パニック障害の私が『夜明けのすべて』を読んで思うこと
暮らし パニック障害・不安障害瀬尾まいこさんの『夜明けのすべて』を読みました。知り合いがSNSで紹介していて、気になって本屋へ行きました。パニック障害の25歳の山添孝俊と、PMS(月経前症候群)の28歳の藤沢美沙が同じ職場になって、互いに友情も恋も感じてないけれど、おせっかい者同志の二人が自分の病気は治せなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになり、温かい職場の人たちの理解に助けられながら、生きるのが少し楽になってゆく心に優しい物語です。
私は長い間パニック障害があり、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、生きています。主人公の男性の気持ちが自分のことのように感じました。パニック障害を発症したての頃の絶望的な気持ち。自分はすべてを失ったとやる気もなくなった時のこと。ネットで同じようなパニック障害当事者の書いたブログを読んでみたり。パニック障害があってもできそうな仕事を探してみたり。
いつ発作がおこるかわからなくて不安なので、友達や恋人とも約束ができなくて誰とも会わずにひとりで過ごした方が良いと、人付き合いも止めてしまったり。買い物する時も支払いが終わるまでの時間が怖くて、何も買わずに店を飛び出したり。前なら冗談を言ったりもっと楽しく話せたのに、発作が怖くて会話をすぐに終わらせたり。
それでも心配して、お守りをくれるような心優しい人がいることを知って、嬉しくなったり。病気のことを調べてアドバイスをくれたり気にかけてくれる人がいて嬉しく思ったり。電車が怖いから、自転車で快適に出かけられるようになって気分が晴れたり。
パニック障害の人なら、自分のことのように感じるくらい、「わかるわかる!」の連続でした。PMS(月経前症候群)の美沙に出会ったことで、孝俊の気持ちにどんどん変化が起きていきます。お互いにタイプじゃなくて、友情も恋も感じていない、ただのおせっかい同志の二人だからこそのやりとりがとても面白くて、すごく心が温かくなり、本を読み終えることが寂しくなってくるほどでした。
二人は、それぞれの病気で前の職場にいられなくなり、パニック障害やPMS(月経前症候群)があっても働ける職場を探していました。採用してもらえたのですが、孝俊は社員6名の小さなのどかな会社、栗田金属のことを皆が高齢で業績を上げるような活気も感じられない、前の職場と比べて張り合いもないと思っていました。美沙は周りに気を遣いながらも、PMS(月経前症候群)のイライラがおさえられない日は、我慢できずにブチギレてしまいます。前の職場ではキレてしまったり、薬の副作用のため会議で眠ってしまい、居づらくなって辞めてしまいました。栗田金属は、とても居心地が良く3年も働いていました。
孝俊が、まったくやる気のない態度でいつもガムや飴を口に入れて仕事をして、いつも炭酸飲料を飲んでいるキャップを開けた音に、ある日ブチギレてしまいます。その後、パニック障害であることを隠していた孝俊が発作を起こして倒れます。 トイレにソラナックスという薬が落ちているのを拾った美沙は、孝俊がパニック障害だと気付き、おせっかいをはじめます。実は、ソラナックスはPMS(月経前症候群)の治療でも出された薬で、一度飲んで会議で居眠りをしてしまい、それから飲んでいませんが、パニック障害でも出される薬だと、以前ネットで読んだことがありました。PMS以外の日は健康そのものなので、孝俊の家にまで押し掛けて、はじめは鬱陶しがられながらも、色んなおせっかいを始めるのでした。そのやり取りが可笑しくて、愛おしかったです。
パニック障害になってしまったらもう、今まで当たり前にできていた事ができなくなり、別人になってしまいます。すごく悔しくて、虚しくて、自暴自棄になってしまったりします。私もそうですが、発症前は友達もたくさんいて、いつも予定が埋まっていて出かけるのが大好きで、騒ぐのも大好きで、オシャレも大好きで、ジェットコースターも飛行機も、電車に乗るのも大好きでした。映画館も、美容院も人混みでも出かけて行くのはとても楽しかったです。それがすべてできなくなるのです。もちろん自分のことが嫌になって、自信もなくしていきます。こんなはずじゃなかったと。
お酒も禁止されている。カフェインも控えるようにと言われ、出かけてみても発作の恐怖が付き纏い、つまらない。人に迷惑をかけないように、息苦しくなる服も着ることができない。オシャレなんてできない。人と約束することも旅行することもできない。これは、自分ではない。美沙のように、自分のことをいろいろ考えておせっかいをして楽しませてくれる人が現れたことが、孝俊にはとても良かったのだろうな。お互い自分の病気は治せなくても、相手を助けることができるのではと思うようになっていきます。それが職場にまで広がり、環境まで変わっていきます。
私も若い頃は、出かけてもお酒が飲めなくてカッコ悪いと思っていたし、飲めないことで残念がられたり、誘いがなくなったりすることもあったのが残念だと思っていました。しかし、今は夫も飲まないので2人でお茶やスイーツで充分楽しいし、発症してから5ヶ月で、岩手まで新幹線や飛行機で父と旅行ができた事もあるし、もっと回復した時は、東京で一年ほど一人暮らしをした事もあります。新幹線で、熊本地震の被災地まで行けたこともあります。自分でピアスの穴を開けるくらいアクセサリーが好きでしたが、今では飾らなくても、リラックスした格好が楽だと思うようになりました。USJで、ハリウッド・ドリーム・ザ・ライドにも夫と乗ったこともあります。
人付き合いは減りましたが、それは仕方がなくて人生観が変わったので、本当に大切な夫や家族や親戚といるとすごく楽しくて幸せです。ソラナックスは私も以前飲んでいましたが、今では止めて生活できています。今後は、薬なしで電車に乗る練習をしてみようと思います。
病気には波があり、良くなったり悪くなったりしますが、長く付き合っていくと仲良くなって愛おしさも感じます。またこの病気だからこそ出会えた大切な人やものがあります。この本もそうです。とても健康な知り合いがSNSで、「すごく良かった!」と紹介していました。その事が嬉しかったし、驚きでした。たくさんの人に読んでもらいたい、心温まる作品です。
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