自立生活センター、「障害者の自立を実現する最善の手段」という自負

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国や自治体の主導で障害者の支援をするには残念ながら限界があります。だからといって何もしなくていいわけではありませんが、よく言われる「福祉の狭間」を“官”だけで埋めるというのは無理があるのかもしれません。

そこで“民”の頑張りが求められます。自助努力などという投げやりではなく、民間なりに障害者支援のスタイルを確立して福祉の狭間を埋めていく姿勢が求められます。

民間による支援スタイルのひとつとして「自立生活センター」が挙げられます。自立生活センターはほとんど障害者によって運営されており、彼らは「自立生活の理念を実現させる最も有効な手段」を自負しています。

受け手から担い手へ

障害者への福祉サービス事業を障害者が運営する「自立生活センター」は、1972年にカリフォルニア州のバークレーで初めて設立されました。その概念は日本にも輸入され、1986年に東京都八王子市で国内第1号にあたる「ヒューマンケア協会」が誕生します。現在は日本全国に117か所の自立支援センターが存在します。

自立生活センターは「福祉の受け手から担い手へ」をスローガンとしており、障害者が事業実施責任者や運営委員として福祉サービスを提供しています。このスタイルは遠いカリフォルニアで始まった時から共通のものです。

障害者が福祉サービスの提供に取り組む最大の理由は、暮らしの中で障害者が求めるニーズを顕在化するためです。日本中の自立生活センターを束ねる全国自立生活センター協議会(JIL)はこう語ります。

「重度の障害者が暮らしやすい社会は誰にとっても暮らしやすいですが、実現するには良い福祉が地域に根差している必要があります。良い福祉は黙っていても生まれません。ニーズを顕在化し行政に訴えていくことと、それを提供できる事業体に我々自身がなることこそ近道となります。そして、その事業体を行政が支えていくのが最も効率のいいやり方です」

障害者にとって本当に必要な支援は何か、行政に何を求め訴えていくべきかを、障害者らが集まって考えていく機能も兼ねているのだと思います。なんでも行政任せにせず、寧ろ行政に求める支援も分かりやすく簡単にしようとするのも目をひく要素です。

JILでは同じ活動をする事業体について、正会員になれる条件を定めています。「本部の長が障害者で、委員の過半数も障害者であること」「障害の種別を問わず福祉サービスを提供すること」などです。

八王子での第一歩

国内で最初に設立された自立生活センターは八王子の「ヒューマンケア協会」です。創設者である中西正司代表は、大学生のころに事故で身体障害者となり車椅子で生活しています。

1986年、中西代表は何らかの障害を持つ仲間3人と共に「憐れみの福祉ではなく、健常者と対等に支え合う福祉を」とヒューマンケア協会を立ち上げました。はじめは自転車操業のような状態でしたが、都からの補助金を受けて軌道に乗り、JILのいう最も効率のいい運営ができるようになりました。必要な支援も分かり、それに即した国の制度にも繋がっています。

代表や幹部なども障害者で運営しているため、障害者どうしの自助グループとしての側面も持っています。自立生活の支援を受けるだけでなく、中には自身の自立生活センターを立ち上げた障害者も現れ障害者が地域で自立するための拠点は全国に広がっていきました。

障害者が主体となって運営するスタイルは、支援のニーズとそれに要するコストを明らかなデータとして世に出しました。また、どんな障害者でも自立していけるよう支え合う構造にも寄与しています。

施設から地域へ

障害者を施設へ押し込めるのではなく地域社会の一員として生活してもらう「施設から地域へ」のスローガンは、叫ばれてはいるものの遅々として進んでいないのが現状です。よくある原因は地域住民との軋轢でしょう。

地域生活のためのグループホームなどを建てようとすると、地域住民が子どもや治安を盾に猛抗議することがあります。障害者のいない世界に浸っていた彼らにとって、障害者を受け容れるグループホームが建つのは到底許されない侵略行為なのでしょう。

地域で暮らせたとしても、町内会の掟など内々のルールに適応できない場合があります。大阪市では自治会の班長を決めるくじ引きに対し「班長の仕事は複雑なのでできない」と告げた知的+精神障害の男性が「特別扱いはしない」の一点張りで拒否され自殺に追い込まれる出来事がありました。同じように、理由をつけて町から追い出される障害者も居るかもしれません。

自立生活センターはこうした問題に切り込む一手になると思います。毎日新聞の野倉恵記者は「障害者が必要とする支援を障害者が提供する仕組み、障害者が社会を変えるモデルを世に示した自立生活センターは『東京遺産』として遺すべきだ」と取材についての感想を述べています。

参考サイト

障害者自ら支援担い手「社会の底力に」全国117カ所に拡大
https://news.yahoo.co.jp

全国自立生活センター協議会(JIL)
http://www.j-il.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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