日本財団のアンケート、東京オリパラを受けて日本人の意識はどう変わったか
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世界各地のパフォーマーを通じて多様性を訴えるイベント「True Colors」の主催でもある日本財団が、このたび新たなインターネット調査の結果を公表しました。東京オリンピック・パラリンピックの開催前後における「D&I」や「社会的マイノリティ」への意識変化について調査されています。
D&Iとはダイバーシティ&インクルージョンを略した造語で、「多様性と包摂」を意味します。多様性と包摂を重んじ偏見や差別から脱することが出来ているかどうかが調査で重要視された項目です。
ここでの社会的マイノリティは、「LGBTQ」「身体障害者」「精神・発達・知的障害者」「在日外国人」「見た目が日本人離れしている人」「75歳以上の高齢者」の6カテゴリを指します。この中の「見た目が日本人離れ」というのはミックスなどを想定されておりますが、単純にハーフやクォーターのようなものと考えてもらえればいいと思います。
インターネット調査の対象は10代から60代の男女5216人です。対象は性別や年代(6区分)で均等に割り付けしてから、日本国内を8エリアの人口構成比に合わせてウェイトバック集計をしたそうです。
日本社会全体の目線
まずは日本社会全体の意識がどう変わったかについてです。とはいえ、これらの質問は「社会の態度を回答者がどう捉えているか」という主観で左右されることを留意すべきかもしれません。
日本社会が持つ偏見は少しだけ和らいだ
「日本社会は社会的マイノリティへの偏見や差別があると思うか」という質問では、「あると思う」「ややあると思う」の合計が前回95.9%でした。今回は10ポイント減の85.9%となっており、東京オリパラを受けて社会が持つ偏見の緩和を感じた人がそれなりに増えたことが示唆されています。
対象別ではLGBTQと障害者のみ偏見が緩和
対象別の質問になると、偏見や差別が和らいだのは「LGBTQ」と「障害者(全種共通)」に限定されているのではないかという疑惑が出てきました。東京オリパラのあった障害者と、SDGsの勃興などで認知の進むLGBTQでは、偏見があるという答えが前回から10ポイント減となりました。しかし、在日外国人や高齢者といった他のマイノリティには目立った変化が見られませんでした。分かりやすく表に出られる行事の有無が露骨に出た格好となります。
個人ごとの目線
個人ごとの目線ではどのように変われたのでしょうか。言い換えれば回答者自身がどう思っているかの項目になります。
D&Iについて知る人は増えた
「ダイバーシティ、またはダイバーシティ&インクルージョンについて認知しているか」の項目では、東京オリパラを挟んで内容認知率が29.9%から39.4%へ9.5ポイントの増加を見せました。名前だけ知っている人も含めた認知率では66.5%から71.9%と5.5ポイント増加しています。東京オリパラを抜きにしてもダイバーシティについて語られる機会は多く、周知活動の成果と言えるでしょう。
「自分自身」の偏見も微減
「自分自身にはマイノリティへの偏見や差別があると思う」という直球の質問では、東京オリパラ前に比べて5.1ポイントの減少となりました。とはいえ、「あると思う」は0.1ポイントしか減っておらず「ややあると思う」が減っただけという内訳があります。強い差別感情にはイベントの効果がないのかもしれません。
年代や地域ごとの目線
意識の高まりは10代に多く、50代が最も鈍い
「D&Iへの理解や支持が変化したか」の項目は全体の40.2%が意識の高まりを感じていました。中でも最多は10代の58.6%で、2番目に高い20代から11.7ポイントも引き離しています。一方で最少は50代の33.6% でした。60代では40.5%なので、年のせいで認識が凝り固まった訳ではなさそうです。なお、否定的な回答は20代の4.3%が最多となりました。
きっかけはパラリンピックが最多ながらも、10代は別
「D&Iへの理解が進んだきっかけ」については、「パラリンピック」が全体で最多の43.7%となりました。これに「人種差別問題(40.2%)」「オリンピック(40.0%)」「SDGs(35.1%)」が続き、東京オリパラの影響を感じさせる結果となっています。一方、年代別ではとりわけ10代が違うきっかけを優位としていました。10代に限ると人種差別問題とSDGsが多く、パラリンピックは17.2ポイント減の26.5%となっています。学校教育の影響や日常的に接するメディアの違いが出ているものと推測されています。
エリア別は関東と北海道で差
D&Iへの認知や支持をエリア別(北海道・東北・関東・中部・近畿・四国・九州&沖縄)に分析すると、認知と支持ともに関東地方が高く北海道や四国で低い傾向が見られました。特に認知(全体で39.4%)では関東地方が48.2%と突き抜けており、逆に北海道は28.2%と落ち込んでいました。支持率も全体69.6%に対し、北海道と四国だけが5ポイント以上低く出ています。マイノリティに関する情報へ触れる機会や企業の取り組み具合などは、都会と地方で格差が出ているといえそうです。
日本財団の見解
日本財団は以上の調査を振り返り、このような感想を残しています。
「本調査結果により、東京 2020 大会前と比較して、日本社会全体における社会的マイノリティへの偏 見・差別の減少や、個人における D&I への理解が進んでいることが明らかになりました。今回、パラリ ンピックが D&I への理解や支持に大きな役割を果たしたことが明らかになりましたが、一方では年代や 地域による差も見られました。社会全体で D&I への周知・理解を進め、社会的マイノリティへの偏見・ 差別の意識を取り払うためには、年代や地域の異なる人を巻き込んだ、より長期的な取り組みが必要で あると言えます。具体的には、様々なかたちで社会的マイノリティとの接点をより多く作ること、学校 教育で多様性や社会的マイノリティに関する教育をより充実させていくことが重要であると考えられま す。」
年代や地域による差異はあれども、パラリンピックのような巨大イベントによって認識は大いに進みました。認知を進めていくツカミの段階では、マイノリティの中でも成功している人物を積極的に起用しイベントを開催していくのが最も効果的と言えるでしょう。
また、マイノリティの種類についても認識に格差が生じていました。守られる属性とそうでない属性が分けられたまま放置することは、すなわち被差別階級の再定義を意味します。マイノリティの属性別で分断が深まらないよう啓発する側も意識せねばなりません。