「社会復帰したい」と感じてきたら ~「どうやって歩きだそう?」「どうやって歩いていこう」そんな迷いを抱える方へ
暮らし出典:Photo by Asael Peña on Unsplash
「いつかは社会復帰したい」「就職したい」
ほとんどの方がそう思いながらも「今」の苦しみから抜け出せず、そこからの一歩の踏み出し方がわからなかったり、勇気が出なかったりしているのではないでしょうか。
私は40を過ぎてから精神疾患にかかって無職かつ生活保護受給者となり、その後何年も引きこもり生活を続けていました。
私は独身です。もちろんこの年齢ですから、親元から遠く離れています。親しい友人が近くにいますが、友人は私よりも重症でした。私は支えを必要としていましたが「支えてもらう」よりも「自分が支えなければならない」そんな立場だったのです。
人の目、ドアの外、自分が世間で非難を浴びている生活保護受給者であること、大きな音、人の話し声、笑い声、狭いところで他人と一緒になること、人が大勢いるところ、定期的に行かねばならない生活保護課……様々なものが恐ろしく、ビクビクしながらただその日が過ぎるだけの毎日で、例外は、友人からのアクションがあったときのみ。新しいことに挑戦するなど考えも及びません。
「最初の一歩」
そんな私がどうやって歩きだし、歩いているのか。
私なりの回答を、具体例を挙げつつ話そうと思います。
これを書くことによって、誰かの「最初の一歩」のきっかけとなれますように……
生活支援事業所
私はまず「できるだけ外にでなければ」「生活リズムを整えなければ」と考えました。
最初は自力で「できるだけ、犬の散歩を30分以上する」こと。そして「昼の12時までには起きて、明け方4時までにはベッドに横になる」ことと「週に2日はお風呂に入る」こと。不眠症であり、気力もあまりない私は、好きだった入浴さえも、あまりしていなかったのです。
洗濯はしていました。買い物も最低限はしていました。しかし調理に時間をかけることはなく、栄養バランスも偏っています。掃除もホコリの塊を見つけたり、犬の毛が気になってきたらする、という程度。そんなとき「生活支援」という言葉を聞き、役所の福祉課に行こうと決意します。
決意してから行動するまでが長いのですが、それはまた別のお話。
福祉課では「相談支援事業所」のことを説明されました。また「生活支援センター」や「ヘルパーさんの利用」を勧められ、距離的に近いところをいくつか紹介して下さり、人数に空きがあるか問い合わせてもらい、自宅で検討。狭い空間は怖いので、できるだけ広そうな、アクセスのしやすいところを選びました。
3日間ほど体験通所して、他の生活支援事業所を実際に見ることもなく、最初の一歩になればと契約しましたが、半年ほど、週に1~3回の通所を続けたあとに、人間関係のこじれが原因で足が遠のき、そことの契約は切れることになります。
相談支援事業所と生活改善
福祉課で紹介されて自宅まで来てくれた相談支援員さんですが、説明され契約したあとに受けたヒヤリングの結果、ヘルパーさんを頼むことになりました。
週に2回、2時間ずつ。お願いするのは、料理と掃除、時々買い物。ただ、最初のヘルパーさんの料理は好きだったのですが、今もお願いしている2人目のヘルパーさんは、掃除は得意だけれども料理は苦手という方。でも、2人目の方に変わるころには、私自身、栄養バランスを考えた食生活を意識する習慣がつき始めていました。
私は料理上手ではありませんが、料理をすることは嫌いではありません。調理道具をそろえるのが好きで、専門店にいくと、大型書店での本の虫のように楽しくなってしまいます(私は本の虫でもありましたが)。なので、少しずつではありますし、インスタント食品や缶詰と併用ではありますが、少しずつ料理をする頻度が増えるようになってきていました。
散歩の頻度や距離も、短いときもありますが、次第に多く、長くなり、ときには友人と、暗くなってから5時間ぐらい歩き続けていたこともありました。夜中までかかる散歩ですから、一度も不審者として警察官に声をかけられなかったのがちょっと不思議ではあります。
お風呂は、苦労しました。
