「ゲーム脳」と「冷蔵庫マザー」の意外な共通点~ASD児の親に酷いこと言ったよね

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「ゲーム脳」と「冷蔵庫マザー」には無視できない共通点がありました。どちらも疑似科学(似非科学)というのが第1の共通点ですが、それだけではありません。非専門である「モグリ」の学者が、発達障害者やその親を傷つけながら肥え太っていった経緯もまた共通しているのです。

「ゲーム脳」は日本大学文理学部の森昭雄教授が言い始めたもので、疑似科学の筆頭に挙げられています。簡素過ぎる検査キットで「ゲームが前頭葉を破壊する!」と強弁し、真っ当な反証や反論には感情論や人格否定で対抗していました。ゲーム規制の急先鋒である大山一郎氏や「親学」の主導者である高橋史朗氏など数多くのフォロワーを抱え、科学としての正当性を失ってなお一部の力強い支持を受けています。

「冷蔵庫マザー」は「自閉症(ASD)は親が冷蔵庫のように冷たいのが原因だ!」という古い暴論です。アメリカの精神科医だったレオ・カナーが提唱したものですが、これ世界中に広めたのはシカゴ大学のブルーノ・ベッテルハイム元教授です。こちらは盤石な反証によってカナーが敗北宣言をする形で疑似科学と認められ衰退しました。しかし、知ってか知らずか似たことを言ってASD児の親を悩ませる者が駆逐された訳ではありません。

発達障害を傷つけた「モグリ」がふたり

第1の共通点は、森氏もベッテルハイム氏も“その道”に関しては「モグリ」であったことです。森氏は「日大の教授」ではありますが、分野は生理学や運動生理学で、神経学とは違います。医学博士号は受けていますが、その時の論文はカルシウム摂取と筋肉の関係性についてのもので、脳科学とは全く関係ありません。

ベッテルハイム氏もまた「モグリ」としての逸話があります。ナチスから解放され渡米したベッテルハイム氏は、過去の経歴が丸ごと処分されたのを逆に利用して「昔は心理学専攻でした!」と言い張りシカゴ大学の教授となったのです。両者とも教えたい分野を教えるのに必要な素養を積んでおらず、教育も受けていません。

そして第2の共通点、こちらが重要となります。発達障害児の親は往々にして自分を責めがちな傾向にありますが、それを煽るような言説が行われていました。「冷蔵庫マザー」は元々「自閉症は親が悪い」という観点に立脚しているので敢えて説明するまでも無いでしょう。

「ゲーム脳」の森氏については、「ゲームのせいで後天的に自閉症となる!」と言った言わないで騒動になったことがあるようです。「自閉症は先天的なもので、後からなることはない(無くなることもない)」とは騒動が起こった当時の段階で既に主流の学説でした。それを正当な反証も持たず否定しにかかった訳です。

2005年に「森氏が小学校の講演で『ゲームのせいで後天的な自閉症が増えた』と言っていた」というブログの書き込みがあり、ネット上を伝播した末に日本自閉症協会(当時)が森氏へ抗議する事態となりました。森氏は「そんなことは言ってない」と否定し、証拠不十分のため協会が謝罪させられる格好となります。

ところが森氏は前年に出した著書で「近年増えている多動や自閉の児童は、先天的な原因だけでは説明のつかない急増ぶりだ」と後天的な発達障害を信じる旨の発言をしています。また、別の講演を録音していた人が音声データを公開したことで「テレビ・ビデオが自閉症を作る」「岡山では100人に1人が自閉症だが、先天的なものは少ない」と発言したことが明らかとなりました。

余談ですが、森氏は携帯のメールについても散々な物言いをしていました。森氏にとって健やかな子どもというのは、こういうSNSの仕組みに疎い人を指すのかもしれません。

オリジンとパラサイトの違い

逆に、両者には決定的な違いもまた存在しました。森氏は「オリジン」で、ベッテルハイム氏は「パラサイト」という違いです。ベッテルハイム氏の権威は「冷蔵庫マザー」の提唱者であるカナーに寄生して保たれているに過ぎません。ゆえに、カナーが降伏した瞬間から不可逆の凋落が確定したのです。現代においてベッテルハイム氏を支持する者はもはや居ません。

