相模原殺傷事件・植松被告の判決言い渡しまでに思う事

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僭越ながら最初に個人的な意見を述べさせていただきます。この裁判、100%死刑になると言い切れない材料があると思うのです。その材料とは昨年末の無期懲役判決ラッシュと、無罪を主張する弁護側の極めて強気な姿勢です。19人の死者を出した未曽有の事件ではあるものの、片や死刑片や無罪となると裁判長によっては「間をとって…」などと言い出すかもしれません。

裁判長とは周りや世間の感想よりも自身の信念や正義に基づいて判決を下すものだと、中学時代に公民の授業で聞いた覚えがあります。しかし今回の裁判は植松聖ひとりの処遇を決めるに留まりません。「この3年半で社会は重度障害者との共生へ傾いた。やはり無理だったと早々に気付いて貰いたい」とまで言い放った、いわば「差別意思の代表」への処遇です。

今なおネット上に賛同者は絶えず、英雄と称える者すらいる体たらくを正すには、日和見なき極刑以外ありえません。優生保護法を捨て障害者の自立へ一歩ずつ前進してきた20年強の歴史を冒涜するような判決にならないことを切に願います。

被告最後の意見陳述

結審の日、弁護側の最終弁論が終わってから被告による意見陳述の機会が設けられていました。被告が法廷で意見を許される最後の機会とあって、何を述べるのか注目が集まります。一連の裁判の締めについては、作家の雨宮処凛(かりん)さんが纏めてハフポストに載せています。

植松被告が最後の意見陳述で語ったのは以下になります。心からの謝罪や反省については終ぞ語られることなく、寧ろこれまでの延長で思想を説くばかりでした。

「ヤクザは様々な業界に本気で取り組む実業家でもあるので、厳罰化によって関連の犯罪はなくなります。ただ捕まるのは下っ端なので、司法取引で終身刑にするといいです。刑務所の中でも幸せの追求はでき、その方が生産性も上がります

いかなる判決でも控訴は致しません。一審だけでも長くて疲れ、負の感情が生まれました」

重度障害者の親は早死にします。寝たきりならばまだしも手に負えない障害者もいるので、その介護で気を病んで早死にするのです」

「日本の借金が1110兆円にまでなったという報道がありました。知らなかったでは済まされません」

「最後に、この裁判の争点は自分が意思疎通の取れなくなる未来を考えることだと思います。ご清聴ありがとうございました」

発言のほとんどをスピーチに費やした被告の態度を、雨宮さんは「植松劇場」の四文字で表現しました。障害者施設の在り方にほとんど迫ることができず、職員時代の2年間における変心の理由は分からずじまいだったことを雨宮さんは残念がっておられました。

植松被告最後のスピーチで個人的に注目したのは、「ヤクザ」「終身刑」「刑務所の中でも」という流れです。自身の死刑判決がかかっている中で「終身刑」の単語を出し、「刑務所でも生産性は担保される」と謳うことに意味があると思うのです。

これはかつて宮崎勤が死刑の手段について「絞首刑は残虐なので服毒刑に変えてほしい」と異議申し立てした出来事と重なって見えます。要するに、無期懲役判決のメリットを遠回しに説いているのではないかと思うのです。そうなると小林カウ(ホテル日本閣事件の主犯)が「死刑だけは堪忍してね」と媚びたという記録も重なってきます。

裁判を終えて

時に生傷を抉られながらも長い裁判の中被告と対峙し続けた遺族らもひと段落がつきました。特設サイト「19のいのち」にて追い続けていたNHKの取材班は、「多くの人が知りたかったであろう『事件の動機』については結局語られなかった。しかし、頑固に思えた差別的主張が質問の中で何度も綻び、論理の浅薄さが浮き彫りになったと思う」と総括しています。

努めて柔和に子を諭すような口調で質問をしていた遺族(60歳女性の弟)は、最後の意見陳述でもスピーチをする被告に驚いたと言います。「最後の最後まで己の主張を押し付けて心の整理をしているのだろうと思います。とても醜い姿でした。」「自分の気持ちを直接述べれば気が晴れるかと思いましたが、全く整理がつきませんでした」

元家族会長で事件直後から唯一姓名を公表していた尾野剛志さんは、「結審したので、ホッとしています。弁護士は無罪を主張していますが、我々被害者家族は検察の求刑通り死刑になると確信しています。」「被告の本心は依然掴めないままですが、最後の『裁判は疲れる』という発言は彼の本音だったと思います」と語りました。

識者の意見は

「美帆さん」遺族の代理弁護人である滝本太郎さんは、今回の事件を「テロ」と見做すべきだとNHK取材班に語りました。「安楽死の導入を政府へ訴えるために被告は19人もの人命を奪いました。理想を訴えるための殺戮とはすなわち『テロリズム』であり、裁判ではその点を注視すべきです」

また、滝本さんは事件の一因として「役に立たない自分の挽回」を挙げ、「自分が役に立たないのではないかと考える若者は少なくないと思いますし、それ自体は本人でなく政治や社会の権力者の責任です。しかし、その挽回として検討不足の粗雑な思考のもと凶悪犯罪に走るのは別問題です」としたうえで、「命とは『価値あるもの』で被告とて例外ではありません。ならば尚の事、被告には『価値ある命』を刑罰によって閉ざされねばならないのです」と改めて死刑を求めました。

「ホームレス支援全国ネットワーク」の理事長で自身も植松被告と接見した経験のある奥田知志さんは、「自分の人生に出番や役割がなくて悶々とする若者は多く、被告の根幹にも『己の生きる意味がなにか』があったと思います。その苦悩を障害者へのヘイトクライムに向けたことはあまりにも浅薄に過ぎ、糾弾されて然るべきです」と語っています。

さらに奥田さんは、被告が「障害者との共生は無理だと学んでほしい」と述べた点を受けて、「この裁判では命について社会がどう扱ってきたかを問う側面もあったことでしょう。被告の価値観や主張を我々が跳ね除けられるかどうかは、これからが本番となります」として現代人の意識に警鐘を鳴らしました。

確かに、植松被告が徹頭徹尾間違っていたと証明するには今後我々がどう考え行動するかにかかっています。その第一歩を植松聖という「差別意識の代表者」に対し毅然と死刑を言い渡すところから始めなければ、以後何をやっても説得力がつきません。

植松は小原保に倣え

自分から植松被告に何か言うとすれば、「これからはトランプでなく小原保に憧れて余生を送ってほしい」でしょうか。小原保は「義展(よしのぶ)ちゃん誘拐殺人事件」を起こし死刑判決を受けた男です。

死刑囚となった小原は、教誨師に勧められたというきっかけで短歌を始め、朝日歌壇に選ばれるほどにまで上達しました。判決後は反抗的で荒んでいたのが短歌の習得によって安定してきており、高レベルの創作活動は死刑の直前まで継続されたそうです。それでも、身代金目的の誘拐に毅然とNOを突き付けるには小原の死刑をやめる訳にはいきませんでした。

植松被告も公判前に絵やら漫画やらを描いて『創』の篠田編集長などに渡していたではありませんか。今なお生産性に固執するならば、懲役ではなく死刑を待つ身として、小原保や永山則夫のように獄中での創作活動に励めばいいのです。

参考サイト

「娘はいないのに、あなたがなぜ生きているのかわからない」。被害者家族の叫びが響いた相模原事件、結審|ハフポスト
https://www.huffingtonpost.jp

事件の裁判を傍聴して 最後に語られたのは|NHKオンライン
https://www.nhk.or.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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