バスの高齢者と「脳動静脈奇形」
暮らしPhoto by José Gasparian on Unsplash
10万人に1人の難病と言われる「脳動静脈奇形」の当事者として啓発活動にも取り組まれている、俳優の間瀬翔太(ませ しょうた)さんが自身のブログで綴った内容が話題となっています。といっても、「バスを降りるときに障害者手帳を提示したら、後ろのお年寄りが舌打ちして『早くしろよ』と煽ってきた」という割とよくある話なのですが。
脳動静脈奇形というのは、胎児期のはじめに脳血管が正しく作られなかったことで起こる先天性の病気です。通常、脳血管は動脈と静脈の間に毛細血管を経由して流れていますが、脳動静脈奇形の場合は動脈と静脈が直接繋がってしまい、ナイダスと呼ばれる異常血管の塊を形成してしまいます。このせいで酸素と二酸化炭素、栄養と老廃物のやり取りが出来ず、発生部位がそのまま脳のハンディキャップとなってしまいます。
ナイダスは正常な血管に比べて壁が弱く破裂しやすい特徴もあります。「10万人に1人」というのは飽くまで、年間で脳動静脈奇形が破裂する頻度だそうですが、破裂しようとしまいとナイダスは脳の活動に悪影響を与え、てんかんや認知の症状といった形で表出します。勿論、破裂した際は更に深刻で、くも膜下出血など重い後遺症に繋がる症状が出て最悪の場合死に至ります。症状については、間瀬さんも「一瞬で気絶したり、記憶を失ったり」と語っています。
他の難病に比べると、治療法は「あるにはある」というレベルで存在します。ひとつは開頭手術で、完全摘出されれば症状はほぼ消失しますが、手術の難易度は高く合併症のリスクも多種多様で、部位によっては更に危険度が跳ね上がります。二つ目はカテーテルと塞栓(そくせん)物質を用いて患部を閉塞させる塞栓術で、リスクは低いですが再発の恐れはあるので予後観察が必須です。三つ目はガンマナイフと呼ばれる放射線治療で、同じく負担の少ない代わりに予後観察を要し、ごくまれ(1.4%)に放射線による脳障害が発生することもあります。
この出来事を受けて、間瀬さんは「なりたくて障害者になった訳じゃないし、生まれつき10万人に1人の難病持ちなのに、なかなかヘビーなパンチはたまに心にまで突き刺さる」「(やられたのが)僕で良かった。他の障害者の方じゃなくて良かったです」とブログで振り返っています。
その高齢者は乗車中も、間瀬さんの後ろから「寒いんだよ」「ふざけるな」と謎の暴言を吐いており、支払い中は傘をカンカン鳴らして苛立ちを露わにしていました。間瀬さんでなくても、というか障害者でなくても、反撃してこなさそうな人には同じような態度だったのではないかと思います。最近ですと、迷惑なお年寄りは若い頃から人格の陶冶(とうや)を怠ってきた成れの果てとも言われており、「タガが外れた」ではなく「タガが溶けた」と形容されるみたいですよ。
参考サイト
難病の俳優、障害者手帳提示中に乗客から「早くしろよ」舌打ちに「なりたくてなった訳でもない」
https://news.yahoo.co.jp
脳動静脈奇形|慶応義塾大学病院脳神経外科教室
https://www.neurosurgery.med.keio.ac.jp