また、カナーが自閉症そのものの概念を発明したという観点から、「冷蔵庫マザー」は自閉症究明のごく初期における「若気の至り」「若い頃のやんちゃ」と言えなくもないです。「抱っこ療法」や「反ワクチン」などもあって更生できているかどうかは疑問ですが。

一方、「ゲーム脳」は提唱者の森氏が間違いを認めて降りない以上生き続けます。科学というのは非常に不安定な世界で、従来の常識が一つの発見で大きく変わってしまう(いわゆるパラダイムシフト)可能性は常に存在します。それをいいことに科学的正当性のない放言であっても一つの学説として居座ることが許されるのです。

常識が転換する可能性がゼロでない以上、「ゲーム脳」も「血液型性格診断」も、一度は完膚なきまでに潰された「冷蔵庫マザー」すらも復権を夢見る権利は一応保障されています。疑似科学を根元から切り捨てられないのはこういった事情も絡んでいるのでしょう。

人を多く惹きつけたものが正義

正論だから常に正しいとは限らず、それどころが明らかな間違いでも人を多く惹きつければ正義・定説となりうるものです。「ゲーム脳」も「冷蔵庫マザー」も熱心な賛同者を多く得ることで生き延びてきました。特に「ゲーム脳」はゲームを悪としたい人々から今日まで愛され続けています。

作家の川端裕人さんは、森氏の講演で正論をぶつけた一人です。質疑応答で川端さんは「ゲーム脳で少年の殺人犯が増えると言うが、ファミコンが世に出た1983年から一貫して該当の犯罪発生率は下がり続けているのが実情。仮にゲーム脳が実在しようとも、ファミコン発売前まで件数が増える影響はないとみていいのではないか」と質問しました。すると、「私は日本の子どもがおかしくなっているから、日本のためにやっている!問題視してくるあなたの方がおかしい!」を罵られ、森氏を称える拍手喝采が起こりました。

理不尽な目に遭った川端さんは、健気にも「正論をぶつけるのは森氏を怒らせるだけで間違いだった」「講師批判と取られないよう柔らかい質問をするべきだった」と反省点を纏めています。飽くまでプレゼンの問題で、言っていること自体は間違っていません。圧倒的な「アウェー」だっただけです。しかし、講演の後で川端さんに「よく言ってくれた!」と激賞した人も少しだけ居ました。

支持を得て賛同者を集め数的有利を作ることは、邪(よこしま)な目的を実現するにあたって大いに有効です。社会問題である「引き出し屋」の筆頭格「ワンステップスクール」もまた、地域住民の支持と好感を得ることで湘南に根を張れていました。ワンステップスクールは2016年の「TVタックル」で引き出し屋としての仕事を紹介され、大きな批判を浴びた所です。

ワンステップスクールは、利用者を盛んに町内ボランティアへ駆り出すことで地域からの信頼を得て地盤を築きました。遂には学校行事に来賓として招かれるようになり、「社会に必要な施設。皆で支えるべき」という空気までも醸成しました。脱走者などの不穏な情報を掴み調査をしていた町議は、「あそことは仲良くしておけ」という圧力を感じていたと語ります。

やっていることは強制収容所そのものですが、ボランティアというメリットを町内にばら撒くことで町民を惹きつけ「町の名士」にまでなれたのです。結局、ワンステップスクールは2018~2019年にかけて内部告発などで実態が暴かれていき、町民のほとんどが離れていったのですが。

人を惹きつける魅力や技術や行動力があれば、「引き出し屋」でさえ地域に根付くことが出来ますし、疑似科学も本物のように振舞うことが出来ます。この誤りをもたらすのは感情が先に立った判断なのですが、それを防ぐためには正しい論理や真っ当な反証を分かりやすく伝えるという難しい作業を行わねばなりません。

難しい作業ですが、過去にそれは出来ていました。出来たからこそ「冷蔵庫マザー」理論の天下は終わったのです。広まった間違いを正すことは決して不可能ではありません。

参考サイト

2004年鹿児島大学での森氏の講演(ASDに関する言及あり)
http://gamebrain2004.so.land.to

森氏の講演で正論をぶつけた川端さんのブログ記事(魚拓)
https://web.archive.org

問われる引き出し屋の自立支援(1) 脱走者が「捕獲」される町で(加藤順子)
https://news.yahoo.co.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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