発達障害の筆者から見た"自称"障害者
発達障害出典:Photo by Lesly Juarez on Unsplash
近年、芸能人の方が障害を開示したり、ADHDやASDのような障害名が世間に浸透したりと、障害者でも生きやすい世の中になりつつあります。
その一方で、障害の名前が浸透するあまり「診断は受けてないけど、症状が当てはまるから自分は障害者だ」などと、障害を"自称"する人が増えています。
今回は、そんな"自称障害者"について、発達障害と診断されている私の視点で話していきます。
「自称障害者」とは?
「自称障害者」とは「ネットで見た情報などに自分が当てはまる」「自分は○○が苦手だから」といった理由から、診断を"受けていない"または"されていない"状態で障害を自称する人をさします。
自称障害者は、特にTwitterやFacebookのような個人情報を明かさないSNS上で多くみられます。
人によっては、ネットだけでなく会社などの一般社会でも自称することもあるようです。
このような人の増加の背景には「障害の普及」があります。冒頭でも述べたように近年、ADHDやASDなどの障害名や症状が世間に浸透しつつあります。さらにADHDは長嶋茂雄さんや黒柳徹子さん、ASDはイチローさんやスティーブ・ジョブズ氏などの有名人が障害をカミングアウトしており、世間の目も変わってきつつあるように思います。
また、ネット上では数々のチェックリストが公開されており、誰でも簡単に障害の症状に当てはまるかを確認することができます。
これらの影響で障害者にとって生きやすい世の中になりましたが、一方で「自分は障害では?」と思いつつも、検査は受けない人が増えているのです。
また、少し嫌なことがあったら「病んだ」「鬱」。話が通じない時があれば「コミュ障」など、障害名の認知が広まるあまり、原義からずれた使い方をされていることもあげられます。
最近ではネットなどで簡易のチェックリストを見て「自分は障害かも」と精神科に訪れる人が増えており、医師の間では「メンタル・バブル」とも言われているようです。
障害者を"自称"することのメリット
では、何故障害を"自称"する人が増えているのでしょうか?
先ほどのように、ネットのチェックリストを見て検査を受けた人の多くは、障害を診断されないそうです。というのも、チェックリストは参考程度のものが多く、中にはほとんどの人が当てはまるように作られているものもあるからです。
そのため、これらを見て診断を受ける人は「どちらかというと"苦手"」「タスクを行うのが"嫌い"」など、さほど深刻でない場合が多いです。
先ほどのように障害ではないと診断を受けた人の多くが結果に"失望"し"落胆"するそうです。医師の話によるとこのような人たちは「やる気や性格など、自分のせいではなく、"障害"のせい」にしたいのではないかということです。障害であることの垣根が下がった今、むしろ責任逃れができる「障害」のメリットを見てしまうのでしょう。
また、ネットなどでは「障害」というワードを軽視し「アイデンティティの一部」として、障害名を使う場合もあるそうです。
障害者と"自称"障害者の違い
障害者と”自称”障害者の違いは、言うまでもなく「障害の有無」です。とはいえ、障害にも程度があるため、人によっては診断結果が間違っているという人もいます。
それでは、どのような点で診断結果に違いが出るか考えてみましょう。
まず「障害者」という単語そのものを解説していきます。「障害者」という単語は「社会の障害になる人」と捉えられがちですが、本来は「日常生活を送る上での障害を持つ人」という意味で考案されました。ちなみに、最近では間違った捉え方をされないように「障がい者」や「障碍者」といった、別の字をあてることもあります。
つまりは「日常生活に支障をきたすレベルの症状」を持つ場合に「障害」と診断されることが多いのです。しかしながら、チェックリストでは「どちらかというと当てはまるかも」などの軽度なものもチェックしてしまうため、診断結果に齟齬が生まれ、結果「障害かも?」と思ってしまうのでしょう。
また「障害に対する目線」も異なります。
先ほども述べたように"自称"障害者は、障害を「アイデンティティの一部」「責任の矛先」などと捉えることがあります。ですが、障害者の場合その障害がどれほどのデメリットを生むか分かっています。そのため、「対処」をすべき部分として捉えている場合が多いです。
残念なことに、障害者の中でもはじめから「障害」に責任を押し付ける人もいます。しかしながら、基本的にはできるだけ自分で「対処」を行い、それでも難しい部分のみを他人に「配慮」してもらう場合がほとんどです。
自称障害者が増えることの問題点
では、自称障害者が増えることの問題点はなんでしょうか?
一番は「障害が軽視されやすくなる」ことでしょう。
先ほども述べた通り「障害」とは一般的に「日常生活に支障をきたす」ほどの症状をともないます。障害者の場合は「そもそもできない」ことが多いのですが、"自称"する人は「できるけど苦手」なことを症状としてあげがちです。その結果、一般的な目線が「できるけど苦手」という方に傾いてしまい、本当の障害を抱える人への配慮が行き届かなくなってしまうことがあります。
また、単純に「その人にとってデメリットになる」こともあげられます。"自称"する本人としては「1つのアイデンティティ」ぐらいに思っていたとしても、本当に障害を知る人からすると「障害を軽視する人」「配慮する必要があるから重要なことをまかせにくい」などと思われ、本人に不利な状況に陥る場合が多いです。
逆に、障害者は「障害を開示するリスク」を分かっているため、おいそれと障害を開示しない人がほとんどです。
おわりに
今回は「自称障害者」について、個人の意見を述べましたが「自分を障害だと疑うな」「軽い気持ちで診断を受けるな」というわけではありません。ただ「障害」というワードの重さを知らずに使っていると、自分自身にも障害者の方にもデメリットしかないことを知っていただきたいのです。
もし本当に「障害かも?」と困っている人は、診断前にネットや友人に発信せず、精神科医にかかることをお勧めします。その方が自分のためにも、社会のためにも、よい選択となるはずです。
参考文献
【現代ビジネス|「病気ではない」という診断にガッカリする、自称・発達障害者の心理】
https://gendai.ismedia.jp/
【小文化学会の生活|「自称アスペ」はテリヤキバーガーか】
https://sho-gaku.hatenablog.jp/
【ダイヤモンド・オンライン|精神科医が語る「発達障害かも…」と心配する人たちが抱える致命的な勘違い】
https://diamond.jp/
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