発達性協調運動障害(DCD)とは〜ただの不器用とは違う?

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発達性協調運動障害(以下、DCD)は、手先の不器用さや運動技能の弱さなどが特徴とされる発達障害の一種です。自閉スペクトラム症やADHD(注意欠如多動性障害)、学習障害等の発達障害には、DCDを合併する方も多いです。しかし、DCDはあまり注目されていないせいか、発達障害に見られる不器用を「努力すればできる」、と見なされ、自信を失ってしまう方は多いです。DCDの特徴やそれに伴う困難について、私のエピソードを交えて紹介します。

発達性協調運動障害とは

「発達性協調運動障害(DCD)」とは、動きや手先の「不器用さ」や「運動技能のつたなさ」が「発達早期」から「極端」に現れる発達障害の一種です。普通の不器用と運動おんちとの違いは、「極端さ」と「日常生活に支障をきたしているか」、という点です。不器用さというのは、ものをよく落とす、人やものによくぶつかってしまう、くつヒモやちょう結びができない、箸やペンの持ち方が上達しない、字を丁寧に書けないなどがあります。運動技能については、逆上がりや自転車、速く走る、周りと合わせるダンスや体操、スポーツでのチームプレイなどができない、もしくは難しい特徴が見られます。

私の場合は、日常生活に支障のないレベルですが、幼少期から今も手先などは不器用で、一部を除き運動は苦手です。不器用さについては、手先にこめる力加減がいまいち分からないのか、ものをよく落とします。昔から今も、箸は正しい持ち方ができず、箸先と膝元を注意しておかないとご飯を零してしまいます。箸を正しく持つ練習はしたのですが、指先の力を上手く調整できないため、力が弱すぎておかずは掴めず、けれど指の当たる所が痛いばかりでした。そうなると、食事すら苦痛になりかねないので、結局上達しませんでした。人が多い場所では、目の前に視線と意識を集中させないと、人にぶつかりそうになります。小学校時代では、ほとんどの同級生は逆上がりをできるのに、私だけはいつまでたってもできませんでした。運動会でするダンスや体操などは、隣や目の前の人を見ながらでないと手順通りに踊れず、しかし動かす手足は鏡のように逆になるため、違うってよく注意されました。そして、昔から今もバレーボールやドッチボール等、チームワークが高く要求されるスポーツでは、ルールに従って、タイミングよく、周りと呼吸を合わせて体と手足を動かすことが苦手です。

自閉スペクトラム症やADHD、学習障害などの代表的な発達障害に、DCDを合併している人は多いです。DCDの原因や仕組みは、未だ明確にはなっていません。ですが、発達障害は生まれつきの脳機能のアンバランスさによるものです。そのため、運動の技能やバランスに関係する脳機能にも、何らかのアンバランスが働いている可能性は高いです。発達障害には、ボディーイメージ(自分の体の大きさと位置、そして他の物体からの距離感)の認知が苦手な人が多いと聞きます。自分と他の物体との距離感が頭の中でよく分からないため、人やものにぶつかりやすいようです。自閉スペクトラム症も、歩き出す年齢は遅く、動作や姿勢に不自然さとぎこちなさがよく見られるため、運動系の発達がゆっくりな傾向があります。

DCDに対する周囲の態度が、生きづらさを生む

DCDのみでしたら、大きな問題はあまりないのかもしれません。しかしDCDに他の発達障害が加わると、日常生活や勉学に困難が生じるだけでなく、人間関係のトラブルや本人の自信喪失などの「生きづらさ」が生じます。

不器用で運動ができない私にとって一番辛かったのは、学校での勉強と周りの態度でした。小学校時代、体育でやったバレーボールでは、チームメイトとタイミングを合わせて走り、ボールを打ち返すことができませんでした。私は自閉スペクトラム症もあるため、バレーボールのルールも、周りの指示の意味も、正直理解できていませんでした。バレーボールの床に貼られたテープの枠の意味も、チームメイトと自分が立つ位置とローテーションの仕組みも分かりませんでした。その結果、私がいるチームはほとんど負けてしまい、「あなたのせいで負けたのよ」、と毎回同級生に怒られました。ドッチボールでは、顔面に走るボールの恐怖や、掴み方とタイミングのズレでいつもアウトになるため、私はたいてい標的にされました。朝礼時とマラソン、水泳では、足が遅く体力も続かない私は毎回ビリで、同級生にも笑われていました。さらに当時の私は、小児喘息や軽度の心臓疾患も患い、肥満気味だったので、運動をするたびにいつも息苦しくて惨めでたまらず、周りの叱責と嘲笑はそれに拍車をかけました。

