パニック障害vs賦活症候群〜治るために薬を飲むか、飲まないか
発達障害 その他の障害・病気 パニック障害・不安障害最近、ジャニーズのキンプリ岩橋さんやセクゾ松島さんの活動休止のニュースから、パニック障害の認知が広がり始めています。その一方で、抗不安薬の副作用「賦活症候群」も注目されています。私の場合は、「特定不能の不安障害」と「賦活症候群」に悩まされました。今回はパニック・不安障害と賦活症候群の特徴や対処などについて、私の体験談をふまえて紹介します。
賦活症候群がやってきました
大学時代、私は発達障害の診断と過去の体験から傷ついた心のケア等のために、心療内科クリニックに通院していました。通院当初の私は、過去の傷つき体験からくる不安や恐怖、生きづらさ、人付き合いの悩みについて打ち明けていました。しかし、診察室での私はメモを片手に涙が止まらず、声も肩も終止震えていました。そこで主治医の方は、対人不安の強い私が「リラックス」できるように、と薬を処方しました。最初に飲んでいていたのは、スルピリド(抗精神病薬)でした。抗精神病薬は統合失調症に適用されますが、スルピリドのように軽いものなら、不安や緊張の緩和にも効果的です。スルピリドは私に合っていたようで、飲んでから不安感が和らぎました。しかし、半年後には副作用の不正出血があったので、薬の変更を主治医に頼みました。
新しく処方されたのはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の一種、ジェイゾロフトでした。SSRIの適用は、うつ病の他パニック障害を含む不安障害、PTSDなどです。新しい薬を処方されたその日、私はさっそく薬を飲みました。ちなみにその夜、私はインターネットでジェイゾロフトの効能と副作用を調べていました。そして、私の不安と予感が的中したかのごとく、ソレは突如現れました。服薬開始から三日後、私は平静を装っていましたが、食欲がまったく湧かず、理由もないのに強い不安に襲われました。朝から大学に行かなければならなかったので、私はいつも通り駅まで両親に送迎してもらいました。しかし、駅に着く直前になって、私は思わず両親に言いました、「ごめん、もう無理。行けない。車、引き返して」。突然そんなことを言った私に、両親は当然驚きました。しかし、大学での勉強が好きで決して休んだことのない私のセリフから、ただ事ではないと感じた両親は、すぐに家へ引き返してくれました。
実はこの時、「賦活症候群」もしくは「パニック障害」の症状が、私を既に蝕んでいました。胸の底からじわじわと湧いてくる、急激な強い不安や動悸、指先の震え、ひどくなると体の芯からすーっと凍えるような感覚もありました。いくらベッドで横になっても、好きな音楽を聴いても、不安発作を紛らわすことができませんでした。不安で人は死ねるのではないか。今思えば不合理な考えが浮かぶほどにとても苦しく、夜になるまでずっと号泣していました。一番怖かったのは、「このままでは、私が私ではなくなるのではないか。何か恐ろしいこと(自分か誰かを傷つける)をしでかしてしまうのではないか」、という強い「発狂恐怖」でした。それはまさしく、「賦活症候群」にある不安と興奮の亢進、易刺激性などの副作用だったと思います。パニックが起こった翌日には、いつも通り大学には通っていましたが、賦活症候群の強い症状が落ち着くまでに、四日かかりました。
特定不能の不安障害との闘い
賦活症候群(セロトニン症候群)とは、SSRIの服用によって、症状が悪化する現象です。SSRIは本来、安心や意欲、睡眠改善を高めてくれる「セロトニン」という神経伝達物質(脳内ホルモン)の不足によって生じるうつ病や不安障害等に効果があります。しかし、SSRIの服薬量やうつ病・不安障害の重症度、年齢、個人の体質などによっては、かえって不安や興奮、パニックを高めてしまうことがあります。賦活症候群には、自殺などの衝動性や攻撃性を高めてしまう他、不安焦燥や興奮の悪化、錯乱状態、睡眠障害などが見られます。今思えば私も、スルピリドからジェイゾロフト(SSRI)に移った途端に、不安焦燥の悪化や神経の興奮、錯乱と発狂恐怖が急激に現れました。
賦活症候群と同じ状態が、実は服薬「以前も」私の身にしばしば起きていました。周りの同級生や先生にきつく責められ、自分は何でここにいるのだろうか、と急激な恐怖に震えた時。ふと自分の顔、体とそこに宿る感覚、時間、目の前の空間に意識を向け、ここにいる自分、目の前の世界は果たして本当に現実なのだろうか、と不合理な疑問が浮かんだ時。普段は平気で見ていたはずのアクション映画やアニメ、マンガなどの怖いシーンを見た時。東日本大震災が起こる一、二か月前に、突然理由もなく涙と不安発作に襲われ、通学を拒否した時。しかし、それは通常のパニック障害とは違い、一年間に一度か、多くても四回、数えるほどしか起きていませんでした。しかし、SSRIの賦活症候群によるものか、あるいはそれが引き金となって「特定不能の不安障害」を発症したのか、定かではありません。ただ分かるのは、発達障害の特性から周りによく責められていた私が潜在的に抱いてきた不安や恐怖を、賦活症候群が浮上させたことです。
通常のパニック障害のDSM-5の診断基準として、予期せぬパニック発作(突然、激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達する)を繰り返す状態、また発作が起きることへの予期不安が、続けて1か月以上現れることです。しかし私の場合、SSRIを服用して以降も、不安発作が一か月も来ない時もあれば、一週間も続いた時や、賦活症候群のかなり軽い状態がゆるやかに長く続いた時など、症状が安定しませんでした。
不安障害と恐怖の克服
