俳優高知東生と田中紀子が依存症のリアルをぶっちゃけトーク〜依存症セミナーが大阪で開催

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去る9月21日、大阪市阿倍野区で2023年よりそいセミナーが開催されました。「依存症“ぶっちゃけ”トークセッション」と題されたこのイベントでは、薬物依存当事者でもある俳優の高知東生(たかち・のぼる)さんと、ギャンブル依存症当事者でもある田中紀子(たなか・のりこ)さんの講演を中心に、依存症について考えていく時間となりました。

高知さんと田中さんは、リカバリーカルチャーの啓蒙活動としてYouTubeで「たかりこチャンネル」を開設し、そちらでも活動されています。この講演では、依存症の仕組みや、それに繋がったであろう数奇で過酷な生い立ち、そして質疑応答が設けられました。

依存症当事者の実体験から見えたドーパミンと依存症の深い結びつき

田中「依存症はドーパミンと深く関わっています。ドーパミンとは気持ち良さ、快感を与えてくれる物質で、私なんかだとギャンブルで大当たりした時に出ますね。ただ、普通の人たちも日常的に深く関わっている物質で、例えば何かやり遂げて目標を達成した時、喜びますよね。その機能不全が依存症となります。高知さんも20歳で初めてクスリに触れ、そこから長いブランクを経てなお、凄いストレスをきっかけに再発したじゃないですか。やっぱり、薬物が『バチンときた』と思うのですが」
高知「バチンときたというか、振り返ればあの刺激は“懐かしい”んですよ。形は違えど懐かしいスリルや刺激です」
田中「でも薬物が他の全てを越えてきた訳じゃないですか」
高知「短時間であの高揚感と、感じたこともない感覚が来るんですね」
田中「不思議なことに、皆が皆依存症へ傾く訳ではありません。忘れられないとか気持ちいいとかは個人差。私にとっては、ギャンブルの興奮が大ハマりなんですが、元々の気質が勝負好きの負けず嫌いだったので、マッチしたんでしょうね」

田中「インスタントな刺激でドーパミンを大量に出したとしても、離れていれば元に戻るサイクルが本来はあります。なので、ギャンブルをする人が全て依存症という訳ではないんですね。でも依存症になっていると、元に戻るサイクルが壊れてしまいます。具体的にどう壊れるかというと、依存対象から離れている時にドーパミンを感じられなくなってしまい、気分の落ち込みややる気の減退が起こるんです。高知さんも、薬物に触れはじめた頃は『機会があればやるけど、敢えて自分からやるほどの物でもない』と思っていましたよね」
高知「一人上京した自分と変わらない年代で稼いでいる人が沢山いて、彼らから情報を得たいと近づいたときに、薬物が出てきた訳です。今思えば馬鹿な意地を張っていました」
田中「芸能界に入ってからは薬物から離れていましたけれども、エステ業界に参入したじゃないですか。芸能人が異業種に手を出すと大体失敗するんですよね。私でも少し高知さんと接しただけで社長業に向かないと分かりましたもん。それでストレスが増えて、また薬物に手を出したんですよね」

田中「商売あがったりのストレスフルな状況です。薬物の使用量も、粋がっていた若い頃とは違っていましたよね?」
高知「違いましたね。酒でもゴルフでも忘れられない憂鬱を、覚醒剤は取り払ってくれる。翌朝、意識はしっかりしているので仕事も出来るし、こうするしかないと思っちゃうんですね」
田中「依存症になる人たちというのは、医学的根拠はないのですが、『バチンとはまる』ものがあるんですよ。そういう回路が出来てしまう。よく『他に趣味を持て』と言われるんですけど、他にストレスを解消して憂鬱を振り払う道筋が分からないんですよ。一時の強い刺激で嫌な感情を打ち消して、社会と向き合ってるんですよね。『クスリに逃げた』『ギャンブルに逃げた』と言われてもピンとこない、それがあるから現実と闘ってこれた側面があるんです。依存症者にとっては現実逃避ではなく、現実と向き合うための支柱なんですよ。だから、私もギャンブルをやめるのがとても怖かった」
高知「一番苦しかったのは、量がどんどん増えていくことですよ。やばいやばいと思っていても、その不安を消すために尚更薬物に頼っていく。その上、家族や周囲に嘘をつき続けるのが辛くって」
田中「元々のストレスに加えて、薬物関連のストレスも増えていくんですよね」

田中「ギャンブルでも何でも、依存症では大体同じ画像診断になるんですけど、健康な人は映像に様々な興味を示して色々と光ってるわけです。でも依存症者は全く反応しないんですね。自分が依存するもの以外からは、脳が楽しさや興奮を得られない、そういう脳の病気なんです。だから、精神論ではどうにもならない訳ですね。回復しようにも、処方薬なんてものはありません。同じ経験を持つ仲間どうしで繋がることが重要です」

質疑応答で参加者と対話

──“底付き体験”をする勇気が無いときはどうすればいいですか
田中「底付き体験というのは飽くまで当事者が使う言葉で、支援者が言うことではないんですよ。当事者が過去を振り返る中で、『思えばあれが底だったな』と思えば、それが底付き体験となります。なので、体験が一つとは限りません。支援者が無理に底付きさせることではないですし、底付きをしてからやる気になる人もいません」
高知「振り返れば田中さんと出会った時が、自分一人の根性論ではどうにもならない底付き体験だったなと思います」
田中「やり直しではなく、嫌々で通い始める人が多数派なんです。嫌々でも来てみたら、強い当事者性に包まれて、いつの間にか自助グループを続けようとします。手を変え品を変え、私達同じ悩みを持つ仲間と繋げていくイメージですね」

