双極性障害の私の取り扱い説明書~自分が生きやすくなるために
暮らし双極性障害の困りごとは、外見ではわかりにくい。自分に起こる困りごとを解決するには、まず自分がどういう時に困り、どういった対処をすればいいのかを把握することが大切だ。躁状態、うつ状態時の自分の気持ちを持てあますことが多い私にとっては、一番難しいと思える気持ちのコントロールに重点を置き、私の取り扱い方を確認するために、まとめてみた。
双極性障害の特徴
双極性障害は、躁状態とうつ状態を行ったり来たりする病気だ。私の場合は躁状態になりやすい。例えるなら、ドライブだ。気持ちがあがらないようにと抑えた生活は、まるでノロノロの安全運転。安定はするが、つまらない。グッとアクセルを踏み込みスピードを上げて楽しむドライブは、爽快だが、事故につながる危険性が高い。それに、法定速度を守らないことで、周りにも迷惑をかけることもある。ほどよく飛ばす気持ち良いドライブ、これが出来れば一番いいのだが、スイッチが、ONとOFFしかない私には、これが難しい。「いい加減」が私には出来ないのだ。
気持ちの高揚を感じているとき
双極性障害の場合、特に躁状態時は、自分自身で感じる万能感は麻薬のように気持ちよく、まるでランナーズハイ。どこまでも走り続けられそうだと感じるし、頭も体もフル回転。眠る必要もないと思い、私の一日の睡眠時間は、2時間を切ってしまう。
この万能感は、たちが悪い。下手をすると人生が狂うほどのトラブルを引き起こす。私の場合は、ケンカだった。入院中、ちょっとした出来事をきっかけに、「私は絶対に勝てる!負けない!」と無敵感にあふれた私はひるむことなく、柄の悪い男性患者にケンカを売った。様子に気づいたスタッフに、引き離してもらわなかったら、どうなっていたかと考えると今でも怖い。
躁状態になりそうな時の対処法
1.刺激を感じる場面を意識する
2.どの程度の高揚を感じているかを意識する
3.フラットな状態に戻す
1…私は、簡単に躁状態に入る。面白そうな場所や自分が頑張らなきゃと思う場面に出くわすと、スイッチが入りやすい。自分がどう感じる場所なのかを事前に意識しておき、「ここはテンションがあがりそうだな」と気づいておくだけで、予防になる。2.躁状態では、能力は高まり、やりがいを感じたり、生きてる実感を感じられるのもこの時なので、全く無くすというよりは、コントロール出来る範囲かどうかを意識する。目安は、自分が攻撃的な気持ちになっているかどうかだ。3.気持ちは、上がる分だけ落ちやすくなるので、気分の高揚を感じた時は、深呼吸やストレッチ、声かけをお願いするなどして、なるべくこまめにフラットな状態に戻すようにする。
気持ちの落ち込みを感じているとき
疲れがひどくなったとき、もしくは躁状態がしばらく続いたあとに、気分が落ち込むことが多い。特に躁状態の後は、張り詰めていた糸が焼き切れたように、プツンと音をたてて鬱状態に陥る。ひどい孤独感と自罰感情に支配され、「消えたい」とそればかり思い詰める。
自宅に引きこもっていたとき、その落ち込み感はひどく、生きてる値打ちは無いと感じ、動けなくなった。しばらくして、何とか起き上がれるようになると、どうやって消えるのが一番楽なのかと試行錯誤するようになった。私のおかしな様子に気づいた家族と親友から「私にはアナタが必要」「アナタがいなくなると悲しい」を伝えられ、思いとどまる。
うつ状態になった時の対処法
1.休む
2.物事を先送りにする
3.誰かに相談する。孤独感を客観視する
1…とにかく頭も体も休める。音楽を流す、いい香りのものを近くに置くなど、リラックス出来る環境を作る。2…「やらなくちゃ」と義務感にかられ、ムリをして物事を行いさらに疲れるという悪循環を生み出すことが多い。開き直って、用事は先送りする。3…私は、孤独感を抱えやすい。疲れている時は、その傾向が強くなる。自分の考えが伝わらない、理解されないと思い、傷つくことがきっかけになることが多い。「傷つく」→「私は大切にされていない」→「私に価値が無いからだ」→「消えたい」という図式が出来上がる。そうなると、次に「消える」方法を探し始めてしまうこともある。まずは、この負のスパイラルをどこかで断ち切るために、早めに誰かに相談するのが最もいい対処だと思うが、それが出来ないときは、自分で、「あぁ、私は今、自分が孤独だと感じてるんだな」と自分の気持ちを少し客観視して抱え続けてみる。自分で自分の話を聴いてあげる感じを心掛けると、ネガティブな思考がその先へと行かずに、止められることがある。
気分の安定のために
日頃から気分を安定させるために行っていることがある。
1.服薬を続ける
2.生活リズムを整える
3.余裕を持つ
4.自分の考え方を知る
5.ストレスサイン(バロメーター)を知り、対処をする
1…気分の安定がしやすくなる。2…睡眠時間を一定にすること。朝、起きたら日光を浴びる。3…少しくらいのアクシデントが起こっても対応出来ると思えるように、体力、気力に余裕を残せるスケジュールを組む。何事も早目に準備をする。4…自分がどういった時に、どう捉えやすいのかを自覚し、客観視する。5…自分にとってのストレス要因とそれで起こるストレス反応を知っておく。私の場合は、人混みや騒音、苦手な人とのコミュニケーションなど。反応としては、睡眠時間の減少、メモの増加、過食、普段なら平気なことに過剰反応を起こす(テレビのニュースを見て泣く、音に過敏になる)などが起こる。音楽を聴く、カラオケに行く、お風呂にゆっくり入るなどで、ストレス発散をする。
それでも、ひどい躁状態やうつ状態に陥ることもある。その時のために、クライシスサポーター(危機的状態に陥った時に支えてもらう人)を決めておく。SOSを発信すれば私を止めてくれる人を選んでおくのだ。私は躁状態になると、自分が正しいと思い込み、人の話が耳に入らなくなるが「この人の言うことだけはどんな時でも聞く」と思う人を相手に了承をもらった上で、決めておく。私の場合は、親友、担当医、スタッフ、家族だ。
病気と共に生きる
再発率、自殺率ともに高いと言われる双極性障害だが、この取り扱い説明書を作ることで、自分の病気への理解が深まり、少し楽になれた。この取り扱い説明書は、自分を振り返る時にも有効だが、自分の周りの人に自分のことを伝える時にも役だっている。時々は見直し、自分の変化に合わせて、取り扱い説明書は、加筆、修正を加え、大切にしていきたいと思う。
この取り扱い説明書は、私が一人で作ったものではない。多くの人の協力のもとに出来たものだ。私は大勢の方に支えられている。障害者として今の自分を受け入れ、少しでも楽に生きられるようにと、様々な考え方を教えてくださったデイケアスタッフ。障害者雇用での就労を目指す私に寄り添い、困りごとを一緒に考えてくれる事業所スタッフ。主治医をはじめとする医療関係者。自分にどれくらいの仕事が出来るのか、試す環境を提供してくださる企業の方々。そして、楽しいときも悲しいときも、いつも近くに寄り添ってくれている親友がいる。そんな人達に支えられて、今、私は障害を抱えつつも、少し生きやすくなって来ている。
参考文献
「みんなのメンタルヘルス」躁うつ病(双極性障害)
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/index.html
「ストレスとは」
http://kokoro.mhlw.go.jp