障害者就労の助成金を拡充、財源は雇用率未達成の「納付金」から

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れいわ新選組の舩後議員と木村議員が登院できないと紛糾した出来事を覚えておいででしょうか。「重度訪問介護」が勤務中は適用されないということで、当面の間介助費を参議員が出す形で登院するように応急処置をとっています。

それを巡って新たな動き(?)が出ました。15日に厚生労働省が障害者就労の助成金について言及したのです。助成金そのものは拡充するつもりですが、舩後議員らの求める「重度訪問介護」に関する制度見直しについては先送りとなりました。

舩後議員らに関する情報は以上ですが、本題はここからです。障害者就労に関する助成金についてですが、その財源は法定雇用率未達成の企業が支払う「納付金」から出ています。そこで、納付金の仕組みについても解説していきます。

助成金は拡充します

今回拡充する助成金とは、障害者の就労や通勤を自ら支援する企業に対して払うものです。現在の制度は勤めている障害者1人につき月およそ15万円で、職場にヘルパーを入れる場合も介助費の75%を国が肩代わりします。これを4月から引き上げ、特に遅れがちな中小企業への助成率はより高くする予定です。

この発表に先がけて厚労省は障害者の就労実態について初めての全国調査を行いました。今分かっているのは重度の障害者で就労できているのはわずか6%に過ぎないことです。必要とする支援や就労形態(通勤・在宅など)についても集計しており、今年度中には結果をまとめて発表するようです。

厚労省の調査にしてもあまり楽観的な数字は出ないでしょうし、予想される課題として中小企業への負担が重いことも確実に挙がるでしょう。特例子会社や在宅勤務などを選択肢に挙げる体力もないですし、求められる合理的配慮への適応力にも期待しにくいです。水増し分を取り戻そうと躍起になっている官公庁や役所との奪い合いも予想されます。

事情が何であろうとも法定雇用率(現在2.2%、2021年4月までには2.3%へ上がる)を満たせなければ「納付金」を納めることになります。未達成企業からの納付金は今回のような障害者雇用が出来ている企業を助成する財源として機能するわけです。

財源は法定雇用率未達成企業から

拡充される助成金の財源は法定雇用率を満たせなかった民間企業から納められた「納付金」です。人数がある程度少ない企業は対象になりませんが、そのラインが昔50人だったのが2018年4月から45.5人と厳しくなっており、より多くの企業が法定雇用率を満たしたかどうかチェックされます。(しかし100人以下の企業は徴収されません)

納付金の額は雇えてない障害者1人あたり月額5万円です。年間にして60万円の支出は企業規模によっては痛手になるでしょう。一方、納付金を財源とした助成を受ける企業は障害者雇用で経費がかかっても助成金によって補填(調整金と呼ばれるものが別途あります)が利きます。納付金の目的は本来、障害者雇用による経済格差を抑えることにあり、障害者を雇えていない企業の納めた納付金が雇えている企業への支援に繋がっている構造が作られています。

だからといって「納付金は必要経費!うちは障害者など雇わない!やる気のある企業だけ頑張ればいい!」などという姿勢は通りません。未達成企業へのペナルティは納付金と並行して、「法定雇用率を達成するまで労働局による段階的な指導を受ける」というものがあるのです。

指導はまず計画書の作成と提出から始まります。2年間は観察されているという位置づけで、時々障害者向けの合同面接会で採用活動をしないかとハローワークから誘われることもあります。

2年後の6月時点でも全国平均を下回っていたり雇用不足数が10人以上あったりすると、特別指導が入ります。特別指導が入った翌年3月(9か月後)でも改善されていなければ、企業名公表という最も重いペナルティを受け、「障害者を雇う気がない企業」として晒し者にされてしまいます。100人以下の企業は納付金の徴収こそないものの指導は受け、改善が見られなければ企業名を公表されます。

なお、雇っている障害者数のカウントには、重度障害者は2人分や短時間労働は0.5人分といった特例があります。ほとんどの企業が不足5人分に達した時点で採用活動を始めるそうです。

未達成ありきのシステムと多数の未雇用たち

助成金のシステムは、日本中の企業がすべて法定雇用率を達成するのは不可能という前提で成り立っているのではないかと思います。納付金を納める未達成企業が出なければ財源は確保できませんし、官公庁や役所も過去の水増し分を取り返そうと採用活動を始めているので、簡単に雇用は出来ません。しかし就労に漕ぎつけていない障害者のほうが多いのもまた事実です。

国内における障害者の総数(2018年時点)は、身体で436万人、知的で108万人、精神で392万人となっています。手帳を複数交付された人も少なくないため単純に合算は出来ませんが、500万~800万人はいるものと思われます。そのうち民間企業に雇用されている人数は53万人程度に過ぎません。

民間以外に雇用されている、株や投資やフリーランスなど雇用以外の収入がある、最重度などで就労そのものが極めて困難、などといった事情はあるでしょうが、残る数の大部分は未だ雇用に漕ぎつけていない(または就労の意志が希薄)とみて間違いないでしょう。

とはいえ就職がゴールではありません。雇いはするものの軽作業しか振らないところや共同農園を借りてそこの作業に収めるところなど、数合わせしか考えていないと職場に定着せず採用活動の振り出しに戻ってしまいます。

そもそも障害者の雇い方すら分からない企業が多い現状で、すべての企業が法定雇用率を達成するようなことは起こりえないでしょう。それは助成金制度が崩壊しない理由さえも示唆しています。未達成企業は対象企業全体の54.1%(2018年度)にのぼり、助成金の財源はまだまだ潤沢といえます。助成金を増やす余裕があるというのは障害者雇用が遅滞していることの裏返しでもあるのです。

ちなみに、障害者を1人も雇っていない企業は未達成企業のうち57.8%です。対象企業全体のうち31.2%と、決して少ない比率ではありません。オープン就労の求人は最低賃金が常識と化した面もありますし、漠然と採用活動をしてクローズド就労の障害者がたまたま入ってくればラッキー程度にしか思われていないのでしょうか。クローズドは企業側が合理的配慮をしなくてもいいですし。

参考サイト

東京新聞:重度障害者就労 見直しを先送り 企業助成金は拡充:政治(TOKYO Web)
https://www.tokyo-np.co.jp

法定雇用率を達成していますか?障害者雇用における給付金と調整金
https://www.all-senmonka.jp

障害者雇用率制度|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp

障害者雇用促進法をわかりやすく解説 概要、改正点、雇用に関わるポイントについて
https://challenge.persol-group.co.jp

平成30年度 障害者雇用情報の集計結果
https://www.mhlw.go.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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