小学校の行事で千羽鶴を折っていた時、私は折り紙が苦手で上手く作れませんでした。私一人がぶかっこうな折り鶴を作っていると、「ちゃんと心をこめて折っているの?」、と同級生から嘲笑されました。家庭科のエプロン作りでは、私はミシンの使い方もよく分からず、綺麗に真っ直ぐ縫うこともできず、先生も呆れていました。中学校でも、体育の授業や家庭科でのものづくりが不得意で、同級生にも笑われました。高校時代は海外に留学し、そこでは体育の授業を取る必要はなかったので気楽でした。しかし、大人になった今でも、自分の不器用さで周りにどう思われるかが気になり、指摘を受けると内心傷ついたりします。母の知り合いや自分の友人と食事をした時に「箸の持ち方が間違っている」、と指摘された時も、恥ずかしさと哀しさで胸がもやもやしました。ボールペン字が苦手で、誤字や脱字は多く、つたなく幼い印象を与えがちです。服のたたみ方、丁寧なラッピングとリボン結びなどもできないとなれば、ブティックや小物雑貨店などのアルバイトにも苦手意識を抱いてしまいます。

一見すれば、たかが不器用と運動おんち、されど不器用と運動おんちです。DCDほどではありませんが、軽度の不器用さと運動技能の弱さに自閉スペクトラム症を持つ私ですら、学校で上手くいきませんでした。DCDに他の発達障害のある人・子どもの場合、不器用さや運動技能の弱さを、「本人の努力不足」、と周囲が片づけ、叱るなどの不適切な対応が起きやすいです。学校や職場では失敗体験が重なり、周囲から叱責やいじめを受けるやすくなります。そうなると、本人は自信を失ってしまい、不登校や退職などの不適応、精神疾患の発症など「二次障害」が生じる恐れがあります。

DCDへの対処、特技の活かし方

昔と比べるとゆるくなってきているほうだと思いますが、日本は礼儀作法に厳しい風潮が強いです。暗黙の了解が難しい発達障害や不器用なDCDにとっては、いまだ生きづらい社会だと思います。他の子どもはもうできるのに、うちの子だけはいまだに箸やペンがちゃんと持てない。自分の子どもを他と比べることで、自分のしつけが良くないのか、と焦りや不安を抱く親御さんも多いでしょう。発達障害のある本人も、いくら努力してもできなくて、周囲に呆れられて自信を失い、苦しんでいることが多いです。しかし、DCDと言っても個人差は大きいですし、悲観することはありません。「運動」とは、私達が考えるよりもずっと奥深いものです。一般的に、発達障害のある人は運動が苦手です。しかし、本人の興味と特性を考慮すれば、好きな「運動」は見つかります。

発達障害のある人は足が遅い人もいれば、マラソンならすごく速く走る人もいます。大人になった今では、喘息や心臓疾患、肥満が解消されたことも関係しますが、実は私の得意なスポーツはアイススケートとローラースケートです。本来は、高度なバランス力がいるスポーツが苦手な発達障害者は多く、私も自転車やローラースケートに乗れた年齢は遅かったです。しかし、不思議なことに今は、アイススケートなら速く走れますし、夢中になると3時間以上も平気で滑り続けることができます。さらに、水の感覚が心地良いからなのか、自閉スペクトラム症は水中で泳ぐのが好きな人が多いです。私も昔から水中に潜るのが大好きで、9歳の頃に5メートルもの深いプールにしょっちゅう潜って楽しんでいました。理由は明確ではありませんが、私達発達障害のある人は、普段から不安定な足取りで歩いているため、スケートリンク上の不安定さとそれをコントロールできている感覚、水中での浮上感が生み出す解放感を楽しんでいるのかもしれません。

