2021年2月、新たな大臣ポストとして「孤独・孤立対策担当大臣」が設置され、坂本哲志少子化担当大臣が任命されました。いわゆる「孤独担当大臣」の設置はイギリスに次いで日本が2か国目となります。

日本で導入されたのは、コロナ禍による人脈の寸断から孤立する人が増えるという状況からと言われています。どこまでイギリスに倣ったのかは定かではありません。それにしても先駆者たるイギリスはどうして孤独担当大臣のポストを設置したのでしょうか。

イギリス政府が一丸となって取り組む

正確には「孤独問題担当国務大臣」と呼ばれるイギリスの孤独担当大臣は、EUを離脱するか否かで揉めていた2018年に創設されました。きっかけは、ある新米議員の熱い思いだったそうです。

後に労働党の下院議員となるジョー・コックスさんは選挙活動中の戸別訪問を通じて、多くの人が孤独を抱えているという確信を抱きました。自身も孤独に苦しんだというコックスさんは、孤独対策を掲げて2015年に当選し、超党派の委員会設立という構想を打ち出します。しかしコックスさんは翌年、テロリストの凶弾に斃（たお）れてしまいました。

コックスさんの遺志を継ぐ機運は高まり「ジョー・コックス孤独問題委員会」が超党派で実現します。超党派ということは保守党も取り組んでおり、メイ首相は孤独担当大臣の創設に踏み切りました。EU離脱の件で与野党が激しく対立していたにも関わらず、孤独担当大臣の任命はさしたる反対もなくスムーズに進んだそうで、孤独対策への意識は党を問わず高まっていたことが窺えます。

大臣ポストは1年半で次々と交代したものの、現在は3代目になるダイアナ・バラン大臣が切り盛りしています。孤独や孤立を自己責任とせず、国を挙げて真剣に取り組む姿勢も板についてきました。

世界初の孤独対策

イギリス政府は孤独を「人付き合いの不足という主観的な負の感情」「社会的関係の質と量が、現実と理想で乖離している」と定義し、対策のために日本円でおよそ28億7000万円の予算を計上しました。というのも、先行調査から孤独によって医療や経済が立ち行かなくなる危険性が示唆されたからです。

イギリスは医療制度でいえば気軽に病院へ行けるほうの国ですが、初期診療に来る人の2割が孤独に悩んでいるのだそうです。それもあってか医療コストは10年間で1人当たり約85万円と推計されています。また、孤独によって体調を崩すと仕事にも影響し、雇用主は約3540億円の損害を被るとも言われています。

対策の一環として、2023年までに医師が「リンクワーカー」と呼ばれる支援者へ連絡する「社会的処方」の仕組みを確立させる予定です。また、政府主導で「孤独について語ろう」キャンペーンを始めたり小中学校のカリキュラムに取り入れたりする動きも起こりました。

イギリス政府が初期にしたためた報告書では、「孤独とは恥ずかしいことであり、認めることは難しいかもしれない」「孤独を認めることで他人に迷惑をかけたくない」と指摘されており、この点は日本の孤独対策にも通じてきます。また、同報告書では「誰もが友人を作るとまでいかずとも、コネクションの豊かな社会になりつつある。」と取り組みへの高い自信を示しています。

日本の先行調査

日本が孤独担当大臣を設置するにあたって行った先行調査では、孤立の指標として「会話の頻度」「相談できる人の存在」「自身を頼る人の存在」「社会活動への参加状況」の4つが挙げられています。

中でも「会話の頻度」が低いのは単身で住む男性が多く、65歳以上で15%、64歳以下でも8%が「2週間に1回以下」という低い会話頻度であるとの調査結果もあります。また、無職や低所得者ほど孤立しやすい傾向もあり、氷河期世代の高齢化や生涯未婚率の増加も踏まえると相応の危機感をもって臨まねばならないでしょう。

現状、日本における孤独担当大臣は新たに生まれたポストの一つに過ぎず、「また意味のない大臣を量産しやがって！」などと心ない罵声は飛び、サジェストに「なんj」がつくほど茶化されてもいます。

仕事ぶりを見せつけるためには、孤立を自己責任としないイギリスの姿勢を模範として倣わねばなりません。逆に言えば「孤立する方にも原因はある」などと自己責任に終始するようなら、本当に無意味なポストで終わるでしょう。イギリスの先例をどこまでいいとこ取りできるかが今後の評価を左右すると思います。

参考サイト

世界初「孤独担当大臣」置いた英国　孤立を社会問題と見る国の取り組み
https://globe.asahi.com