「脳性まひ」とは何なのか、10月6日「世界脳性まひの日」に合わせて解説
身体障害世界中の脳性まひ支援コミュニティの間では、10月6日は「世界脳性まひの日」とされています。いずれ国連から正式に認めてもらえるよう行動を起こす段階にあり、イメージカラーの緑色で街中をライトアップする催しなどが企画されています。
そもそも「脳性まひ」について我々はあまりにも知らなさすぎます。従って、脳性まひについて簡単な説明をさせてもらいます。
簡単な定義
まず「脳性まひ」の簡単な定義からです。医学情報サイト「MSDマニュアル」によれば、脳性まひとは「運動困難と筋肉のこわばり(けい縮)を特徴とする症候群」を指します。「症候群」のため、単一の疾患ではなく関連する一群の症状を指しているのがポイントです。
運動困難の程度も患者によって違い、少々ぎこちない程度から四肢が動かせないレベルまで様々です。脳性まひは運動野の損傷によるものですが、運動野以外にも損傷のある場合も多く、知的障害や難聴やけいれん性疾患など別の障害までみられることもあります。ただ、あくまで運動野の損傷が中心なので、脳性まひ当事者には知的障害を伴わない人もまた多いです。
脳性まひの2割弱は、産まれる瞬間や分娩中に酸素欠乏や感染症といったトラブルに晒された後遺症です。「37seconds」という作品では、主人公が脳性まひとなった原因が「生まれて37秒間呼吸が無かったこと」だと明かす場面があります。乳児全体では0.5~1%ですが、早産児に限ると15%と一気に割合が上がります。
他の原因としては、妊娠中に母親が風疹などの感染症に罹ったり、胎児に遺伝子異常があったりするケースがあります。また、無事に産まれたとしても2歳までに髄膜炎や敗血症などの要因で脳が損傷を受けた結果、脳性まひになるケースもあります。なお、2歳以降に脳の損傷などで同様の症状になった場合は脳性まひではなく別の診断名がつきます。
脳性まひには後述する4つの型に細分化されますが、いずれの型でも共通するのは話していることが伝わらない「言語障害」です。筋肉の不自由は発話に使う箇所も例外ではなく、それが発話に影響するためです。言語障害の程度もまた個人差があり、健常者同様に話せる人もいれば相当注意深く聞かないと分からない人もいます。言語障害こそが脳性まひの一番厄介な所ではないかと個人的に考えています。
4つの型がある
脳性まひは主に「けい直型」「アテトーゼ型」「運動失調型」「混合型」の4つに分類されます。いずれにも共通するのは、発語に使う筋肉への影響から言語障害が起きていることです。
けい直型は筋肉が強張る(けい直)ことで筋力が低下するタイプで、脳性まひの7割超を占めます。症状のある部位は様々で、その部位は発育が悪く歩様などにも影響が出るほか、斜視などの視覚障害も出ることがあります。影響を受ける部位によって、四肢麻痺・両麻痺・片麻痺・対麻痺に分けられます。なお、けい直やけい縮の「けい」は痙攣(けいれん)の「痙」と書きます。
アテトーゼ型は体をよじらせる不随意の運動で、脳性まひの約2割がこれにあたります。不随意の運動とはすなわち「勝手に動く」ことで、動き方も突然だったり断続的だったりと様々です。強い感情を生じると激しくなり、逆に睡眠中は生じません。知能指数は健常が多くけいれん発作も稀ですが、言語障害の程度が大きくバーバルコミュニケーションが取りにくいとされています。
運動失調型は、特に歩行時において体の各部を制御するのが困難な状態です。これは脳性まひの中でも5%未満のマイノリティです。体の動きが協調せず筋力が低下し、素早い動きや細かい動きが困難だったり、両足を広げた不安定な歩様だったりします。
混合型はこれらのうち2つが混合したものです。大部分がけい直型とアテトーゼ型の混合で、この混合型が脳性まひの大部分を占めるとされ、しかも混合型には重い知的障害も加わるケースさえあります。
2歳までに分かる
脳性まひは産まれてすぐ明らかになる訳ではありません。2歳に成長するまでの間に、ハイハイや立ち上がりなどの運動発達の遅れや協調運動障害などが目立つと疑いが出る具合です。
脳性まひの検査は主にMRIなどの脳画像検査を用い、同時に保護者への問診も併せます。問診の内容は妊娠中や分娩中のことや発達の進み具合などで、原因の特定に活かします。
大抵は脳画像検査で分かりますが、症状によっては神経伝導検査や筋電図検査、遺伝子検査が追加される場合もあります。具体的にどういう脳性まひであるかは、2歳になるまで特定できないこともよくあります。
一生付き合っていく
脳性まひは治るものではなく一生付き合っていくものです。口から食事が摂れないなどの最重度でもなければ余命は健常者並みで、死亡することなく成人します。従って、脳性まひの治療は、成人後の自立性を極力高めるための訓練が主となります。
理学療法や作業療法によるリハビリや、言語療法による発語の明瞭化が代表格でしょうか。他にも敢えて麻痺のある側だけを動かして神経信号の経路を作る「非麻痺側上肢抑制療法」などがあります。これらの療法や補助器具を駆使し、当事者である小児は段々と日常行ためを一人で出来るようになっていきます。時には薬剤療法や手術もする場合もあります。
脳性まひは実に多種多様、当事者も十人十色で、一概に語りつくせるものではありません。脳性まひについて知る一番手っ取り早い方法は当事者と直接交流することだと思います。たとえ身近に脳性まひ当事者がいたとしても、別の当事者が全く違う特徴を持っていて当たり前という心構えも忘れてはなりません。
「脳性麻痺の小児でも、重い知的障害がなければ、多くは正常な発育を遂げて普通の学校に通うことができます。それ以外の小児では、広範囲の理学療法と特殊教育を受ける必要があり、日常生活の行ためが大幅に制限されるため、生涯を通じて何らかのケアや介助が必要になります。しかし、重い障害を負った小児でも、教育や訓練により効果が得られる可能性があり、それによって自立心や自尊心が高まり、家族や介護者の負担が大幅に減少します」(MSDマニュアル家庭版より引用)
参考サイト
脳性まひ|MSDマニュアル家庭版
https://www.msdmanuals.com
身体障害