激しい不安発作事件の後、私は何かあった時にすぐ相談できるように近くの心療内科に移りました。新しいクリニックの主治医のもと、ジェイゾロフトの服薬量を半分に減らして飲むことで賦活症候群を緩和させました。しかし、それ以降の二年間は順調だったわけではありません。最初の時よりマシにはなったものの、やはり時折強い不安発作(特に発狂恐怖)は起こっていました。その他、過敏性や不安を感じやすくなったことから、トイレが以前の二倍近くなり、時々喉の異物感による不快な痛みにも襲われました。刃物や危ないものが視界に入ると、死や危険にまつわる恐ろしいイメージが頭を過り、そんなことを考える自分にすら恐怖を抱きました。恐ろしい事件や物語を自分のことのように感じ取って恐怖や悲しみで涙が止まらない、にも関わらず頭の中は悲しい音楽と共にそのことが頭から離れませんでした。自分が決して望んでいないはずの「恐ろしいこと」を、不安発作や賦活症候群が私にさせようとし、私がそれを必死に抵抗しているような、恐怖の時間でした。
不安発作や副作用、そして人にとても打ち明けられない恐怖のイメージに苦しめられながらも、私は主治医と相談してジェイゾロフトを減量していきました。さらに、不安発作が続いた二年の間に、私は発作と月経周期の関係性や季節、出来事など、「発作が起きやすい引き金や時期のパターン」を把握し、起きそうになった時の自己暗示や対処法を学習しました。月経前10日間から月経中は、カフェインやチーズなど不安や興奮を高める食べ物を控え、刺激の強い映画やアニメを見ないようにする、散歩や運動で気を紛らわすなどの工夫をしました。さらに、発作を誘発する刺激(怖い、悲しい、刺激の強いシーンがある物語や、日常生活での外出場面など)にあえてふれる、「暴露法(エクスポージャー法)」を実践しました。認知行動療法の一種である暴露法は、自分の苦手な刺激にあえて少しずつ暴露します。それによって、心と体の防御反応として強く出ていた不安が軽くなる、いわゆる「慣れ」を生みます。ただし暴露法は、途中で苦しくなったらすぐに中止したほうがいいこと、無理をしないこと、弱い刺激から徐々に強い刺激へと段階をふむことが大切です。そうした努力を経て、大学卒業後にもう一度起こった強い不安発作を最後に、私はSSRIから離れることができました。
幼少期から今まで、そしてSSRIの服薬開始から二年間、私をずっと苦しめ続けていた不安発作も発狂恐怖も嘘のように消え、今はその気配もありません。まるで長い悪夢からようやく目が覚めたように。賦活症候群もしくは不安障害の悪夢から生還できたのは、周囲の支えのおかげでもあります。主治医はいつも私の話を丁寧に聞き、SSRIの減量の程度やタイミングについて一緒に考え、私の気持ちを尊重してくれました。私の両親もきっと不安発作に対する戸惑いを感じながらも、私を見守り、時に傍で抱きしめて根気よく支えてくれました。おかげで今は不安発作に苦しめられることもありません。日常生活での嫌な出来事や、映画やアニメの怖いシーンなどに遭遇しても、発作の気配すら起きなくなりました。
まとめ
パニック障害VS賦活症候群について、以下にまとめます。
・「賦活症候群」とは、抗不安薬のSSRIを服薬することで生じる重篤な副作用です。症状には、自殺への衝動性や攻撃性の高まり、不安焦燥と興奮、パニックの悪化、錯乱状態、睡眠障害などがあります。
・パニック障害を含む不安障害、賦活症候群の改善には、適切な薬の種類と量の調整や、リラックゼーション、暴露法などの認知行動療法の試み、自分の不調の時期や引き金のパターンの把握と対処を学ぶことが大切だと思います。
・薬物療法と主治医との信頼関係が鍵を握ります。良い主治医は、相手の話を丁寧に聞いてくれる、薬の調整について真剣に話し合い尊重してくれる方なら大丈夫です。不安障害の治療実績が高い、認知行動療法を行ってくれるクリニックもおすすめだと思います。
私にとっても、あの頃は本当に苦しくて、自分がおかしくなってしまうのではないか、と怖くてたまりませんでした。しかし一方で、私はあの頃の苦しみと恐怖を体験したことに後悔は抱いていないのです。不安発作の苦しみの渦にいる中も、私は日常生活やニュース、フィクションの物語にある恐怖や悲しみにもたくさんふれてきました。そのおかげで、私は人の心や苦しみを乗り越えるのに大切なことも学べました。
「パニックや不安発作で苦しむ人達は、決して弱い人達ではありません」
「むしろ、どれほどの苦しみや悲しみの渦にあっても、自分を保ちながら必死に生きている、それは『強さ』以外の他になりません」
「人生も世界も、苦しいこと、悲しいこと、恐怖がたくさんありますが、だからこそ小さな希望や喜びが、大きな光となります」
「苦しみも悲しみもある世界、人生の中で、私はいかに自分でいること、自分らしく生きるのかについて常に意識するようになりました」
最後は哲学的になりましたが、長いお話に最後まで付き合ってくださった皆様に、感謝いたします。
参考文献
・「抗うつ剤による賦活症候群(activation syndrome)について」青山メンタルクリニック
https://www.aoyama-mc.com
・「スルピリド(ドグマチール錠)50mg基本情報」日経メディカル
https://medical.nikkeibp.co.jp
・日本精神神経学会(日本語版用語監修)『DSM-5精神疾患の分類と診断の手引き』医学書院
・岡田尊司(2014)『うつと気分障害』幻冬舎
・岡田尊司(2013)『ストレスと適応障害』幻冬舎新書
・福井至・他(2016年)『図解やさしくわかる認知行動療法』ナツメ社
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