「○○好きそう」という新たな誹謗中傷の形~変則的「障害者の盾」で無敵化

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Photo by Kyle Smith on Unsplash

木村花さんがネット上の罵詈雑言を苦に自殺した件から、「ネット上の誹謗中傷」に対する厳しい論調が加速しています。それ自体は結構なことですが、いち早く反応したのが「誹謗中傷で苦しむ人」でなく「誹謗中傷をして厳しく言い返されたり叱られたりした経験のある人」ばかりなのはどういうことでしょうか。

また、「電通の件もそうだが、若い女性が自殺した時だけ騒いでいる印象。おっさんが自殺しても同じくらい騒いだか?」という指摘には多くの人が耳を痛めて恥じ入るべきだと思います。

それはさておきまして、「お前、○○好きそうやな」という形の侮辱を見たことはありませんか?「好きそう型」の誹謗中傷として呼んでおきますが、これはある意味無敵の誹謗中傷ではないかと睨んでいます。変則的な「障害者の盾」でもあるからです。

好きそう型の誹謗中傷とは

「好きそう型」の誹謗中傷は、元々精神科医に「電車とか好き?」と聞かれた人のツイートが発端でした。それがゲーム系迷惑サイトなどの改造によって「○○好きそう」「○○とか好きそう」という煽り文句に変わったのです。

ちなみに、発達障害と鉄道の関係は精神医学では国境を越え絶賛研究中で、「枕木の規則性」「線路を外れない特性」「時間厳守」に惹かれるのではないかといわれています。(時間については日本ですら遅延しますし、フランスなどは遅れて当たり前なのですが)

「〇〇好きそう」が煽りとして機能するのは、裏の意味である「お前キモオタだろ!」「お前アスペだな!」が伝わったときです。つまり「お祈りメール」や「ええ時計してはりますな」や「夜道に気を付けろよ」と同じ系統で、煽っておいて後で「悪口言ったんじゃないもん!」とシラを切れる強みがあります。

○○に入るものは当然電車に留まりません。「トーマス」「プラレール」はおろか、「自由帳」「カードゲーム」「BUMP OF CHECKIN」「FGO」「星のカービィ」「午後の紅茶」「インプレッサ」「3種のチーズ牛丼」とより取り見取りです。一見あちこちのジャンルへ無節操に攻めているようですが、煽る側なりに「キモオタpt」「発達障害pt」の高いものを集めた精鋭ワードらしいです。

無敵のダブルバインド

「好きそう型」がネット上の罵り合いで強いとされているのは、一見誹謗中傷に見えないことです。敏感になってきた昨今の風潮でも、これを誹謗中傷として訴えることは出来ないでしょう。使われ過ぎて皮肉のメッキが剥がれ、悪口として知れ渡ったとしてもです。

さらにもう一つ強みがありまして、「○○好きそう(だから発達障害)」には相手にダブルバインド(矛盾したメッセージでどちらに反応しても痛い目に遭わせる論法)を仕掛けられるのです。ダブルバインドは仕掛けた側が断然有利で、パワハラやモラハラの手口としても知れ渡っています。

例えば「プラレールとか好きそう」と煽られたらどうでしょう。怒らせるのが目的なので否定すれば思うツボでしょうし、「君の思っているような人だけの趣味ではないよ、例えば…」と説明しようものなら「ハッタツしぐさきたあああ!」と大喜びです。かといって相手の土俵に乗らず無視すれば「黙るってことは図星だな!」、実際に好きで「ああ好きだよ」と返せば「やっぱりそうか、これだからプラレール好きは…」となります。要は煽ったもの勝ちです。

とはいえ無視するのが最善であることには変わりないでしょう。精神的勝利を味わったままにしておけば煽り依存になって破滅するのは向こうだけですから。しかしネガティブキャンペーンで売り上げまで影響が及ぶ可能性が無きにしも非ずなので、難しい所ではあります。

「商品名を誹謗中傷に使うな!」と怒れない理由

このような煽りが横行すれば、大事な商品の名前を勝手に使われた企業にとっても迷惑千万です。しかし、JRもショウワノートもタカラトミーもHAL研究所も富士重工業もキリンビバレッジもすき家も、皆大っぴらに抗議することは出来ないでしょう。誹謗中傷に訴訟で対抗する機運が高まった今もなおです。

考えてみてください。「電車は所詮発達障害の趣味だ!」と誰かが言ったとして、仮にJRが抗議したら何と返ってくるでしょうか。恐らく、「発達障害と言われて怒るのは、無意識に差別しているからだ!この差別主義者め!」と返ってくると思います。ゆえに、営業妨害クラスのネガキャンでも放置するほかありません。寧ろ同じ土俵に立つ方が企業イメージをより激しく損なうのではないでしょうか。

障害を持ち出して中傷しておきながら、言い返されれば「障害者の盾」を使ってくるのはなんとも身勝手な論法です。まさに洗練された煽りと言えましょうが、見方を変えれば確実に精神的勝利を得るための放言に過ぎません。

余談:午後の紅茶には前科あり

ところで、障害者の盾など関係なく抗議しそうな例外として午後の紅茶で有名なキリンビバレッジが考えられます。なぜならば、キリンビバレッジ自身がユーザーを馬鹿にしてしまった前科があるからです。

2年前の4月下旬、新生活応援企画として「周りにいそうな午後ティー女子」と題した4つのイラストがTwitterに投稿されました。それぞれ「モデル気取り自尊心高め」「ロリもどき自己愛沼」「仕切りたがり空回り」「ともだち依存系」と題がついており、「愛飲者を揶揄している」として炎上したのです。

実際のイラストを見ると、どうも拡大解釈で炎上した類には思えません。イラストそのものも「キモオタ図解」のようで大概なのですが、タイトルのゲジゲジしたフォントが悪意剥き出しで擁護のしようがないのです。イラストレーターはシニカルなタッチを売りにしている(つまり皮肉屋)作家さんのようで、何故そのような人に頼んだのかも疑問です。

こうした想像力不足を窺わせる社風なので、「怒ってるの?それは無意識な差別だよォ?」と言い返されても構わず抗議するのではないかと勝手に考えている次第です。

参考サイト

『午後ティー女子』のイラストが炎上。キリンに対して「顧客を悪く描いて何が楽しいのか」の声
https://www.huffingtonpost.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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