出来ないことと出来ること~見えるけど見えない世界
暮らし その他の障害・病気「なんで見えているのに、壁に触りながら歩いたり、起き上がったりとしているの?」
先日、僕の行動を見た母から投げかけられた疑問です。“人の顔が覚えられない”という症状と同様に理由を言っても、理解されないでしょうね。
目が見えているはずの友人から、「目は見えているけれど、本人の感覚では主に触覚で対象を見ています」なんて言われたら、あなたはどこまで理解出来ますか?
ヘアアレンジや化粧ができない
以前、母親が僕を鏡の前に立たせて、ヘアアレンジを教えてくれました。言われた通りしているはずなのに、僕は全然上手くできませんでした。その様子を横で見て、しびれを切らした母は「なぜ出来ないの?」と言って怒りながら、僕の頭や手を叩きました。できなかった理由は、母の説明が口頭のみだったからです。そしてもう一つの理由は、目は見えているし耳も聞こえていますが、鏡で自分の顔を見ても、見えているはずの自分の顔が脳内で再生されないからです。だから鏡を見て化粧をしていても、特に目元に関しては、きちんと左右対称にできているかが自分では分かりません。
ピアノが弾けない
僕にはどうしてもできないことがあります。一度に複数のことを同時進行させること、つまりマルチタスクができません。一度に多くの情報を覚えることが難しく、覚えたはずの内容が、本人の努力と関係無く脳内から流れていってしまうのです。
例えば僕の場合、楽譜は読めてもピアノが弾けません。大まかなピアノの練習方法は、“楽譜を見て音符を読んで、曲の流れを覚える→実際に片手ずつ練習する→両手で合わせて弾く”、これを完璧に弾けるまで繰り返します。僕も幼い頃から中学生の途中まで、ピアノ教室に週一回通っていました。そのおかげで、時間はかかりますが、楽譜をみて読むことは今でもできます。しかし今では、それ以降のことは、いくら時間をかけたとしてもできません。試しに楽譜一小節分を見て、片手分覚えて弾くために鍵盤へ目線を落とします。すると鍵盤の白と黒を見たその瞬間、覚えたはずの片手一小節分の内容が頭から消えてしまいます。さらに、両手で合わせて弾くとなると、頭の中がこんがらがって、ついには体がフリーズしてしまいます。
できないこともあるけれど……
“マルチタスクができない”“覚えてもすぐに忘れる”といった症状は、脳内での情報処理の遅さ、記憶力の保持能力の低さ、ワーキングメモリの少なさに原因があります。その結果、人の顔が覚えられないという症状が表れます。同時に目が見えているにも関わらず片足を出して蹴ってみたり、手を伸ばしてみたりして壁に触れなければ、体との距離感が分かりません。そのため、触覚でものを見ている感覚が起こると考えられています。 確かに僕は、一度に記憶できる情報量が少なく、それを長く保存することが難しい人間です。ですがその分、決断力と直感力に長けていると自負しています。だからあまり考え込まず、その場で自分が最適だと考える明確な結論をスピーディに導き出せます。また、時には過去の経験などから、周りと比べて短時間で大胆な決断を下すことができます。
まとめ
僕が発達障害と診断されて、今年で二年目です。自身を発達障害者として見た時、昔のことを思い出して、確かに難しいことが多かったと感じます。僕は今、感覚過敏対策のサングラスや耳栓だけでなく、これら以外の自分の障害特性の対策も考えながら、障害をオープンにした状態での就活に向けた生活をしています。 もし希望が通るならば、僕は事務職、特にパソコン業務の仕事に就きたいと考えています。それを目指すには、報連相など社会人の基本事項だけではなく、基礎的なパソコンスキルも身につけなければいけません。同時に自分は障害者で、特有の考えや感覚を持っていること、それによって出来ることと出来ないことがあることを受け入れなければなりません。僕には目には見えない特性、特に対人関係や作業面に関する特性がたくさんあります。それらを知った上でどう活かすか、どういう言葉で表現して、相手に受け止めてもらうかを、今後も考えていかなければなりません。
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