髭剃りこそ毎日していたものの、毎日体を洗うことが自分にとってハードルが高いもののように感じてしまいます。湯船につかるのは好きなのですが、トイレとセットになったユニットバスで、体を洗う場所がないことも大きいかもしれません。そこで「毎日湯船にお湯をためる」ことを思いつきました。ためたら入ろうとするだろう、と考えたのです。
私は喫煙者で、本や漫画が好きで、お酒も好きで、しかもひとり暮らし。誰に気遣う必要もなく、入浴ができる環境なのです。ユニットバスに、合成樹脂の薄い板を百均で見つけたので置いてみて、そこにスマホや本、灰皿やお酒など、そのときの気分で好きなもののせて。
タバコと灰皿のことが多かったですね。湯船につかりながらのんびりとふかすタバコは、ちょっぴり背徳感と特別感がありました。でもたぶん、ご家族と同居している方がこれをすると、高確率で怒られます。タバコ臭が抜けにくいので。でもタバコでなく、飲み物を用意して長湯するのは健康にもいいらしいですから、おすすめかもしれません。
今は、自分なりのご褒美を用意する必要もなく、毎日入浴しています。
自分で調べたり考えだしたりしたものだけではありません。友人からアドバイスをもらって「今の自分」を見つめること「できること」「できないこと」さらに「努力すればできるかもしれないこと」と「できないかもしれないけれど、してみたいこと」を時折、ノートに書くようにしました。
そして、できるだけ毎日「振り返る時間」を作るようにいわれ、努力しました。「その日起きたこと」そして、その「よかった点と悪かった点、具体的な改善案」を考えて書くのです。大切なのは「具体的に書く」こと。抽象的な表現だと、どう進めばいいのかわからなくなりますが「具体的に書く」と、次に進む方向と踏み出し方が見えやすくなるからです。
現在通っている就労移行支援事業所でも、同じようなことを最初に学びます。「自己理解」と「セルフケア」そして「配慮依頼」です。できることと、できないことを明確にして、症状が弱いとき、強いときのセルフケアを探り、自分の特性上助けてもらった方がいいことを学ぶわけですね。
「自分の今の状態を理解」しないと「どうしたら自分で改善できるか」もわかりません。人に助けてもらうためには「どこが問題だからどういう風に助けて欲しい」かを伝えられなければなりません。これができるようになると、人との交流が楽になります。人との交流が楽になると、心の負担がかなり減ります。
もちろん、私がこれを習慣にするまでには、3年ほどかかりました。先に精神疾患が改善していた友人に、厳しい、でも心のこもった指導を受けながらです。
何度友人に叱られて、泣いたことか……
これらすべてを自分ひとりでするのは、きっとかなり難しいと思います。就職を意識し、就労移行支援に通うようになってから、そこで学ぶので急ぐ必要はないのかもしれません。
本格的に「社会復帰」を考える
「社会復帰したい」と思っても、そんなすぐには動けません。まずは何をしようかと考え、友人や相談支援員さんと相談した上で、生活改善にとりかかりましたが、今でも掃除はあまりできていません。特に汚れが気になったときにはしますが、基本は週に一度のヘルパーさんに頼ってしまっています。
それでも、生活リズムが次第に昼型になり、犬にご飯を上げるタイミングで食事をする習慣がついた結果、日に2食、ほぼ決まった時間に食べるようになりました。これは犬の健康を第一に考えていたら、自然とそうなっていました。
中年のおっさんのワンルームひとり暮らしですから、自覚はないものの加齢臭も気になります。タバコ臭やペット臭もあるでしょう。消臭スプレーはもちろんですが、毎日空気の入れ替えをするようになりました。天気のいい日は布団やマットレス、枕などを干しますし、コートやジャケット、ときにはカーテンなどの大物も不定期に洗濯したりクリーニングに出したり。
生活の中心が昼間になったことで、夜遅くまで営業しているスーパーやコンビニだけではなく、旬のものを安く仕入れているであろう商店街での買い物も、ちょっとバスに乗って業務用スーパーに買い物にいくこともできるようになりました。犬の散歩の時間も、夜中だったのが夕方に、いつの間にか変わっています。
精神的にも安定してきたので、社会復帰の方法を現実的なものとして考えるようになり、相談支援員さんのモニタリングのときに、就労移行支援を考えているんですが……と打ち明けて。
