乙武洋匡さん、参議院選挙へ無所属での立候補を決意
暮らし「五体不満足」などで知られる作家の乙武洋匡さんが、2022年夏の参議院選挙に無所属で立候補する意向を固めたと、5月19日に自身のYouTubeチャンネルで告知されました。続けて、翌20日に報道関係者向けの記者会見も行われています。
YouTubeや記者会見で、参院選に臨む理由や目指す政治、「選択肢を増やす」ことへの想いなど様々なことを述べられています。
「諦めなくていい社会」をめざす
2022年5月19日、自身のYouTubeチャンネルでの生放送にて、乙武さんは参院選へ立候補する意思を表明しました。同時に、立候補の理由・目指す政治家像・なぜ無所属かなども説明されています。
立候補に至った経緯
「本来は6年前の2016年に表明したかったのですが、自らの不祥事(不倫問題)により白紙となりました。目標を失い1年間海外を転々としていたところ、2018年に義足プロジェクト(OTOTAKE PROJECT)が持ち上がり、お呼びがかかったのです。それは最新の義足テクノロジーを通じて、今まで歩くことを諦めていた人に歩ける希望を見出してもらうプロジェクトで、協力できて本当に嬉しかったのを覚えています。自分が身体を張って活動することで誰かの役に立てるという、そんな機会にもう一度巡り合うことが出来ました」
「歩けない身内がいるという人から『乙武さんの義足プロジェクトを見ていて、弟も歩けるようになるかもしれないと思えました。応援しています』とメッセージを頂きました。自分の活動が、生きづらさを抱える人を勇気づけていると知って、6年前に断念した政治への想いがまた強く沸き上がりました」
目指す政治
「私が一番実現したいのは『諦めなくていい社会』です。私はたまたま両親・担任・友人に恵まれて今まで生きていますが、それでも普通に考えれば私のような身体障害者が日本で生きていくには、まだまだ不利益が多いです。知的や精神といった別の障害や、LGBTQ・海外にルーツのある人・家庭が貧困な人、様々な境遇の人がおり、それぞれスタートラインが違っています」
「『障害があるから働くのが難しい』『性的マイノリティだから結婚が難しい』『海外にルーツがあるから不動産を借りるのが難しい』などと、選択肢を持てないために生き方を制限されている人が沢山います。私は、なるべく社会に多くの選択肢を用意し、選択肢を増やすことで生きづらさを解消し、自分で自分の人生を選べる社会にしていきたいと強く思っています。これは『五体不満足』を著したときから24年間、方法を変えながらも継続してきました」
「24年間かけて変えられなかったものも多く、今まで通りの活動を続けているだけでいいのか一抹の不安も感じました。法律や予算から世の中に働きかけるのが一番いいのではないか、その為にはやはり政治に勝負をかけていくしかないのではないかと考えた次第です」
無所属で立候補する理由
「無所属で立候補したので、どの政党にも属さない状況が如何ほど厳しいのか実感させられています。それでも、私を応援したいという方は幅広くいらっしゃって、政党という船に乗ってしまえばその政党が合わない方を切り捨ててしまうことになります。この6年間頑張ってこられたのは、応援してくださった幅広い皆様のおかげであり、その感謝を忘れたことはありません。乙武洋匡を応援してくださる全ての方を包摂するために、無所属として立候補するのが良いと判断しました」
選択肢を増やす政治
「分かりやすく例えるなら、それぞれに合ったサイズのTシャツを配りたいのです。平等といって同じサイズだけ配ってしまうと、小さすぎたり大きすぎたりと合わない人が出てきます。一律にMサイズではなく、小さな子にはSサイズ、大きな子にはLサイズと配るのが真の平等であり公正です。ところが実際は、全員に同じサイズのシャツを配って『これが平等だ』と満足しているのが現状です。一人ひとりに合うサイズ、一人ひとりに合った選択肢を用意していくのが、これからやっていきたいことです」
義足トレーニングの場で記者会見
YouTubeの生配信で立候補を表明した翌日、乙武さんは報道関係者向けの記者会見を開き、改めて参院選へ無所属で立候補する意思を表明しました。記者会見は乙武さんも協賛する義足プロジェクトの練習コースで開かれました。義足プロジェクトの仲間と共に4年間練習し続けた思い入れのある場所として選ばれたのだそうです。
乙武さんは「ジャケットスタイルに義足を付けるのが初めてだったので遅れてしまいました」「義足で立ったまま会見出来れば格好良いのですが、立ち続ける体力がないので座らせて頂きます」と述べながらも、4年間協賛していた義足で入退場する様子を見せています。
会見で話した内容は生配信と概ね同じですが、Tシャツの例えに寄せられたコメントについて新たに言及されています。マイノリティ当事者からのコメントでした。
「『乙武さんの生配信、Tシャツの例えがとても分かりやすかったです。しかし、世の中にはサイズ以前にTシャツを与えてすらもらえない人もいるんですよ』と言われてハッとさせられました。マイノリティの視点で政治の世界へ飛び込みたいと言った矢先に、視点の至らなさを痛感させられたのです。これからは発信するだけでなく、多くの人の声に耳を傾け、それらを拾い拡声器となって世の中へ広げていきたいです」
YouTubeコメント欄
──確かに嫌いな政党と組まれるより無所属の方が応援できます。けれども、まずは政策をチェックさせてください。
