわりを通せないことや変化は強いストレスとなるので、相手の言葉や結果を冷静に受け入れるのに時間や余地を必要とします。例えば、勝ち負けへのこだわりが強く、自分が負けるとかんしゃくを起こす子どもや人に対しても、同じです。その場合は、静かで落ち着ける場所へ本人をそっと連れて行くのも、一つの方法です。ストレスな状況や場所から一旦離れることで、本人はクールダウンしやすくなります。
発達障害は自分の感情を言葉で表すのが苦手なため、悲しみや怒りを爆発させやすいです。そのため、負けを認められない本人に対しては、「負けて悔しかったんだね」、と気持ちを言葉にします。そうすることで、本人は気持ちを受け止めてもらったと安心できます。

大人の場合も、「どうして自分はあんなにも嫌だったんだろう?」、と自分を見つめ、気持ちを言葉にします。私の場合も、大人の身体測定で「体力年齢50歳」という判定に傷ついたことがありましたが、何故あそこまで落ち込んだのかを振り返りました。自分で考えるだけでなく、信頼できる家族やカウンセラーにも相談しました。すると、「身体測定の結果を、自分という人間の価値と評価として、あなたの中で解釈してしまったのかもしれませんね」、というカウンセラーの意見に私は納得しました。ああ、だから私はあんなに悲しかったんだ、と気持ちを言葉にできてすっきりしました。

他の方法としては、深呼吸や水を飲む、手足をぶらぶら動かす、頭に浮かんだことをメモに書く等様々です。自分に合った方法を知り、本人が自分で対処できるように身につけるように練習し、周りはサポートします。さらに感情を言葉にすることは、自分の感情に名前をつけ、外に吐き出すことで解消できます。感情を言語化していく経験を積むことも、本人が自分の気持ちを問題行動等ではなく、言葉で伝えるコミュニケーションを成長させます。

③努力と過程を褒める、60点でもいいことを認める
ゲームの勝ち負けや勉強、テストの点数等にこだわる子ども・人がいます。周りは結果や満点だけでなく、本人の努力とその過程も褒めるようにします。②の言語化にも通じますが、勝負に負けて悔しかった気持ちを、「今度は勝てるかもしれない!」、「次も頑張るぞ!」、と次へつなげる前向きな言葉に変えます。そのため本人だけでなく、まず周りのほうも「負けても、もう一度チャレンジできる」、「負けたけど、まあ、いいか」、「よく頑張ったね!」、という言葉を意識します。周りが「適当」を許すことで、本人には負けること、人生は勝ち負けだけじゃないことに慣れてもらいます。本人がかんしゃくを起こさくなれば、そのことを忘れずに褒めることも大切です。家事の手伝いや人への親切、趣味等、勝ち負けに関係のないもので達成感と自信をつけてもらうのも効果的です。

こだわりは力にもなる

これまでは、問題行動としてのこだわりとその対処法について説明しました。しかし、発達障害の強いこだわりは、本人の強み・長所として発揮できます。↓

・同じパターンの繰り返し・細部へのこだわり
勤勉性と忍耐力に繋がります。専門家や研究職では、特定の狭い領域への興味を追求し、人が気にもとめなかった所にも着目することで、新たな発見をします。科学者には、新たな結果と発見を得るために、同じ実験を何度も繰り返し、何度も試行錯誤し、小さな変化を逃さない継続と忍耐力が求められます。まさにこだわりは、強い意志と信念を貫けることの表れです。さらに自閉症アーティストには、まったく同じ模様を繰り返し描くという並ならぬ集中力を発揮し、見事な作品を次々と生み出す方も多いです。それは、同じ行動パターンへのこだわりがなせる技です。勤勉性と忍耐力としてのこだわりは、科学や芸術に限らず、他の分野や仕事においても大きな力となります。

また、発達障害には記憶力の優れる方が多いです。その理由としては、興味の幅が狭い分、自分の関心のある分野には頭に入りやすく、細かいところまで記憶していることが考えられます。また、記憶というものは頭の中でリハーサル・繰り返す、心から興味を持つ、意味を理解することによって定着します。発達障害の方は自分の関心ごとを①頭の中で絶えずリピートする、②好きという心地よい感情にふける、③細かいところまで妥協せずに理解しようとする、ことで記憶力の良さを発揮していると思います。私の場合も、小学校から高校生の数学や国語等はほとんどできませんが、不思議なことに大学で学んだことはすんなり頭に入り、よく記憶できました。