いろいろなところを紹介されたのですが、その相談支援員さんと繋がりのある就労移行支援事業所が、送迎もお弁当もあり、連れてきたいなら犬も連れてきていい所ととのことで、体験通所ののち、そこに通うことにしました。外出にまだ抵抗があった自分には「送迎つき」は魅力的だったのです。さすがに犬は連れていきませんでしたが、おかげで「日常的に通所する」という習慣をつけることができました。
現在通っている就労移行支援事業所とは違う事業所です。
次の章では、変えた理由と、変える過程で知った様々な就労移行支援事業所を紹介します。
就労移行支援事業所
最初に通った就労移行支援事業所を辞めた理由は、少なくとも役職者に就労移行支援経験者がおらず、していることも以前通っていた生活支援センターに近いと感じて「ここで就職するのは難しい」「少なくとも自分が興味を持てる職場には行けそうにない」と判断したからです。
そこで、ネットで通いやすい位置にある就労移行支援事業所を検索し、興味を持ったところにはまず体験通所してみました。
ほとんどの事業所では昼食は出ないのですが、出るところもあります。交通費が出るところもあります。無料のドリンクバーを設置しているところもありました。うつ病の受け入れに自信があるところ、発達障害を対象にしているところ、引きこもりの方を得意としているところ……。和気あいあいとした雰囲気のところもあれば、塾か職場のように、黙々と作業しているところもあります。業務中の私語厳禁という張り紙がされているところもありました。
訓練内容も、IT系、つまりはプログラミングを得意とする所や、クリエイター系を育てようとするところの他に「専門はこれだけれども求められればなんでも用意します」という事業所もありました。
ネットで検索していると、就職後の定着率を重視した方がいいとの意見もありますが、私はそこを調べずに、発達障害を主に扱うことを大前提として、雰囲気を重視しました。
ただ、通っている事業所はITに強いことを謳い文句にしているのですが、同じ名前のITを打ち出していない事業所は自宅から遠かったので、Officeソフトの学び直しとHTMLやCSSの基礎が学べればいいということでそこに決定。事業所の方もそれで問題ないとのことなので、体験通所で雰囲気を感じ取った後、ここならばと契約しました。
就労移行支援事業所に通い続けて
就労移行支援事業所に通える期間は2年。私は2年を過ぎて延長期間に入り、現在5か月目です。就職活動はまだ実を結ぶ様子はありません。ひとりだと間違いなくめげて動けなくなってしまっているでしょう。ですが、事業所選びについては納得しています。
生活支援センターも、就労移行支援事業所も、もっといえばヘルパーさん……その会社自体も、様々です。いろんなところを見て、体験して、納得できたら通ってみてください。
そうそう、実は最近知ったのですが、事業所が交通費を支給していなくても、自治体からの助成が出ることもあるそうです。自治体のウェブサイトを調べたり、お住まいの役所の福祉課に問い合わるとわかるそうですよ。
交通費。積もり積もって、かなりの額になりますもんね。昼食代もしくはお弁当を作る手間に加えて、毎日の交通費まで……。経済的にも苦しいし、就職活動も難航しているしと、ようやく内定をいただけた企業に飛びついて就職。でも合わなくてすぐ退職。そんな仲間が何人もいます。そのうち半分くらいはまた一緒に就職活動をしていますが、半分くらいは心が疲れたのか辞めてしまいました。
せっかくの就労移行支援事業所なのですから、支援員さんに頼って、心の余裕を取り戻してから、就職活動を再開する方がいいと思います。
最後に
「最初の一歩をどうやって踏み出すのか」私なりの回答は……
まず、自分の「今」を客観視することだと思います。
「今」を客観視できたら、できないこととできること、やりたいこと、やりたくないことなどがわかります。それらを、目に見える形にしてみてはどうでしょう。書き出して整理してみるのはどうでしょうか。
問題点が分かれば、具体的な解決案も出てきます。その中で一番手を付けやすくハードルが低いものから手を付けてみましょう。
階段を一足飛びに駆け上がるのは無理です。自分にとって歩きやすい道で、低い段差から越えていけば……
いつの間にか、道が拓けてくるはずです。