「自閉症」「脳障害」eスポーツ関連の相次ぐ暴言に、ユーザーはどう向き合うべきか

発達障害
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ゲームというのはソロプレイのCPU相手ですら、思うようにいかないと文句の一つも言いたくなってくるものです。実際にそれを口に出すことはないのですが、常に喋ることを求められるゲーム実況は雑念と言葉選びの戦いでもある訳ですね。

eスポーツで給料を貰っているプロゲーマーならば、その辺の気配りや修練が行き届いているのではないかと考えがちですが、実態は正反対であると思い知らされる事例が沢山あります。中には、暴言問題で契約を切られた途端に暴言キャラ路線の個人配信へ切り替えた方までいるそうですね。

今回、「発達障害者の一人として、スト6ユーザーの一人として、公認実況者の暴言と公式の対応に複雑な感情を抱いています」というお便りを頂いたので、プロゲーマーの暴言について話してみようと思います。

「お前は自閉症なのか」

格闘ゲームの金字塔である「ストリートファイター」のシリーズ最新作「ストリートファイター6」が発売され、プロアマ問わずプレイ動画が連日盛り上がっています。私は格闘ゲームに疎いのでよく知りませんが、キャラクリエイトなど過去作にない目玉要素が詰まっているようで、さすがカプコンのメインIP(知的財産)は推される熱量が違いますね。

ところが、このスト6がプレイされていく中で配信者の暴言が取り沙汰されていきました。きっかけは何処かしらのチームに所属すると思しきプロゲーマーが「このキャラを使っていると脳に障害が出る」と発言したことです。「ゲーム脳」の森昭雄を思わせる発言がプロゲーマーから出てくるとは、なかなか奇妙な構図です。

ここからがお便りのメインになるのですが、脳障害発言に付随するように別の暴言が発掘されました。脳障害発言のおよそ2か月前に、別の動画配信者が「オメーの所の選手は自閉症か!話を振っても何も答えねえ!」と発言していたことが動画アーカイブから明らかになりました。文脈からして、質問へ返事をしなかったことに腹を立てた感じでしょうか。

自閉症発言のほうはeスポーツキャスターという肩書を持っており、スト6の公認実況者としてゲーム内のシステムボイス(自動実況機能)も担当していたそうです。つまり製作元のカプコンから仕事を貰っていた訳で、カプコンの対応も否応なしに注目させられる部分ではありますね。

この炎上を「言葉狩り」「遡及は道理に反する」などと非難する向きもありますが、感情的になっても言葉を選べるのがプロのプロたる所以です。とはいえ、11時間という長時間のアーカイブから問題発言を発掘した側についても、正直そこまでやるかとは思いますが。

カプコンの対応

カプコンとしても無関係を決め込む訳にはいかず、くだんの配信者は厳重注意の処分を受けたほか、公式イベントの司会も代役を立てるという対応をとりました。本人も一通りの謝罪文を掲載しています。

ところが数日後の配信で、ファンたちの擁護コメントに包まれながらカプコンからの対応についてこう語りました。「対応と言っても、厳重注意で済ませてもらって感謝しかない」「(別会社の)クライアントに胸を張っていつも通りやってくれと言われた」「SFL(スト6の公式イベント)の交代については初回だけで、総合的な出演回数は変わっていない。今年の実況も精力的に行う」「カプコン側からも結構『気にしなくていいよ』と言ってくれる人が多かった」

カプコンとの内情を赤裸々に暴露したのも気になりますが、自閉症発言に対して軽く捉えていたというのは企業としてあまりに態度が悪すぎると言わざるを得ません。お便りを寄せてくれた人も、この態度にショックを受けており、スト6を素直に楽しめないとのことでした。

一方、「飽くまで社交辞令として『気にするな』と言った」「カプコン側は『これから反省して取り返せばいいから気にするな』という意味で言ったが、受け手は『騒いでる奴がいるだけだから気にするな』と解釈した」とカプコン側だけを擁護する声もあります。

