大金を与えて感覚を壊す「パチスロ筐体人間」は実在するのか
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ストリーマーの配信に入り浸るというのも然程珍しい趣味ではなくなった昨今、私が本気で引いて軽蔑した「楽しみ方」というものがあります。ひとつは、同級生や同僚を装い「学校でも口数少ないよなお前」などとコメントして、キョドったり狼狽したりするのを観察する方法です。もうひとつは、過疎配信者に「いつも見てますよー」などと常連やファンであるかのようなコメントをして期待させる方法です。日に当たらず成功していない人間をわざわざ狙って弄ぶのは趣味として非常にゲスとしか言いようがなく、それでいて「一歩引いた大人の楽しみ方」と高い自己評価が窺えるのもまた気色悪いですね。
これを上回るゲスの話が最近話題になっています。例によって真偽不明で信じるかどうかは自由ですが、あのような「化け物」が実際に徘徊しているようならそれはそれは恐ろしい話です。
赤スパで壊す
YouTubeの投げ銭機能である「スーパーチャット」で20000円以上つぎ込むと「赤スパ」となるのですが、それを用いて配信者のまともな感覚を潰してみせると豪語する書き込みがありました。
「狙いは収益化しつつも利益の出ていない零細VTuber。赤スパを投げてやると驚かれるが、断続的に投げ続ければ慣れて思い上がっていく。やがて専業でもやれると勘違いして仕事を辞めればしめたもの。赤スパの頻度を落としていけば、収入は減り赤スパも減り……で結果が伴わず病んでいく。これが僕の、VTuberを楽しむライフハックです」
要約するとこんな感じですが、とにかく分不相応の成果を錯覚させて配信者を狂わせるのが楽しいという歪みに歪んだ発想です。もし本当なら極めて悪趣味なモンスターが動画サイトをうろついていることになりますね。
しかし、様々な観点からこれは「妄想の産物」と結論付けることが出来そうです。大きな理由の一つがYouTubeの収益構造で、スパチャは額面通りでなく諸々引かれて入ってくるし、そもそも再生数やメンバーシップといった要素もある中で一時的かつ不安定なスパチャだけをあてにするのは非現実的です。この点は、収益構造をよく知らないXユーザーよりも、VTuber文化が嫌いで仕方ない人々の吹き溜まりであるまとめサイトの方が疑り深かったです。
まるでパチスロの筐体
「まるで『猿を壊す実験』だ」と評する声もありました。「猿を壊す実験」とは、ボタンを押せば餌が出る部屋に猿を入れ、その餌が出る確率を下げていくと猿がずっとボタンを押し続けるというもので、パチンコやパチスロの原型とまで言われています。ただ、その実態はスキナーボックスなど様々な実在実験を組み合わせたキメラ創作で、類似の事例は数あれども「猿を壊す実験」そのものに合致するものは実在しません。
ただ、言わんとすることは分かります。先述の赤スパでやりたい事と言うのは、とどのつまりパチスロの筐体(きょうたい)になることです。当たらない方が圧倒的に多いのに、いつか激熱な当たりを見せてくれると幻想を抱かせる、あの筐体のような人間になりたいわけです。人間パチスロの誕生です。
金を吸うか吐くかの違いはありますが、共通しているのは正常な価値観や金銭感覚を破壊すること。まともだった金銭感覚を歪め、社会生活を送れなくしてしまいます。
原型の話が存在した?
この「赤スパ構想」には原型となる話が存在するようです。なんでも「パパ活のパパ」を名乗り出て、若い女性に多額の金銭や贅沢を与えて感覚を麻痺させるのが楽しみだという男の話です。これも真偽不明に留めてあるので、信じるかどうかは任せます。
その「パパ」は、「比較的きちんとした家庭で育ち、地方から都内のそこそこ以上の大学に進学し、一般的なアルバイト経験を持つ女子大生」を狙って東京の港区で息づいています。パパ活の内容も食事だけで多くの金を出すというもので、時に高価なプレゼントや年上のアドバイスまで与えながら、終始笑顔を絶やさず一定の距離を保って行動しています。パパ活の中ではノーリスクハイリターンを演出している訳です。
その「パパ」に近づく女性は、労せず多額の金が転がり込む環境に慣れてしまい、贅沢を覚え、金銭感覚に狂いが生じます。なんなら「パパ」のほうから高い住宅、高い食事、高いブランド物を積極的に提案してきます。同年代の彼氏が苦労して買ったプレゼントも、同年代の友達が苦労して続ける節約も、やがて心に響かなくなり、周囲との感覚がズレて孤立もしていきます。
その「パパ」は、標的が贅沢に慣れきったとみるや理由をつけて離れていきます。一度上げた生活レベルを落とすのは至難の業で、標的はもはや時給1000円で働くことも家賃5~6万円の部屋で暮らすこともままならない状態です。それでも「パパ」は関わろうとしません。関わるとすれば、贅沢の味を思い出させるときくらいです。
その「パパ」は、いわば「力を得たインセル」です。昔から恋愛などと無縁で、努力しても実らず、非モテとして過ごしていました。独立して起業すると、それが軌道に乗って成金となるのですが、時すでに遅く40歳を目前に控えており、まともな恋愛など出来ないと諦めていました。彼がこのようなことをしているのは、ひとえに「復讐」したいからです。何に復讐しているのかは置いておくとして、同年代と過ごせたであろう青春を破壊してしまうのがこの「パパ」の第一義とするところでした。
感覚を壊されてしまった女性が「またご飯行きたい」などと救いを乞う瞬間が、その「パパ」にとって何よりの生き甲斐であり最高の愉悦。彼が1人の女性を潰すには1000万円はかかるそうですが、成金の復讐鬼にとっては安い買い物です。拗らせた非モテと遅れた成功によって生まれた悲しきモンスターは今日も、モテなかった頃とは関係のない女性の金銭感覚を麻痺させようと港区で息づいています。真偽不明ですけどね。
実在するの?
「パパ」の実在性についてですが、こちらからは何とも言えません。ただ反応を見た感じでは信じている人が多い印象です。「赤スパ構想」と違って、明確に否定できる材料に乏しいからですね。尤も、目論見通りに感覚を壊せてばかりでもないでしょう。何人かはその金を警戒するなりして離れたのではないかと推測されます。
「パパ」について記述していたサイトでは、「宝くじの高額当選者の7割は仕事を辞める」と述べられていました。突然大金が降り注いだことで、あくせく働くことに意義を見出せなくなるのが多数派なのでしょう。しかし、仕事を辞めなかった高額当選者も3割の少数派として存在しています。
実在性については兎も角、人間パチスロになりたいなどと考えないようにしてください。想像以上に多額のコストがかかりますし、他人の破壊を楽しむようなモンスターが一代の富を築くなど本来あってはならないことですから。
参考サイト
パパ活に潜む悪魔のような男
https://ueno.link


