障害者施設が近隣住民の猛反発で建たない問題
暮らしグループホームなどの障害者施設を建てようとした時、地元住民から猛反発を食らって頓挫(とんざ)するケースがあります。毎日新聞の調べでは過去5年間で68件も報告されており、しかも対立を把握していない自治体もあって実数はより多いとも予想されています。
反対を受けた施設ではグループホームなどの入居施設が最も多く、就労支援などの通所施設やデイサービスなど児童向け施設も少数ながら反対を受けていました。
障害者が地域に溶け込むため、従来の山奥ではなく人通りの多い場所に建設するのが是とされている昨今ですが、いざ近所に建つとなれば住民は血相を変えて猛反発しているのです。反対運動に対して介入するかどうかも自治体によって異なり、援助されず孤独を強いられる運営母体もあります。
無知ゆえの反対
反対側の理由として挙げられているのは「何をしてくるか分からないし怖い」「周辺の環境や風紀が乱れる」「十分な説明を受けていない」といったものが多いです。ほとんどの場合、無知や偏見が強固な反対運動に繋がっているとみていいでしょう。
施設側が抜き打ちで建てるような不義理でもない限り、反対側による優生思想剥き出しの不安が対立の原因になってきます。横浜市都筑区でグループホームの建設が反対された際、住民側は「入居者が子どもを襲う」「住民の安全を守るため断固反対する」とデモを行っていました。中には「不動産価値が下がる」と懸念する住民もいたようです。
ひとえに無知や偏見がこうした反対活動へと駆り立てているのでしょう。行動の読めない人間(初対面など)を警戒したくなるのは健常者相手でも自然なことといえますが、子どもを盾にして主張する姿勢はあまり感心できません。ここぞとばかりに障害者へのヘイトスピーチを吐き出す人さえいます。「大阪の夢洲に施設を建てて隔離しろ!」というツイートまで見ました。
では障害者について知ればいいのかというと、そう単純な話ではありません。寧ろ「知る」というステージに立つことすら拒否される有様です。横浜市緑区の別件で、NPO法人「ぷかぷか」が反対住民に向けてドキュメンタリー映画を見せたところ、開始数分で非難轟々となり中止させられた出来事がありました。その映画はカナダの啓発イベントで激賞され、国内での評判も上々だった由緒正しき作品だったのですが、それすらも即座に拒否されたのです。
知ってもらうのも簡単ではない
「ぷかぷか」の代表である高崎明さんは、「理論立てて反論するより、実際に障害者との『いいお付き合い』を経験してもらう方が早い」という思考の持ち主です。そのため、建設予定地近くにある学童保育の子どもを対象に「ぷかぷか」の利用者とパン作りを行う体験型イベントを開催しました。「ぷかぷか」利用者から親切に教えてもらいつつ、楽しくパン作り体験が出来ていたそうです。
ただ、一緒に活動するなどで知ってもらおうにも、その機会すら与えられなければ打つ手はありません。関わりがあったとしても中途半端な交流では逆に偏見を強めてしまう場合もあります。相模原の植松被告も元々はやまゆり園の職員でしたし、ヘイトクライムまで及ばずとも「こいつはダメだな」と考えて終わるケースは多いでしょう。
就労支援施設をB型・A型・移行と経験した筆者でも、「この人は就職できそうだ」「うるさいけど雑談は上手で付き合いもいいからクローズドでも定着しそう」「この人は怒り出すと論外」「そもそもB型より先でやっていけるビジョンが浮かばない」と利用者仲間への下馬評を胸の内で行っていました。
一方、高崎代表は30年以上も支援学校などで障害を持つ生徒と関わっておられました。その道のりも決して平坦ではなく、生徒から汚物を投げつけられたり周辺住民にクレームを入れられたりと壮絶な体験も多くなさっています。ただ、障害者を知るのに汚い言葉や物まで投げつけられる必要があるのでしょうか。一般人や素人でも偏見を矯正する方法がなければ、ごく一部の精力的な取り組みに終わってしまうでしょう。
そもそも、過去障害者にトラウマを負わされたという人も残念ながら存在します。弱そうな子を脅かすのが楽しいというヤンキー趣味は健常も障害も関係なく潜んでおり、「子どもの頃知的障害の大人に追い回された」という体験談も少なくありません。障害者がみな遵法意識を持っているとは限らないのですが、それゆえに少数ながら軋轢が生まれてしまうとも言えます。
仲介してくれない自治体
理由はどうあれグループホームや就労支援施設の建設を妨げられるのは障害者を自立から遠ざけ時代に逆行する由々しき事態です。施設側と住民側がどうにか歩み寄って話を進められればいいのですが、二者間では話し合いの場すら設けられないことでしょう。施設の説明会に出ようともしない住民もいます。
そこで頼みとなるのは自治体による公的な仲介ですが、自治体によっては全く関与しない所もあり、結局反対住民に押し切られるケースが多いのです。「施設から地域へ」は国の方針である筈ですが、衝突が起こっても「当事者同士でどうにかしろ」と無責任に突き放されるのが現状です。全部が全部そういった自治体ではないのですが、これでは「居住地くじ引き」と揶揄されそうなものでしょう。
仲介者もいない中で説明し理解を得るのは並大抵のことではありませんが、施設側が説明するといいのは自治体からの認可と入所や利用の基準になるのではないかと思います。説明会の模様は分かりませんが、その程度は既に説明している筈です。
要するに、グループホームや就労支援施設では暴力的過ぎる人の入所を認めていないことが伝わっていればいいのです。グループホームは入居者同士で助け合うシェアハウスのようなものですし、就労支援施設も基本は集団行動をする場ですので、暴力行為に対しては看過しないでしょう。法に触れるなど目に余る行動に対しては強制退所を命じるなどの契約事項はある筈です。利用する障害者にしても自立する意思がある以上、敢えて法に触れる真似をする意義もないでしょう。
ただ施設側が必死に説明や証明をしたところで素直に聞いてくれるかは不透明です。円滑にやり取りを進めるには、結局のところ自治体の仲介が欠かせません。しかし両者を取り持ってくれるかどうかは運次第というのが現状です。
参考サイト
障害者施設「反対は差別」 全国初、紛争解決申し立て 横浜市のグループホーム:日本経済新聞
https://www.nikkei.com
グループホーム建設の反対運動は、障がいのある人たちと分けられた歴史がそのまま吹き出したもの|ぷかぷか日記 - NPO法人ぷかぷか
https://www.pukapuka.or.jp
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