
出典:Photo by Duy Pham on Unsplash
小学生のころ、同級生にナオ君(仮名)という子がいました。彼はてんかんと知的障害を持っていました。そして彼はクラスいちの人気者だったのです。誇張や比喩ではなく、まぎれもなくクラスの誰よりも愛されていました。今回は、彼との思い出を綴ろうと思います。
ナオ君と過ごす日々
ナオ君と同じクラスだったのは小学校入学から4年生くらいまでだったと思います。いつもニコニコと明るい彼は、支援学級などに通うのではなく、僕らと同じ一般の学級で一緒に勉強をしていました。
ちなみに、僕もまだ発達障害の診断を受けるどころか、その兆候すら感じる前のころの話です。僕らは、どこにでもいる小学生として一緒に学び、遊び、笑い合っていました。
ナオ君は、間違いなくクラスで一番の人気者でした。教室でも、いつも彼のまわりに人が溢れていました。放課後は、ナオ君の家によくみんなで遊びにいきました。
彼の家は、あるお店を営んでいました。1階が店舗、2階が住居になっていました。そんな家に、多い時はクラスの半分くらいの子が一度に押しかけていたのではないでしょうか。
家全部を使って、かくれんぼをして遊んだのがとても楽しかったことを憶えています。今から思えば、家族の方々も大変だったはずです。でも、嫌な顔ひとつせずいつもあたたかく迎えてくれました。
ナオ君には、ほぼ毎日彼のお母さんが付き添って学校に来ていました。彼のお母さんは、絵に描いたような生粋の「肝っ玉母ちゃん」でした。
ナオ君に限らず、僕らが何か悪いことをしたら、遠慮なく思いっきり叱り飛ばしてくれました。一方、何かいいことをしたら、抱きしめてくれる勢いで褒めてくれました。まるで僕らにとっても本当のお母さんのようでした。
お店を切り盛りし、ナオ君の世話をし、僕らにまで気にかけて。あのエネルギーやバイタリティは一体どこから出てきていたのでしょうか。
ナオ君と僕らが違うこと
ナオ君と僕らが違うこと、それは彼はいつも頭に黒いヘッドギアを着けていたことです。でも、僕らはそのことに何の違和感ももっていませんでしたし、みんなにとって当たり前のことでした。
しかし、ナオ君は突然「ぶっ倒れ」ます。てんかんの発作です。口から泡を吹いて全身を震わせながら硬直するのです。そのことに、僕らは最初びっくりしました。
発作は、まるで地震のようになんの前触れもなく起きます。例えば、いつものようにみんなで授業を受けていたあるとき、バターン!という大きな音がすると、ナオ君が倒れて震えているのです。
たしか先生は、彼の口にタオルを突っ込んでいました。(注:窒息の恐れがあるため、正しくは口の中にタオルを詰め込むのは避けること。とされています)近くにいる人は、ナオ君がぶつからないように机や椅子を彼から離していました。
そんな出来事にも、僕らは次第に慣れていきました。たまに泡を吹いて倒れるけど、それ以外は明るくて元気で優しくて面白いナオ君だったから。
だから友達でした。みんなが友達でした。それ以上でも以下でもありませんでした。
ナオ君のその後
たしか、ナオ君と同じクラスだったのは、小学校中学年くらいまでだったと思います。卒業後、僕は地元の公立中学に進学したのですが、そこで彼を見かけることはありませんでした。特別支援学級のある学校に進学したのかもしれません。
それ以降、彼はどこで何をして過ごしていったのか、どのような進路を歩んでいったのかは分かりません。
ある時期までは、僕が実家に帰った際、彼の家(お店)の前を通ると、店先に立つナオ君の姿を見かけることがありましたが、今はもうそれもありません。
今、ナオ君はどこで何をしているのでしょうか
おわりに
ナオ君と過ごしていたあのころ、僕らは大人たちから「障害をもつ子も、もたない子も仲良くしよう」だとか「おたがい違いがあるからこそ、力を合わせればより大きなことができる」などと諭されたことは一切ありませんでした。ただ、ナオ君と僕らは一緒にいました。同じことを勉強し、同じ給食を食べ、同じ運動場で遊び、分け隔てなく一緒に過ごしていました。それだけでした。
てんかんと知的障害をもっていて、そしてクラスいちの人気者だったナオ君。
これは、最近話題の「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉が広まるずっと昔の話です。
参考文献
【てんかんinfo】
https://www.tenkan.info
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徹
徹
映画と沖縄とバスケをこよなく愛する自閉スペクトラム症当事者。現在、就労移行支援事業所に通所しています。小学生女子のパパ。
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