「現代の座敷牢」寝屋川監禁死事件を振り返る③~地域・福祉・医療が本当に防げたのか
統合失調症 発達障害◀過去の記事:「現代の座敷牢」寝屋川監禁死事件を振り返る②~鬼母へ全方位からの攻撃
寝屋川監禁死事件は当初から、「座敷牢は防げなかったのか」「地域の目が行き届いていれば」「医師や福祉がもう少し踏み込んでいれば」という「たられば論」も多く出ました。兵庫県三田市や大阪市平野区の座敷牢でも同様の声が聞かれます。
虐待などにも言えることですが、こうした事件を反省するには医療や福祉の従事者に強制力がなさすぎます。三田市の場合、過去に市職員が座敷牢を見つけていたものの通報しなかったという出来事がありました。まずは私宅監置を見つけたら通報するようにすることから始めてもらいたいです。
ちなみに、110番するか微妙で迷う時には、「#9110」の番号で相談だけすることが出来ます。現代の座敷牢は他にも残っている筈ですので、疑わしい家があれば相談してはいかがでしょう。
ゆめ風基金の抗議声明
事件に対し厳しい抗議声明を掲げたのが、災害に遭った障害者の支援を行う認定NPO法人「ゆめ風基金」です。ゆめ風基金はブログにて「事件への抗議」と「社会への問題提起」、そして精神障害当事者のコメントを掲載し、被告へ批判するだけでなく社会や周囲にも問題意識を持つよう求めました。
事件への抗議は各方面へ向けられています。「人間の尊厳を奪い尽くして死なせた」と被告を、「積極的な介入をせず及び腰でいた」と行政や児童相談所を、「他人に無関心で結局何もしていなかった」と地域の住民を批判しています。また、「学校や教育委員会は子どもへの虐待へ敏感になるように」「間違っても減刑嘆願運動など起こさないように」とも要望しました。
社会への問題提起として、「メディアは簡単に病院へ入れろなどと言って分断を煽らないこと」「精神障害者への迫害がまかり通っている今こそ事件を風化させてはならないこと」「子育てを家庭だけでなく地域の問題とすること」「公的な福祉サービスを拡充し支援体制を整えること」「重度の精神疾患でも地域で自立していけるよう医療が成長していくこと」なども求めています。
当事者のコメントとして、「21世紀になっても私宅監置があることに驚きを禁じ得ない」「精神障害者なら監禁しても許されると思わないで欲しい」「周囲の適切な支援があれば結果は変わったかもしれない」などが載せられました。特に精神障害者の監禁や拘束に対する怒りの声が半分を占めており、精神科への入院が最善手どころか悪手にすらなり得ることも示唆しています。
「閉じ込めたい気持ちそのものは理解できる」
一方、身内が精神疾患を抱える人の中には「心情そのものは理解できる」とする意見もありました。精神疾患患者の家族を支援する活動に従事しているAさんは、監禁そのものは許されないとしながらも苦悩そのものへは一定の理解を示しています。
Aさんは「自分にも統合失調症の息子がいるからこそ、『いっそ閉じ込めてしまいたい』と泣き言を吐く気持ちがよく分かる。激昂して暴れる息子のせいであばら骨を2本折られたこともあったが、それでも周囲に相談できず自分ばかり責めていた。誰かに救いを求めるより、息子のことを隠したい思いが勝ってしまう」と語り、同じ境遇なら誰でも一度は考えるとしています。
また、病識(自分が病気だという自覚)がなく通院を断るケースもあり、病院とのアクセスも難しいとAさんは説きます。Aさんの場合は「睡眠薬を貰いに行く」と言ってようやく病院へ連れて行けたものの、その日のうちに息子が薬を焼き払ってしまい絶望したそうです。八方塞がりの末に閉じ込める決断に至ったのではないかというのがAさんの見解で、「心情そのものは理解できる」という意見に繋がっています。
入院が最善手とは限らない
入院という選択肢もあり、被告もそれを望んでいた時期がありました。しかし、精神科での入院はかなりリスキーな選択肢とも言われています。精神科の入院は長期化しやすく、病院によっては監禁や拘束を過剰に行う所もあり、極端な場所では暴力すら日常茶飯事です。
たとえ触法行為を行わない善良な病院であっても、入院の長期化自体は避けづらいとされています。その理由が、統合失調症自体の持つ「分かりにくさ」です。
統合失調症は原因だけでなく、寛解したかどうかも判断の付きにくい厄介な疾患です。先日、精神病院に40年入院した男性が国を訴えるニュースがありましたね。その男性は「様々な作業療法へ真剣に取り組んだが、自分より後に入った患者が次々と退院する始末だった」と述べています。
重要なのは、「後に入った患者が次々と退院した」という所です。病院や担当医の考えは知りませんが、恐らく退院する基準を満たしていない(そして本人に知らされない)まま長年過ごしていたのかもしれません。とはいえ、別の病院に移るとあっさり退院できたそうなので、40年入院した病院の方がおかしい可能性も残っていますが。
統合失調症そのものの難しさ
入院が長期化する別の要因として、「退院後の受け入れ先がないこと」が挙げられます。例えば家族が「戻ってきてほしくない」と断ったり、近所の人が「またあの人が住むなんて嫌だ」と拒んだりして、病院以外に住む場所が無くなっているケースです。
統合失調症は本人の病識が怪しいだけでなく、疾患や患者のイメージも非常に悪いです。そのため、「おれの隣に住まわせるな!」の連続で退院後の受け入れ先が見つかりにくいのです。グループホームや作業所を建てようとしても地元住民に猛反対された人は多いですよね。
家族や地域が受け入れてくれない以上、退院しても行き場はありません。もし退院後の住居が確保できたとしても、薬をやめたり妄想がぶり返したりして悪化する危険性もあります。
統合失調症患者が妄想で語り出した時は、それを否定も肯定もせずに上手く話を逸らさねばなりません。例えば、「機関にマークされている!」と言われたら、「機関って何?」「機関なんてねえよ」「マークされてるの?大変だね」などと返してはならず、機関の話からそれとなく離れる具合です。妄想の話と気付く閃きや話題をうまく逸らす話術を地域住民一人ひとりに求めるのは酷でしょう。
精神疾患とは退院がゴールではなく、退院後の生活が成り立たなければ治療完了とは言えません。精神病棟の異常性を糾弾するならば、退院後に隣へ越したとしても受け容れる程度の度量は持ってほしいものです。
参考サイト
寝屋川監禁死事件への声明文紹介|被災障害者支援 認定NPO法人ゆめ風基金のブログ
https://yumekazek.com
精神疾患患者の父 寝屋川監禁事件に「気持ちはよくわかる」|NEWSポストセブン
https://www.news-postseven.com
警察に対する相談は警察相談専用電話#9110へ|暮らしに役立つ情報|政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp
精神病院40年入院、69歳男が過ごした超常生活|東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net
自閉症スペクトラム障害(ASD) 統合失調症