就労実績を重視する支援機関~採用する側の企業の考え方
仕事精神障害者の私が障害者のOJT実習を担当することに〜配慮事項に関する経験談(前編)を参考に 今年で企業の障がい者担当のOJTを通算7年間、担当してきました。実習に来られた、障がい者の方々が抱えた問題点や就労移行支援の在り方に疑問を持ったことなど、体験談として書いていきます。大げさとか極端など感想を持つ方もおられるでしょうが、全て事実です。時間が経つにつれ、いい意味での変化はありましたが、最初はどう対処すればいいか分からない実習生も多かったのです。
「パソコンを習っている最中です」という言葉は要注意
企業が障がい者の実習を受ける前に必ず、一度、支援機関と実習予定者と面談をします。そこで、本人たちや支援者から、必要な配慮事項や、事務系の実習に来る目標などヒアリングをします。本人が上手く伝えられないことは、支援者が間に入って、配慮事項を伝えることもあります。
そこでよく聞くフレーズは「今、パソコンを練習中なので、事務職でどこまで通用するか試したいです」という言葉です。この言葉を聞くと、OJT側としては少し身構えてしまいます。この練習中という言葉の意味は障がい者に限らず人によって、かなり幅広い意味を持っているからです。全くの初心者から習っているのか、ある程度パソコンを過去の職歴で使用していてPCスキルがあって、スキルアップを図っている最中なのか、人によってニュアンスが違うからです。また「ワード・エクセルを就労移行支援で習っています」という言葉も、同じ意味で不安を感じる言葉でした。
なぜなら、オフィスソフトを勉強している=パソコンの操作が問題なく出来るという構図にはならないからです。ワード・エクセルだけを勉強して、その他の操作方法が疎かになっており、基本的な入力ルールで全角と半角の違いも区別出来ていないことが多々あったからです。
就労経験がある方は、ビジネスマナーなどがしっかりしている傾向はありました。こちらが教えを乞いたいと思うほど、知識や経験が豊富な方も少なからずおられましたが、そういう方は極稀でした。
過去に実際に有った悪い例
ここでは極端な例ですが、以前の会社で実際に有った悪い例をあげさせていただきます。- 1.スーツを着るのが苦手で私服で出社してトイレでスーツに着替える。(会社規則ではスーツ着用で出社しなければならない規則があります。)
- 2.デイケアから実習に来て、周りのスタッフに病名や障がい内容を聞き周り、ひんしゅくを買う。病名や障がい内容は個人情報なので積極的に公表はしていません。(デイケアではそうだからと言って、会社では通用しないです。傷の舐めあいに来たのではないのですから。)
- 3.敬語が話せるが、放棄している。(就労移行支援や学校で習っていたことを活かせていません。)
- 4.支援先から実習へ行くように言われて来ただけで、本人は実習に乗り気ではなかった。(企業にとって貴重な時間を割いているので、お互いに時間の無駄です。)
- 5.学校関係(専門学校を含む)から実習に来て、学校の就職実績を達成するために、採用前提で勝手に話を進める教師達。(採用基準に全く条件を満たしていないにも関わらず、採用をごり押しをする。こういう行為は会社にとって迷惑極まりないです。)
以上のように悪い例を書き出しましたが、障がい者枠だけの話に限ったものではありません。以前、障がい者雇用を考えている一般の会社を対象に都道府県別のセミナーを会社で行ったことがあります。そこでさまざまな人事部の方とお話をする機会がありました。意外だったのが、精神障がい者枠の話よりも新入社員に対してどう接していいのか分からないという相談が多く寄せられました。大学を卒業して書類選考から面談を通過して何百人の中から採用した新卒でも、会社に入社したとたん、服装などが乱れる、仕事でつまずいても、報連相ができないなどの相談が寄せられました。決して、障がいがある方限定の話ではなく、学校から社会に出るときのギャップが激しいのが原因ではないでしょうか?学校ではインプットがメインでですが、社会に出るとアウトプットを要求されます。このことが余り問題視されておらず、社会全体でおざなりになっているのではないでしょうか?このことが、新卒の3年以内に3割が退職するという現実に繋がっているのではないでしょうか?
過去の実習における成功例
次は最初につまずいてしまいましたが、結果的にハッピーエンドに収まった例を紹介させて頂きます。 彼は最初の顔合わせでの配慮事項で「記憶に障がいがあります」とだけ会社に伝えていただけでした。しかし、実習が始まってすぐに問題が発生しました。全ての漢字の読み方に対して、「これはどう読むのですか?」という質問が飛んできたのです。難解な漢字だけではなく、全ての漢字が読めなかったのです。このことは、会社にも私たちOJT側にも知らされてなかったのです。実習の内容は文章を見てデータ入力することがメインでしたので、漢字が全く読めないということは実習そのものに支障をきたし、対応に苦慮しました。その結果、出来るだけ漢字を使わないデータ入力やスキャニングで実習を終えるように方向転換しました。
振り返りの際、上司が支援機関の支援員に一喝したのです。「何故、必要な配慮事項をあらかじめ伝えないのだ」と。OJT側からしても、このままでは事務職に通用しないという現実をはっきりと伝えざるを得ませんでした。
それから、数か月後に就労支援機関から連絡があり、支援者と実習生が相談して事務系から作業系に方針転換を行い、無事に特例子会社に就職が決まりましたと報告がありました。つまずいたことがきっかけで、自分に向いた仕事を見つけることができ、結果的にハッピーエンドに終わりました。
支援者に全て頼らず、自分からも「会社に必要とされる人材になる」ということを考えてから就職活動をしないと、就職してから困るのは本人です。企業も採用してから面接時と採用後のギャップに悩み、仕事の切り出しに困ることになります。次回から障がい者枠での採用に対して慎重に成らざるを得ないのです。現在、法律において法定雇用率で障がい者の雇用を義務付けされていますが、いざ面接で障がい者は雇用対象としていないという会社が未だにはびこっているのが現状です。
悪徳な就労移行支援事業所・支援学校などが名ばかりの実績を上げる為に、取り敢えず実習に行かせて、あわよくばそこで就職をさせようという考えが透けて見えてくることがあります。本人の適性や希望を精査せず、取り敢えずという考え方は、受け入れる企業や本人にとって不幸な結末を迎えることになるでしょう。
就活を行っている方で、金銭面や周囲のプレッシャーで、就職をしなければと焦っている方も多いことでしょう。未経験で仕事に不安があっても、少しずつでも覚えようとする意思があれば、企業も応募者の熱意を感じて採用する場合もあります。最初から自分は出来ないから、といって放棄してしまうと本当に何も出来なくなります。
まずは、自分が出来ること、出来ない事を整理して、自分自身が長く働ける職場にめぐり合うことができるようにするのが、一番大事ではないでしょうか?
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