障害者の投票は難しい

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Photo by Arnaud Jaegers on Unsplash

現在の選挙権は18歳以上であれば“誰でも”一人一票ずつ平等に行使できるようになっています。選挙を導入したての頃は一定以上の税金を納めた男性のみに限定されていたため、現代の選挙制度はかなり進歩したと言えるでしょう。ただし、その進歩は明治時代を基準に見ているからこそ進歩と呼べているに過ぎません。

選挙権があってもそれを行使できず、国政に参加できない人々がいます。その代表格が重度知的や重度身体に代表される障害者です。障害者の投票率についてはデータがないので何ともいえませんが、投票するまでのハードルは健常者に比べれば格段に高いことは確かです。

国政に声を届けるほぼ唯一の機会といってもいい選挙へ、障害者に限って参加できないというのは、障害者の声が政治に届かないという意味でもあります。何としても改善したいものですが、不正投票や本人の意思を無視した投票などのリスクもあって安易に法や制度を変えられない事情もまた存在します。

20年以上前からの提言

「月間ノーマライゼーション」の1999年11月号では、同年9月に京都府亀岡市の高齢者施設で認知症の入所者を利用した不正投票がおこなわれた件を踏まえ、障害者の参政権を保障せよと訴えられています。「悪用されるぐらいなら障害者に選挙権を与えるな」という声を牽制した形です。

筆者の井上英夫さんは「“不正”は確かに許されるものではないが、認知症の高齢者・難病を抱える患者・重度の障害者などが投票できない“不公正”もまた糺すべきである」と説きました。こうした声が20年以上前から上がっていたのです。

障害者の投票におけるハードルは、主に「情報の取得」「投票所へのアクセス」「候補者の名前を書く」「投票時のプライバシー」においてあらわれます。

視覚障害や知的障害などにとって「情報の取得」は大きな壁となるでしょう。候補者の政党や主張や来歴もそうですが、投票があったことすら知らないまま過ごす結果にもなりやすいです。どの候補者にも問題があるケースもあるでしょうが、これは選挙区自体の問題かもしれません。

「投票所のアクセス」には、家から出る・投票所へ行く・投票所へ入るという3つのステップがあります。精神的に家から出られなかったり投票所がバリアフリーでなかったりと、投票にいくだけでも想定されるハードルは多いです。

投票所にいけても投票用紙に「候補者の名前」を書けなければ意味がありません。視覚や知的や腕の障害に該当する人にとってはこれもまた重い箇所で、正しく書けなければ無効票にされてしまうのも厳しさに拍車をかけています。「リストに印をつければ済む話だろ」と指摘されて久しく、最高裁の国民審査でもニュアンスは違えど印をつける形式が採用されています。しかし、候補者の名前を正しく書かされる形式に変わりはありません。

誰に投票したかは本人以外分からないようになっているのですが、それは“普通に”投票した場合に限ります。点字投票などの配慮は「投票時のプライバシー」の面で難点があり、多かれ少なかれ周りの人間にバレてしまうリスクと隣り合わせでもあるのです。

障害者が投票するまで

視覚障害者の意見
22年前、視覚障害者への施策を研究しており自身も全盲の視覚障害者であるAさんは、視覚障害者の投票について以下の意見を寄稿しました。
「選挙があると知ること自体はさほど困難でない。しかし聴覚障害も併せ持つ人だと場合によっては選挙の周知がされないことすらあり得る」
「選挙公報の点訳や音声化は自治体によってまちまちで、候補者の情報を精査するのが難しい。点訳の精度もあまり高いとは言えない」
「投票箱の区別や候補者名の識別も配慮されるべき」
「点字投票は音によって投票のプライバシーが損なわれやすい。点字を読む役割が私人に委嘱されると守秘義務の面で心配」

