自閉の語源、「Autism(オーティズム)」とは
発達障害古くは「自閉症」と呼ばれ、現在は「広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」と合併している「自閉スペクトラム症」。その原語である「Autism(オーティズム)」の生まれや変遷などに迫っていきたいと思います。
Autismの語源
自閉症の原語である「Autism」は、ギリシャ語で自己を意味する「autos」を語源としています。同じ語源から生まれた「auto」に、接尾辞のismをつけることで誕生しました。
この「Autism」という言葉は、1940年代に全く違う場所でほぼ同時に誕生したとされています。アメリカのレオ・カナーと、オーストリアのハンス・アスペルガー、面識すらない二人が「Autism」という全く同じ名前を付けたのです。
二人の報告は、そのまま報告者の名前を以ってタイプ分けされました。自閉症の度合いが高い中で、IQがボーダー(70~85)を超えていればアスペルガー症候群、下回っていればカナー症候群と呼ばれていました。こうした分類はDSM-IVまでで、DSM-Vから自閉スペクトラム症として表向きの一元化を果たしたのは後の歴史が語る通りです。
戦後しばらくはカナー症候群、つまり知的障害を伴う自閉症が前提として考えられていました。知的障害を伴わないアスペルガー症候群の存在が広まったのは、本人が亡くなってからの1980年代からで、イギリスの医師がアスペルガーの生前の論文を英訳したのがきっかけでした。これにより自閉症の本質が対人関係の障害であるとして、認識が新たにされたのです。
連続体の概念
2013年のDSM-Vを契機に「自閉スペクトラム症」として一元化されたのはご存知の通りです。この一元化において重要な概念となったのが「連続体」すなわち「spectrum(スペクトラム)」でした。
「spectrum」は大元のラテン語では「スペクト"ル"ム」と読み、そのまま英語の「スペクトラム」とフランス語の「spectre(スペクトル)」に分化しました。フランス語のスペクトルは、日本では分光学や物理学の用語として定着し、グラデーションのような連続体という意味は英語のスペクトラムが担っています。
自閉症はグラデーションのように度合いが異なり、個人差があるという認識がなされ、世界的には「ASD」という呼び名が誕生しました。略さずいうと「Autism Spectrum Disorder」で「自閉スペクトラム症」はほぼ直訳であることがわかります。
自閉の閉はどこから
「Autism」は日本語で「自閉」と訳されていますが「閉」はどこから来たのでしょうか。文字のイメージから幾度となく誤解が生まれており、それに対するボヤキもまた存在します。だからといって「自へい」などと気の抜けた表記にされても、却って馬鹿にされている気がするので現状維持でいいとは思いますが。
Autismが自閉症と訳されたことについて、ロンドン大学バークベック校に研究拠点を構える千住淳さんは、武蔵野東教育センターに寄せたコラムでこう述べています。
「日本語の自閉症と英語のAutismには、語感に違いがある。Autismはギリシャ語で自己を意味するautosを語源としており、外部の力や操作によらず自律的あるいは自己完結的に動くニュアンスだ。これが邦訳された際に、自己を表す“自”と外部に向かい閉じた状態を表す“閉”が合わさり、『自閉』となった」
「“閉”の字がある日本語と、それらしい意味を直接的には含まない英語では、言葉の響きが違うと思う。個人の感想だが、日本語の『自閉』には社会を拒絶したり引きこもったりといったニュアンスが足されている気がしており、当事者の実情や多様性に則さないイメージを生み出す一因となってはいないかと思う」
「アスペルガーや発達障害といった別の名前が好まれるのも、言葉の響きが関係するかもしれない。自閉症への理解にも大きな変化が見られたことだし、もう少し実情に即したポジティブな響きの日本語名があればと思うこともある。自分では良い邦訳が思いつかず、歯痒い所だ」
「閉」がどこから来たかは本当に分かりません。ただ、言葉を変えても「アスペ」「ハッタショ」と侮蔑語として振り回す者はネットの片隅で息づいています。彼らが何かの拍子に表へ出てくる以上、いちいち漢字の意味など語り合っても無意味かもしれません。
ところで、自閉症そのものを侮蔑的なスラングとして扱う文化(文化?)は海外にも存在します。アスペルガーを由来とする「sperg(スパーグ)」が日本の「アスペ」と同様の意味で使われますし、「ASD」がそのまま侮蔑の意味で使われることさえあります。とはいえ、これらはネット上で口汚い者が集まる場所での単語なので、普段生活する分には気にしなくていいと思います。
まとめ
Autismという単語はギリシャ語で自己を意味するautosに由来し、地理的に遠く離れた2か所で同時期に誕生しました。これが日本に輸入されると、「自閉症」として訳されるようになります。
2013年のDSM-Vを契機に、連続体を意味するspectrumと合わさって「Autism Spectrum Disorder」略して「ASD」と呼び名を一新しました。日本では「自閉スペクトラム症」と訳されます。これは自閉の度合いがグラデーションのようであることを強調したものです。
参考サイト
自閉症研究の現場から(千住 淳)|武蔵野東教育センター
https://www.musashino-higashi.org
自閉症スペクトラム障害(ASD)