このように、専門知識と記憶力の強さ、実験や整理整頓のこだわり等、良い結果に繋がるポジティブなこだわりを積極的に支持します。ポジティブなこだわりに集中してもらうことによって、道順にこだわり過ぎる・勝ち負けにこだわる、といったネガティブになりやすいこだわりから注意をそらすことにも繋がります。
精神科医の本田秀夫さんは、こだわりの内容(質)が変わっても、こだわりの全体量は変わらないという「こだわり保存の法則」を述べています。それは、Aのこだわり50%とBのこだわり50%の内、Aのポジティブなこだわりを90%に変えても、Bのネガティブなこだわりは50%のままにはならず、10%へ変わることを意味します。

・秩序やルールへのこだわり
秩序とルール・システムを重視する職業に向いています。例を挙げると、法律家や科学者、会計士、エンジニア、IT関連職、プログラマー、建築家、音楽家等があります。発達障害のうち、特定の数や音、モノへの扱い、パソコン等に強い関心とこだわりを見せる方の場合、将来は上記の職業・分野で力を発揮する可能性が高いです。

とはいえ、発達障害のこだわりを長所として活かせるようになるには、本人に対する周囲の理解や働きかけ、障害の程度と重さによっては、時間や努力が必要となります。さらに、他の障害の重複や、本人と周りが日常生活に支障を感じている場合は、こだわりを肯定的に見ることが難しくなります。
そのため、まずは発達障害に関する専門家や支援機関に相談し、サポートを得ることが大切です。医療・福祉においても、まだまだこれからですが発達障害の適切な理解と対応が、以前よりも広がってきました。療育や福祉サービスにおける、発達障害のある子ども・人への対応も変わってきています。「できないことを、できるようになる」以上に、まずは「できることを伸ばしていく」、「本人が安心して成長できるサポート環境をつくる」という流れへ、と今後は発展していくでしょう。

今回のテーマの場合、それは良いこだわりを伸ばしていくことだと考えます。

まとめ

発達障害のこだわりについて、以下にまとめます。

【強いこだわりの背景】
共通点:秩序と安定がもたらす安心感を得るため
・感覚過敏による苦痛を小さくするため。
・ルールと秩序等、安定を好み、変化を嫌う。
・不安が強く、感情と行動のコントロールが苦手なため。
・勝ち負けへのこだわり:失敗体験や傷つき体験による悲しみと劣等感、負けた時のイメージと対処が想像つかない、完璧主義等。

【こだわりへの対処】
・本人のこだわりと気持ちを一旦尊重する。
・指示は、肯定的で具体的な言葉を使う。
・落ち着ける場所に避難する、本人に合ったリラックス・クールダウンを身につける
・本人の気持ちを言葉にして受け止める。感情の言語化を促す。
・良い行動を褒める。努力や過程、合格点を認める。
・勝ち負けに関係のないところで達成感や自信を伸ばす工夫をする。
・周りも良い適当になる、ゆとりを持つ。
・良いこだわりを伸ばしていく。
・専門家・支援機関に相談する。

【こだわりの長所】
勤勉性、記憶力の良さ、専門知識の強さ、忍耐力、継続力、強い意志と信念、秩序愛

いかがでしたか。
発達障害の強いこだわりには、本人も周囲も苦戦することが多いです。けれど、適切な理解と対応、そして本人とこだわりの良いところを見つけ、伸ばしていきます。

本人と周りをしばしば困らせていたこだわりという名の剣を、いつか本人が長所という名の武器として、少しでも使いこなせるようになることを願います。

参考文献
・小野寺敦子(2012)『ゼロから教えて発達障害』かんき出版

・岡田俊(2016年)『発達障害のある子と家族のためのサポートBOOK・小学生編』ナツメ社

・小笠原恵(2011)『うちの子、なんでできないの?親子を救う40のヒント』文藝春秋

・本田秀夫(2018)『発達障害、生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』SBクリエイティブ

・岡田尊司(2016)『アスペルガー症候群』幻冬舎新書

・岡田尊司(2012年)『発達障害と呼ばないで』幻冬舎新書

*Misumi*

*Misumi*

自閉スペクトラム症のグレーゾーンにある、一見ごく普通のネコ好きです。10代の頃は海外と日本を行き来していました。それもあいまってか、自分ワールドにふけるのが、ライフワークの一つになっています。好きなものはネコ、マンガ、やわらかいもの、甘いもの、文章を書くこと。最近は精神保健福祉士を目指しながらコミュニケーションを学び、今後の自分について模索する心の旅人。

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