技術や工作、文字を書くことが「苦手な」人もいれば、逆に得意な人もいます。私も、ミシン縫いやリボン結び、折り紙はできないのですが、手縫いのフェルトぬいぐるみを作るのが得意で、それは不思議と楽しくできます。スポーツや手作業にも言えることですが、発達障害の人は複雑な動きや集団競技は苦手です。その代わり、単調な動きやルールが分かりやすいもの、回転する運動、個人プレーが得意な人も多いです。有名な野球選手イチローも、野球への強いこだわりや素振りを延々と繰り返せるストイックさ、一匹オオカミな気質から、アスペルガー症候群の傾向があるのでは、と言われています。

社会人になった時は、書類への記入や仕事先で手作業に苦戦するなど、極端な不器用さが社会生活や人間関係の困難に繋がることもあります。しかし、今は不器用な人のための多くの便利グッズが売っています。これからは完ぺきに、オールマイティにこなすことよりも、自分の得意なところを活かし、苦手な部分は別の人やもので補っていけばいいと思います。不器用な私が、最近工夫していること、使っている道具を一部紹介します。

・苦手なボールペン字←分厚く、ツルツルしない下敷きを使います。なければ、紙の下に紙を何枚か重ねます。こうすると、ペン先が滑りにくくなって安定するのでだいぶ丁寧に書きやすくなります。字が綺麗に書けないことに対して、周囲があまり指摘し過ぎると、本人は自尊心を傷つけられ、緊張から余計綺麗に書けなくなります。

・だし巻きをひっくり返せない←金属ヘラを使うと簡単にひっくり返せます。

・「すみません、やってみたんですけど、手の力が弱いのでこれをお願いできますか?」、と予め断ってから、他の人に頼んでみます。できない時は無理せずに、誰かに手伝ってもらいます。

まとめ

発達性協調運動障害(DCD)について、以下にまとめます。

・DCDとは、極端な「不器用さ」や「運動技能の弱さ」が幼少期から見られ、日常生活に困難を感じる発達障害の一種です。
・発達障害(自閉スペクトラム症、ADHD、学習障害等)は、DCDも持つ人が多いです。
・DCDに他の発達障害が加わると、学校や職場での失敗体験や、周囲の叱責やいじめなどの不適切な対応を受けやすくなります。それが積み重なると、自信の喪失や不適応等、「二次障害」を生じるリスクが高くなります。
・発達障害とDCDを持っていても、興味のあることや特定のスポーツ(単調、ルールが明確、個人競技など)であればできる人や、むしろ得意な人もいます。成長していくにつれて、不器用さと運動発達が解消される場合もあり、個人差は大きいです。
・便利グッズや道具など、工夫をしていくことで不器用さはカバーできます。色々な方法を探しては、自分に合ったものを探して見ましょう。

発達障害のある人に限らず、全ての人には得意不得意があります。運動も勉強も礼儀作法もしっかり完璧にできなければ、立派な大人になれないという決まりは存在しません。

たとえ不器用であっても、それを自分の得意分野や工夫などでカバーする「勤勉性」や、自分自身も含めて他の人の失敗や不器用を許せる「尊重の心」を持つ方こそが、立派な大人ではないかと思います。私はそんな大人を目指していきたいと思います。

少しでも参考になれば幸いです。最後までご拝読ありがとうございました。

参考文献

・本田秀夫(2018)『発達障害生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』SBクリエイティブ

・日本精神神経学会(日本語版用語監修)『DSM-5精神疾患の分類と診断の手引き』医学書院

・岡田尊司(2016)『アスペルガー症候群』幻冬舎新書

・テンプル・グランディン他(1994)『我、自閉症に生まれて』学研

*Misumi*

*Misumi*

自閉スペクトラム症のグレーゾーンにある、一見ごく普通のネコ好きです。10代の頃は海外と日本を行き来していました。それもあいまってか、自分ワールドにふけるのが、ライフワークの一つになっています。好きなものはネコ、マンガ、やわらかいもの、甘いもの、文章を書くこと。最近は精神保健福祉士を目指しながらコミュニケーションを学び、今後の自分について模索する心の旅人。

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