今しておきたいベーシックインカムの話(懸念編)~無理ではないかともいわれる
暮らし◀過去の記事:今しておきたいベーシックインカムの話(期待編)~想定されるメリット
「すべての国民に」「無差別かつ平等に」「最低限生活できるほどの額を」「審査や申請なしで」受けられるというベーシックインカムには、施行している場所が無いながらも称賛の声が上がっています。前回話した生存権や雇用体制などへの良い影響が期待されているからですね。
しかし、実際にやるまで分からないことだらけのブラックボックスである以上、現実に導入するのは大きな賭けとなります。それゆえに様々な懸念や不安も噴出しています。前回取り上げた楽観的な予測とは反対に、今回は悲観的な予測を取り上げてみましょう。
まず財源がない
最大の問題となるのはやはり財源でしょう。ベーシックインカムの理念を満たすには莫大な費用がかかり、無理に導入すれば激しい増税がもれなくセットでついてくることになります。仮に増税なしでベーシックインカムを導入すると、年金や生活保護のほか雇用保険なども廃止したうえで月4万6000円ならば支給できるという試算が既にあります。多くの社会保障を犠牲とするには割に合わない金額といえます。
増税するにしても生半可な税率では機能しません。もし消費税だけで賄おうとすれば35%程まで増税せねばならないとされており、これは高い税率に定評のある北欧諸国すらも越えています。財源の確保からして非現実的とする声もむべなるかなといった所でしょう。
ベーシックインカムを実行するにあたって必要となる財源は、増税だけでなく人口の少なさや天然資源の有無によっても影響されるため、日本で導入するのは現実味のない絵空事とも言えるでしょう。
本当に救われるのか?
仮に財源の問題をクリアしたとしても、本当にベーシックインカムで救われるのかという施行後の不安は拭いきれません。まず、ベーシックインカムが既存の社会保障と成り代わったことで支給額以上の支援が出来なくなり、福祉水準が下がるのではないかという懸念があります。
重い障害(種類問わず)を抱えていて経済的余裕もない人は、民間の介護に頼る事もできずに生存権の保障されない生活を強いられることでしょう。ベーシックインカムのもとでは医療保険もないため、通院による出費も一気に跳ね上がります。障害者にとっては不利なことばかりかもしれません。
期待されている雇用体制の改善についても、ベーシックインカムをいいことに給料を限界まで下げられてしまうのではないか・雇用保険も無くなっているため改善どころか余計に悪化してしまうのではないか等の疑問があります。
他にも、経済の循環については「貧困層が貯め込んで使わない」「外国産の商品を買われて国内で循環しない」といった反論があります。労働条件の緩和も「過酷な条件(休日出勤など)を避けられることでインフラや治安が崩壊する」、運営コストの削減も「増税で賄えば脱税チェックをする必要があり、そのコスト次第では無意味になる」といった、期待と表裏一体の懸念もあります。ベーシックインカム本来の目的を果たせるかどうかが、ベーシックインカムの仕組みそのものによって疑問視されているのです。
渡して終わりになるかもしれない
ベーシックインカムのもとでは一定額を支給する以上の支援が原則行われないうえ、施行前にあった社会保障はほとんど廃止されています。つまり、定期的に支給してハイ終わりという投げやりな態度で済まされる可能性も十分あるという訳です。
渡すだけ渡してあとは自己責任というスタイルは、生存権の保障という目的に対して矛盾しています。極論、支給したそばからギャンブルで全額失くされてはもう打つ手がないのです。ギャンブル程極端な例でなくとも、ベーシックインカム導入に伴う増税や新手の詐欺などで給付金の大半が食い潰される事態はあり得ます。
なんにせよ既存の社会保障をほぼ全て捨ててしまうのが施行後に考えられる大きな難点です。例えるならスーツとヘルメットを取り上げられる代わりにより馬力の高いバイクを貰うようなものです。普段着のままバイクを走らせると比較的軽い事故でも十分命に関わってきますから。
偉大な実験は既に行われた
ベーシックインカムは期待と懸念の両面で実際にやってみなければ分からない部分が多く、ほとんど賭けです。それゆえに実行を躊躇う動きも根強く、そもそも財源がないので不可能とする見方こそ最も筋が通ったものではないでしょうか。
膨大な不確定要素を少しでも減らすべく、フィンランドやカナダなどでベーシックインカムの実験が行われました。実験すらも巨額の資金を要求されるため、とても貴重なデータとなります。ベーシックインカムの効果を占う実験の結果はどういったものなのか、そこから何が示唆されるのかを次回のテーマとしましょう。
参考文献
ベーシックインカム - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org
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