それでもカプコンには、過去に黒人を揶揄した実況者と即刻縁を切ったという情報があります。グローバリズム的には自閉症などごくごく小さいものだという意識はあるかもしれません。或いは、自閉症発言の何がいけないのかカプコン内部ですら分かっていないのかもしれません。

「何が悪い?」「君の価値観」

障害や疾患の名前を悪口にすること、具体的には「お前は障害者か」などの文句が何故いけないのか考えたことはありますか。障害者を悪口として言い放つことの何が悪いかというと、歪んだ価値観と浅い知識が表れてしまうことにあります。

今回の例で言うと、質問に答えなかった相手を「自閉症」と罵るのは、「こちらの質問に答えない礼儀知らず」と「自閉症」が発言者の中では同義であることを意味しています。すなわち、「自閉症=悪」という価値観が出てきてしまっており、その価値観がある限り何をどう言い繕っても無駄になります。

更に、「自閉症」への無知や偏見も発言の中に凝縮されています。「喋らないから自閉症」「答えないから自閉症」という程度の古い知識や浅い知見で物申している訳ですから、当事者や関係者からすればたまったものではありません。

要するに「お里が知れる」ということです。こういう話になると「障害者発言に目くじら立てるお前らの方が、逆に障害者を差別している!」という抗弁が必ず出ますが、単なる屁理屈でしかないですね。「障害者=悪」という価値観そのものに問題がある訳ですから。

「推し活」で心が痛むなら辞める勇気を

お便りをくださった方は「スト6ユーザーとしてショックで悲しい。この感情をどうすればいいのか分からない」と仰っていました。自分が「推し活」している対象や関係者が、もし自分にとって相容れなかったり許せなかったりする思想や行動があったならば、素直に楽しみ続けるのは難しいでしょうね。

答えは、その複雑な感情を整理しなくては出せないと思います。自分の感情を整理できるのは自分だけなので、時間をかけてでも感情を咀嚼し、自分にとって最善の行動を描く必要があります。苦しい期間は延びますが、後悔のない選択を自力で掴むには欠かせないプロセスです。

「スト6自体は楽しいから、ゲームそのものは続けたい」と思うのであれば続ける理由としては十分でしょうし、「スト6」自体が苦しみの種になると判断すれば中古屋に売り飛ばせばよいです。カプコンそのものに嫌気が差して「バイオハザード」など他IPも楽しめないとなれば、カプコンのゲーム自体から離れるのも一つの選択肢となるでしょう。(但し、この騒動を擦って誹謗中傷をカプコンなど関係者に投げつける過激なアンチ行為は絶対にしてはいけません!)

場合によっては、いわゆる「辞める勇気」「逃げる勇気」が精神衛生上では必要になります。学業や仕事についてこれを言うと、「勉学や収入が断たれた後の人生を考えない、いい人ヅラした無責任なアドバイス」と反論されるでしょう。しかし、これは「推し活」というプライベートでの話であって、辞めたからといって今後の人生にそうそう悪影響を及ぼさない筈です。(趣味仲間と折り合いをつける必要は生じるかもしれませんが)

精神的な充電と充足を目的とした「推し活」で逆に心を痛め精神を擦り減らすならば、スッパリと辞めて別の推し或いは趣味を探した方がいいのではないかと思います。続けるにせよ辞めるにせよ、スト6との健全な関係性を維持したいならば、自分の感情ともう少し向き合って答えを出した方がいいのかもしれません。

こうした問題はスト6など格闘ゲームやeスポーツ対象ゲームに限ったことではないかもしれません。例えば、ポケモンのルビーサファイア以降をプレイしたことのある方は、検索窓に「きあパ」とだけ入れてみてください。結構色々なゲームやシリーズで類似の火種が燻っていると分かりますよ。


参考サイト

「自閉症か」「脳に障害出ちゃう」ストリートファイターのプロゲーミング業界で差別発言が問題に
https://news.yahoo.co.jp

「ストリートファイター6」自閉症発言。厳重注意したカプコン内部は“気にしなくていいよ”
https://mtg60.com

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

自閉症スペクトラム障害(ASD)

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