「選択肢を増やすことで、諦めなくていい社会を作るのが基本コンセプトです。これに沿って具体的な政策を少しずつお伝えしていけたらと思います」
──私は引きこもりで苦しんでいました。乙武さんのオンライン配信は大好きです。神奈川から応援しています。
「苦しい立場にいる方々の生きづらさを解消していくためには、何度も言うようですが、選択肢を増やしていくことだと思います。学校で学ぶ選択肢もあっていいですが、どうしても学校に馴染めない子どももいますよね。学校も在宅学習もその他も、それぞれに合った学び方が出来る環境も実現していきたいですね」
──政治家をするのなら、何はともあれ乙武さんの政策を実践できるよう頑張ってほしいです。
「東京選挙区は厳しいです。名だたる政党の候補者らと6の定数を奪い合います。その中で魅力的な候補者となって、皆さんに票を入れていただくことは容易ではありません。それでも、私が国会に行くことで救われる人がいることを信じています」
記者会見の質疑応答
──6年前の悲願と仰いましたが、出馬を今夏とした理由は何でしょうか
「今年に入ってから政治への想いが強くなってきましたが、無所属で立候補するリスクや不安、全ての仕事を一度辞めねばならないこと、色々考えて決断したのが今年の3月になります」
──6年前は自民党公認で出馬するつもりだったようですが、今回無所属なのは何故でしょうか。
「繰り返しになりますが、政治的なラベリングのない『船』のほうがより多くの方を受け入れられるからです。確かにどこかの政党に支えてもらう方が楽かもしれませんが、私は苦しかった6年間を支えてくださった様々な方への想いがあり、皆さんを包摂する枠組みを作りたかったのです」
──当選した暁に実現したい具体的な政策をお聞かせください
「政策の方向性としては、決意表明でもお伝えしたように、『選択肢を増やす』ことが基本方針となります。既存のままでは生きづらいという方々のために、より多くの選択肢を提供していきます。これまで取り組んできた教育や福祉の分野で選択肢を増やしていければと思います。具体的な政策はより多くの当事者から話を聞いて洗練してから追々発表していけたらと思います」
──国会は会派や政党の単位で動く場所なので、いずれ何処かに入らなければいけないと思うのですが
「前例主義というものが本当に正しいのか、これまで難しいと言われているものが本当に難しいのか、実際に確かめないと分かりません。もし無所属で議席を頂けたなら、無所属の立場で何が出来て何が不可能かを自分で試してみたいと思います。その上で何処かに属さないといけないと判断したら、その時に改めて検討していくつもりです」
──乙武さんに出来そうなことはありますか
「無所属ゆえに街頭活動には制限があるかと思います。その分、SNSやYouTubeを用いたリアルタイムの双方向でのやり取りを重ねていくことになるでしょう」
──教師時代の思い出から政治に活かせそうなものはありますか
「初めて担任をしたのは小学3年生のクラスでした。小2でやっている筈の九九が覚束ない児童もいれば休み時間に司馬遼太郎を読んでいる児童もおり、理解度や習得度がバラバラで驚かされました。何十人もいる児童の個性を尊重すべきとは皆分かってはいるのですが、現実的には困難だと思い知らされました。こうした理想と現実の乖離に対して政治に何ができるかというと、教育に予算を割くことです。日本は教育を国のお金ではなく各家庭のお金に依存している状態で、これが子どもの個性を顧みない教育や経済格差による教育格差へと繋がっています。今以上に教育予算を増やし配分を考えていくことは是非やっていきたいです」
──衆議院でなく参議院に立候補する理由を教えてください
「参議院には任期が6年もありますので、じっくり腰を据えて政策に取り組めます。その面で私に適しているのではないかと思いました」
──選挙のキャッチコピーなどは決めていますか
「『私たちはあきらめない』を中心に据えていきたいと思っています。社会に選択肢がないばかりに自分の人生を諦めねばならない人が数多くいます。そうした社会状況を打破し、自分の人生を諦めなくていい社会にしたい想いは、私だけでなく多くの方が抱いています。ゆえに『私たち』とさせて頂きました」
──政治の新しい風や世代交代などはどうお考えですか
「これまでの政治を見てきた私以下の世代は『右とか左とかどうでもいいから現実の社会問題を解決しろ』という現実主義が増えています。日本の国力が落ちたことで、自分の思想にこだわる余裕が失われたのではないでしょうか。昔は予算が潤沢だったので選択肢が何通りもあり、思想にこだわる余地がありました。それが今は予算が削られ、選択肢も削られ、『右とか左とか言ってないでさっさとしろ』という若者が増えています。そこにテクノロジーを組み込めば、より洗練された解決方法が見つかってくるのではないでしょうか」
──いま自分に近いと思う政党はございますか
「もしそういう政党があれば、そこから立候補していたでしょう。政策的に賛同できても組織として馴染めない恐れもあります。なので、一つの政党を挙げるのは難しいです」
──立候補を決意したうえで「諦めた」ことはありますか
「“休み”でしょうか。選挙活動が始まれば休みは無くなるでしょう。政治家にも休みと仕事のワークライフバランスがあればいい模範になると思いますので、休みも諦めてはいけませんね」
──出馬にあたって既に応援してくださる方はいらっしゃいますか
「選挙活動を応援したばかりに仕事を干される著名人を多く見てきたので、私から選挙の応援を頼むことはありません」