新型コロナによる生活変化の障害者向けアンケートから見える事
暮らし その他の障害・病気COVID-19の蔓延によって生活スタイルは一変しました。手洗いやマスクだけでなく、人同士の距離や密度などにも注意が払われ、可能な限りテレワークなどの遠隔業務を遂行する所も少なくありません。
株式会社ミライロでは、障害者手帳代行アプリ「ミライロID」の利用者やモニター会員(すなわち何らかの障害を持つ人)計411人を対象にWebアンケートを行っていました。アンケート内容は主に新型コロナ問題で困ったことです。調査日は緊急事態宣言のひと月前にあたる3月5日~9日ですが、当事者の声としてはとても貴重な資料となるでしょう。
ウイルス対策に難儀
個人単位でとれる最大の対策は手洗いと咳エチケットですが、障害者にとっては課題の多いものとなっています。手を清潔に保つだけでも、車椅子だと汚れがちなハンドリム(車輪)を頻繁に触るため困難ですし、視覚障害者は日常的に手で触れて確認する習慣のほうが根付いているほか近くの人から手引きの介助を受けるのも難しくなりました。
マスクを利用する上での問題点が多く指摘されており、主に会話の場面が挙がっています。聴覚障害者からは、マスクのせいで口の動きが分からず何を言っているのか“見えない”ため、筆談などの視覚コミュニケーションや透明マスクが求められています。視覚障害者もマスク越しの声が聞き取りづらいほか、マスク在庫の貼り紙が(急造なので)読めない・周りの様子を見てマスクをつけるかの判断がしにくいといった問題を抱えています。
他に生活上の課題点として以下が挙げられました。
手が不自由なのでマスクが外れても付け直せない。(肢体障害)
問い合わせ先が電話だけでは困る。メールやFAXでも受け付けてほしい。(聴覚障害)
情報の正誤が掴めずパニックになる。(発達障害)
ウイルスの概念を理解されず、マスクの着用を拒む。(知的障害)
消毒液が車椅子ユーザーには届かない位置に置いてある。(肢体障害)
働き方にも難儀
在宅勤務やテレワークなどをアンケートのあった3月時点で導入する会社はまだ少なかったのですが、ゼロではありませんでした。ちなみに働いている(正規非正規問わず)人は回答者411人中257人で約6割になります。
在宅勤務・テレワーク・時差出勤のいずれも、採用されているのは回答した就労者の2割程度でした。ただ、これはアンケートが3月上旬の時点であったことを考慮する必要があります。
在宅勤務やテレワークの問題点は主に在宅であるがゆえといえます。肢体障害者の場合、「在宅勤務はヘルパーの介護対象外なので、仕事中はトイレや昼休みに至るまで身内が介助せねばならない」「手が不自由なためメモを取れない」「家庭では簡易車椅子を使うため長時間になると身体が痛くなる」といった課題が噴出しました。
視覚障害者は主に在宅勤務で使うPCの問題点を挙げています。「スクリーンリーダー(画面読み上げソフト)のインストールや点字ディスプレイへの接続が出来ず仕事にならない」「会議用のソフトが画面読み上げの対象外なので立ち上げても操作できない」「音声通話が聞き取りにくい」などです。
聴覚障害者は遠隔会議を課題としています。「遠隔会議だと音声認識アプリが上手く働かず何を言っているか分からない」「画質やタイムラグによって口の動きが見えない」「緊急時の連絡が電話だけだと困る」などです。
発達障害者は仕事のペースを在宅で保つことに四苦八苦しています。「平日の昼間から家にいると集中しづらく、思うように仕事が進みづらい」「通勤がないので朝起きる時間が遅くなった」「遠隔会議だと散らかった部屋が映りそう」などです。
時間を変えるとバスに乗れない
通勤の混む時間帯を避ける時差出勤にも困りごとはあります。最たるものは「時間をずらすとノンステップバス(車椅子向けのバス)に乗れない」というものです。他には「発達でグレーなので人一倍変化に弱く、時差出勤はしていない」「通院に影響が出る」といった意見があります。
まず時差出勤そのものをしていないか認められていない人が多かったようです。その理由は「自家用車で通勤している」が最も多く、他に「短時間勤務のため除外された」など就労形態に起因するものもありました。
自家用車での通勤が多かったのは肢体障害者です。おそらく電車通勤での課題が多く自家用車での送迎などで出勤している形態がメジャーだからでしょう。電車通勤を前提とした時差出勤とは見ている方向が違っているのが現状と言えます。
コロナ禍の業務形態に思うことは
最後に在宅勤務など業務形態についての意見が募られました。一時の感染対策に留まらず合理的配慮の一つとして制度が普及していけばいいという声が多く、業務形態そのものに対しては概ね好意的な反応だったと言えるでしょう。より多彩なスキルを持つ障害者が参入できるという展望まで語られました。
その一方、PCのセキュリティやハード面で特に視覚障害者への導入に課題が残っています。また、「特例で自分一人だけ在宅勤務を認められたが、本来在宅では出来ない仕事のため実質閑職に追いやられたように感じる。(肢体障害者)」という声もあり、一部では「追い出し部屋(閑職や単純作業に追いやり自主退職を促す行為)」として悪用されているのではと示唆されています。
そもそも障害者が正規雇用で働けない構造自体に問題があるという指摘もありました。「契約社員で採用されることが多く、在宅勤務などの出来る職域に就くのが難しい」という声はまさに障害者雇用(オープン就労)の問題点を言い当てているのではないでしょうか。
このアンケートに答えた人のうち約4割が職に就いていないことも重く受け止めるべきです。いくら在宅勤務や遠隔業務の環境を整備しても、肝心の障害者雇用が改善されなければ宝の持ち腐れにしかなりません。
参考サイト
障害のある当事者を対象に、「新型コロナウイルスによる影響」を調査しました
https://www.mirairo.co.jp
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