身振り手振りで
重度の知的障害を持つBさんは、身振り手振りでも出来る独自の選択方法を家族に決めてもらいました。同じ候補者に二度反応すれば意思表示とみなすことです。
Bさんの投票には「事前練習」があります。候補者の顔写真を並べ、親が選挙公報を読み上げて候補者について説明し、反応を見るのです。実際の投票は人の少ない期日前に行い、親はBさんの意思を尊重して単独で投票させています。
それでも状況の変化はBさんを不安にさせますし、当日の介助者から「意思が分からなかった」と家に連絡されることもありますが、市役所の努力と配慮でBさんは投票できました。

被選挙権は更に厳しい
市議選に立候補した経験があるという筋ジストロフィーのCさんは、まず投票について「ヘルパーさんとの調整が必要だし、投票所となる施設が古いとバリアフリー面にも困難が生じる」と指摘しました
被選挙権の行使となればさらに困難は増します。障害者総合支援法は政治活動などにまで手が回っておらず、Cさんは「介助者に挨拶するだけで公職選挙法に引っかかるのではないかと不安になる。スロープ付きの選挙カーすらない中、手探りで進めねばならない」と当時の苦労を語りました。
「障害者の割合からすれば、障害者の議員はまだまだ少ない。その点れいわ新選組は画期的だが、障害者=れいわという固定観念もあるのではないか。色々な政党から障害者が立候補していくべきだ」と、障害者が被選挙権も行使していく重要性をCさんは説いています。

なぜ疑う理由にするのか

障害者の投票について合理的配慮がなされているかどうかは、その方法も含めて自治体によって様々です。東京都狛江市は様々な配慮を取り入れている自治体のひとつで、選挙公報を確認できるクーリングスポットや個々人に合った支援を伝える支援カードなどが考案されています。

そんな狛江市の副市長である平林浩一さんは、障害者の投票についてこう語りました。「なぜ障害者の選択だけ真意を問われねばならないのでしょうか。本来なら健常者にも同じ問いを迫られるべきです。」「選挙には再チャレンジの機会がありますので、長いスパンで振り返りをしながら次も投票に行くことが大切です」「公職選挙法が出来て70年経ちますが、知的障害者や精神障害者の投票が実質認められたのは2013年とごく最近

実は知的障害者や精神障害者は「被後見人」とも言われ、選挙権は認められていませんでした。これを違憲と提訴した障害者らが続々勝訴し、2013年の公職選挙法改正で制限が撤廃されたのです。ただ、これはあまり知られていない気もします。

住民票を移すのも厳しい

実際の居住地と住民票の住所が離れていても「投票所へのアクセス」に問題が生じます。これは健常者にも言えることではないでしょうか。大学生の投票率が低いのも住民票絡みとされており、住民票を移すための啓発活動が各地で模索されているくらいです。

ところで、住民票を移す作業に関しても健常者と障害者の間で大きな格差が出ています。理由は単純で、障害者には管理する書類が大量にあるからです。住民票・保険証・年金手帳だけでなく、障害者手帳や自立支援医療など各種受給者証なども加わり、手続きの量も雪だるま式に膨れ上がってしまいます。実体験として、福祉課の窓口で数えきれないほど多くの書類にサインし続けたことがあるので、これは本当です。

障害は社会が課すものという「障害の社会モデル」は選挙ひとつとっても様々な面で証明されていますが、それを是正しようにも想定される不正リスクが多すぎて易々とは手を出せません。だからといって国政へ声を届けられる機会を障害者だけ奪われていい理由にもならないのですが。

参考サイト

障害をもつ人と参政権
https://www.dinf.ne.jp

視覚障害者等と参政権 選挙権を中心に
https://www.dinf.ne.jp

障害者が参政権を行使する上でぶつかる様々なハードル
https://news.yahoo.co.jp

知的障害者等の選挙権行使を支援しよう
https://www.dinf.ne.jp

投票率18歳>19歳!理由は「住民票」?
https://www.nhk.or.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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