アニマルセラピーに携わるセラピードッグ、簡単にはなれない
暮らし今回は「アニマルセラピー」及び「職業犬」についてのお話です。ペットブームなどという自分の儲けしか考えない輩のマネーゲームではなく、他人の役に立つために厳しいトレーニングを突破し働く犬と人間の実像です。これは調べてみて意外なことが多数ありました。
アニマルセラピーとは
アニマルセラピーとは動物と共に過ごすことを盛り込んだ治療を指します。歴史自体は古代ローマからと非常に長く、最初は馬やイルカなどが交流動物とされていました。より身近な動物として犬が採用され出したのは20世紀半ばと最近です。
動物との交流そのものが病に効くわけではなく、情緒面の安定や自尊感情の向上などプラスの感情を刺激して治療の補助をする目的が強いです。また、精神疾患の回復期や外傷後のリハビリ期に「動物の世話」というルーチンを組み込んで生活リズムを整えることもあります。
こうした仕事に携わる犬を「セラピードッグ」と呼びます。有効な人にはとことん効くようで、医師すらも病院勤務者向けのセラピードッグに支えられたという話があります。
アニマルセラピーはただセラピードッグを人間に世話させるだけの簡単な手続きではありません。セラピードッグのしつけや管理などを受け持つ「アニマルセラピスト」が必ず間に立っています。国家資格は存在しませんが、適性を判断する基準として民間の資格が存在します。
また、セラピードッグの飼育そのものはアニマルセラピストが行い、施設などで触れ合いイベントを開いて他の人々と接する場合もあります。
犬にも資格が必要
どんな犬でもセラピードッグになれるわけではなく、採用試験を受けねばなりません。そして、このハードルこそがアニマルセラピーと単なるペットブームを区別する大切な基準でもあります。
神奈川県大和市にあるNPO法人「日本アニマルセラピー協会」の基準を例に取り上げましょう。一通り見ればペットブームに乗っただけの飼い主と犬には達成不可能な基準と分かると思います。
まず受験資格として、「飼い主も協会の認定を受ける」「犬は生後8か月以上」「最低限、ワクチン接種とトイレのしつけができている」と列記されています。試験そのものは30分間の実技となっています。
肝心なのは合格の目安です。「どんな人にもなつく」「他の犬とも仲良くできる」「『座れ』『待て』程度は出来る」「無駄吠えがない」「飛びつかない」とあります。パピーミル(後述)からペットショップへ送られてくる犬と、それを「一目惚れ」などと称して安易に購入する飼い主には、絶対に達成できない基準だと思います。おまけに、5万円をゆうに超える受験料も決して安くはありません。
保護犬がセラピードッグとなる逆転劇も無くはないですが、稀少なケースです。ペットブームの余波で保健所送りにされた多くの犬にセラピードッグの適性と役割を与えるのは不可能と言えるでしょう。志と良識のある飼い主と犬だけが、アニマルセラピストとセラピードッグになれるのです。
(適切な環境で育った飼い犬でも性格の都合でセラピードッグになれない場合があります。そもそも犬種によって向き不向きがキッチリ分かれています。)
かなり人を選ぶ
実はアニマルセラピーはかなり人を選びます。とはいえ、この点だけは予想通りでした。いきなり動物の世話をさせることは荒療治でもあったためです。負担が勝る状態で動物を預けるのはあまり賢い選択ではありません。
当然と言えば当然なのですが、誰もが動物好きとは限らず、苦手意識を持つ人や恐怖症の人も居ます。それを抜きにしても感染症やアレルギーのリスクからは逃れられません。安易にアニマルセラピーを採用すると逆効果になってしまう人も存在しますし、それは何ら不思議な事ではありません。
また、虐待とまではいかずとも犬側のストレスや疲労を考慮しない接し方(ベタベタ触り続ける、大量に食べさせるなど)で困らせる人はいます。犬の方も環境の慣れ不慣れや調子の悪い日があり、ケガをさせてしまうリスクもゼロではありません。
昔、アニマルセラピーで立ち直った男性のドキュメンタリーを観たことがあります。男性がセラピードッグの効果を知らしめようと公演を行った所、一度も怒らなかったセラピードッグが激しく吠え始める失態を犯しました。多くの聴衆を前に壇上へ上がるのが初めてだったためと思われます。
動物と接するのに抵抗のない人間と、人間と接するのに抵抗のない動物、そしてパニックにならない環境が揃わなければアニマルセラピーは出来ないでしょう。ただ人に犬をあてがうだけの簡単なものではありません。
余談:ペットブームとパピーミル
ペットブームが起こると一番喜ぶのが「パピーミル」です。パピーミルとは「パピー(子犬)」と「ミル(工場)」を組み合わせた造語で、文字通り子犬を工場のように大量生産して広めています。劣悪な環境で無理な交配を何度も繰り返すため、親犬は常に多大なストレスに晒されます。
パピーミルで生まれた子犬は何か月と待たずペットショップなどに買い取られます。幼いうちに陳列したほうが買われやすいそうですが、そのせいで社会性のない犬に育ってしまいます。ブームに乗せられた消費者が安易に買い、社会性のない犬を持て余せばロクなことになりません。
パピーミル・ペットショップ・消費者というラインは、犬の命を殊更に軽視しています。愛犬家の方々にはこうした犬を軽んじる巨大市場に対し、厳しい声と目線を投げかけていってもらいたいものです。
参考サイト
NPO法人日本アニマルセラピー協会
http://animal-t.or.jp