障害者の就職戦線で貸農園や風俗業が台頭するワケ
仕事 暮らし 知的障害障害者の就職戦線は数多くの異常が放置されたままです。就職そのものは出来ても、その後の定着率や月収に大きな問題点があり、特に収入は「オープン就労ではなかなか最賃より上がらない」というレベルです。この体たらくで障害者が経済的自立を果たすには、投資やフリーランスなど安定性とは無縁の収入源に頼らねばならない場合もあります。
およそ整備されたとは言い難い就職事情ですが、この遅滞の原因は多岐にわたるため一つ一つ追及するにも年月がかかってしまいます。かといって、放置するわけにもいきません。「障害者を納税者にする」ことが社会にとっていかに得であるかを、あらゆる人に分かる形で証明できればいいのですが。
そうこうしているうちに、障害者の就労に関しては何度も物議を醸しています。貸農園が実質座敷牢であるとか、障害者を風俗業に従事させるのは搾取でないかとか、時々何か紛糾している感じです。その甚大なエネルギーが就職事情の改善へ漏れればいいのですけれども、大抵ポッと騒がれて終わりますね。
貸農園の外注ビジネス
「企業向け貸農園」とは、ある人材派遣会社の子会社が始めた事業で、農園自体はその運営会社が数多のビニールハウスという形で管理しています。なお、農園では養液栽培が採用されており、そのうち簡単な仕事だけを障害者に任せているそうです。
養液栽培には、初期投資額の大きさと病害の広まりやすさが欠点として挙げられています。しかし、投資額は企業主体で行うことで克服されており、病害についても後に述べる事情から無問題であると思われます。
農園を借りるのはズバリ、法定雇用率を手軽に達成したい企業です。農園で働く障害者そのものは運営会社が集めることになっており、企業はただ農園の中にいる障害者と雇用契約を結ぶだけでいいそうです。採用活動や業務割り当てといった苦労を一切せずに法定雇用率を満たせるとあって、飛びつく企業は多いです。
収穫される野菜も一般には売らず、借りている企業がタダで貰います。企業内で消費する以上、まとめて廃棄するという選択肢もあるわけで、病害などで質が低下したとしても関係ありません。農園で作業する障害者が社会に接点を持っているとはいえないでしょう。
こうした「外注ビジネス」は、「障害者に仕事などできる訳がない」「障害者を雇うと生産性が落ちる」「雇わないと罰金、最悪社名を晒される。いやだいやだ」と考える企業のニーズをガッチリと掴んでいます。もはや「座敷牢」「隔離部屋」のリースと言っても差し支えないでしょう。
給料は最低賃金レベルですが、それでもB型事業所ではとても貰えない金額とあって保護者からの評判は高いです。障害者就労の問題を解決する裏技として、積極的に貸農園を誘致する自治体すらあります。
風俗業界での採用が物議
7月上旬に、ある風俗業者が知的障害者を雇っていることで物議を醸しました。宣伝文句は「支援学校出身で知的障害を持つ[源氏名]ちゃんが当店の仕事に初挑戦!意思の疎通は可能で、幼さはあるものの天真爛漫で明るい子です!禁止事項は特にないので、ニコニコ従順で人と過ごすのが大好きな彼女をアナタ色に染めてやってください!」といった感じです。
本来、風俗店は従業員を守るために禁止事項を設けているもので、何でもありで客任せにするのは使い捨てにしているのと一緒です。まして知的障害者では禁止行為や風俗用語などを理解していないまま働いている可能性もあります。問題の店は研修すらしていない上に「研修をしないから、お客様が一から教えられる!」と美点であるかのように語っています。
これが取り沙汰されていた頃、風俗で働いたことがあるという軽度知的障害の人が「普通の仕事は難しく、飲食店のバイトはつらかった。風俗は大変な時もあるが、褒められたり感謝されたりして幸せだった」とツイートしています。なんでも業者や店によっては、遅刻などに比較的寛大だったり働く時間が短かったりするようです。
体よく利用する所もありますが、障害を持つ女性にとって「やりがいのある職場」になっている所も少なくありません。勿論やりがいだけで暮らせるわけがないのですが、風俗で働いて初めて褒められたり感謝されたりするのは、逆説的に通常の職場が生きづらさの塊であることも意味します。
障害者の生きづらさを和らげるという点で、見下していたはずの風俗業界に負けていると言ってもいいでしょう。そもそも「原則、若い女性しか就けない」という最大にして不可避の問題点があるのですが。
健常者よりも選択肢が少ない
貸農園にせよ風俗にせよ、就職の選択肢が健常者に比べて圧倒的に少なく質も悪いのが根本的な原因ではないかと思います。オープン就労は低収入、クローズドは配慮が得られず手帳が飾りになり、一般就労で食いつなぐことすら難しいのが現状です。
能力があれば投資やフリーランスの世界へ飛び込む余地も生まれますが、生半可な知識やスキルでは通用しませんし、生活は非常に不安定です。
社会が徹底的に障害者を拒んだために、隔離用の貸農園や使い捨ての風俗店が障害者就労の選択肢として幅を利かせ始めたのではないでしょうか。「障害者に出来ることなどない」「障害者は施設に集めて軽作業でもさせておけばいい」「障害者と一緒に働くなどあり得ない」などとエゴ剥き出しで押し付け合いをした結果です。
障害者を納税者にするのであれば、職と収入が大前提となります。しかし、放っておいても勝手に就職して経済的自立をし税金を納めてくれるようになるなどと都合のいい人間はいません。社会参加を拒みながら「税金の無駄」だの「生産性がない」だの愚痴っている卑怯者が以前多数を占めているのが現代です。
身の上話、すこし
私がまだ、ASDの診断どころか心療内科すら考慮していなかった大学1年か2年か3年の頃、タレントの間寛平さんが若い頃お世話になったという男性のドキュメンタリーらしき企画がテレビで放送されていました。その男性は病気か何かで声を出せなくなってしまい、人と会うのが嫌になってしまったのです。
私が目を惹いたのは男性のバイト先でした。なるべく人と会わないために打ちっ放し型のゴルフ練習場でバイトしていたのです。「人と会わずに済むバイトもあるのか、やってみたいなー」と思ったものですが、結局バイトを探すことすらせず大学時代を終えたのでした。
それから就職するまでの道のりは、お世辞にも平坦と言えるものではありませんでした。色々と支援は受けましたが、結局は9割が運であったように思います。障害者の就職とは現在、そういうものです。
参考サイト
障害者と関わるのは面倒?外注ビジネスで露呈した「社会の本音」(山田奈緒)|現代ビジネス|講談社
https://gendai.ismedia.jp
デリヘルで宣伝文句にされる知的障害のある女性~性風俗にいる障害女性 前編~
https://www.paps.jp
障害者の愚行権と自由|小山晃弘|note
https://note.com
養液栽培研究会|連載記事|養液栽培とは?
http://www.w-works.jp
知的障害 その他の障害・病気