──施設や自助グループへの参加を躊躇う人にはどう声掛けしたらいいですか
田中「当事者って声をかけてもあまり参加しないんですよ。寧ろ、支援者側から働きかけていって関係を構築した方が上手くいくんですね。連携の仕方にはコツがあるんですよ。行けと言われて行けるなら、人見知りせず輪にすぐ入れるし、そういう人はそもそも依存症にならないと思います」

──こういう社会だったら、こういう出会いがあればという話を教えてください
田中「20年前の私は依存症が病気であるどころか、相談先がある事すら知りませんでした。依存症に対する世間のスティグマが軽ければ、もう少し繋がりやすかったかなと思いますね」
高知「正しい知識を持つ人も居ないし、支援団体について知ろうともしないし、ただ悪い噂だけは広まっていく。だから周りに相談することなど出来ませんでした」
田中「依存症への偏見がもう少し解消されればいいですね。未だに『ダメゼッタイ運動』といって、薬物依存症が人間でないかのような描写のポスターを子どもに作らせて、大人がそれを良いことと信じて表彰しています。『クスリやめますか、それとも人生やめますか』みたいな人権侵害じみたCMに何の疑問も抱かなかったあの頃から、考え方がアップデートされていません。そういう所を変えていかないといけませんね。誰かと繋がったり相談したりが、余計しにくくなるので、改善してもらいたいです」

──高知さんは依存症と闘う今、何が一番しんどいですか
高知「しんどくはないですね。先を行く仲間、回復している仲間、何より自分と向き合ってきたことで、ジェンダーロールなどの重荷は感じなくなりました。自分の弱い所も含めて認め、人は人、自分は自分と思えば楽なんですよ」
田中「自助グループで12ステッププログラムをやってきた人たちは皆そう言って楽になりますね。入る前の方がしんどそう。『我慢』だけでは長続きしません。人生を楽しめるようになれば、不健康な刺激は必要なくなります」
高知「皆さんに言いたいのは、世の中には回復し続けて再び社会の役に立ちたい人が大勢いることです。これを理解した上で、依存症になっても終わりではないよと、回復できる病気であることを一人でも多くの人に知ってもらいたいです」

──地域で生活する上で必要なことは何ですか
田中「地域中、日本中が依存症について正しい知識を持つぐらい啓蒙してほしいですね。コロナ禍でも口を酸っぱくして説いたからこそソーシャルディスタンスなどの対策が浸透したじゃないですか。依存症が分かれば、正しい知識でアプローチできる世の中になってもらいたいですね」

──大麻の合法化についてどう思いますか
田中「さすがに合法化までする必要はないでしょう。ただ、違法と合法の間である『非犯罪化』には留めるべきだとは思いますね。非犯罪化とは、違法ではあるものの、犯罪としては取り締まらず治療へ繋げていく方針で、国連でも今緊急の宣言として出ています。ポルトガルなどがそれをとっていますね」
田中「昔に比べて薬物犯罪は半分以下に減っており、警察の対薬物犯罪が事業仕分けされる時期もありました。使用罪の名のもとに、日大のあの子たちの将来を奪うマスコミはどうかしていますし、薬物に対する扱いもどこかおかしいです。非犯罪化の事例は、例えば未成年飲酒がそうですね。いちいち逮捕せず、家庭関係や環境を探って調整へ介入していくんですよ。でも薬物はそうではない。将来がどうなろうと構うことなく、逮捕と実名報道で恐怖心を植え付けていきます。そうして自分たちの仕事を消すまいとしている人達がいるのではないかと私は思っています」
田中「アメリカで麻薬戦争が起こるのは、政治が失敗した時だと言われています。麻薬問題にすり替えるんですね。あの禁酒法もそうでした。禁酒法を廃止した時、かつて取り締まっていた人達の標的は麻薬へと向かいました。麻薬の危険性を訴えるためには、黒人差別をも持ち出されたんです。そういう訳で、私は刑罰でも合法化でもなく『非犯罪化』として、治療に繋げていく道筋を広げるべきだと考えています」
高知「自分も刑罰より治療だと思いますね。自助グループで先を行く仲間たちにも再犯で何度か捕まった人がいるんですよ。何故かというと、刑務所の中は売人の情報交換ばかりで、出所後にまたやってしまうからです。皆に知って欲しいのは、累犯でも自助グループに繋がることで、回復の日々を重ねて笑っていけることです。当事者の声を素直に聞いて、参考にしてもらいたいなと思っています」
田中「当事者らの経験談や背景を聞いていると、そりゃクスリに頼っちゃうよねってのが必ずありますよね。背景にフォーカスして、彼らの環境を調整し、如何に支援していくか考えていくことが大人の役目ですよね。実名報道で騒ぎ立てるのは大人のやる事ではありません」

障害者ドットコムからも質問を

質疑応答では、障害者ドットコムからも質問させていただきました。計画相談支援の利用者の中に、以前行けていた断酒会へ1年以上接続していない方がおり、どのように断酒会へ繋げていくかを伺いました。

田中「断酒会側に働きかけて、そちらの方から来てもらうのはどうでしょうか。断酒会としても喜んで来てくれると思います」
高知「責任感が強く、自分一人でなんとかしようとする思いは伝わってきますが、一人で解決するのは無理です。周りを巻き込んで、一緒になって色んな角度からアプローチするのが本人の為になると思います」
田中「依存症は段々進行しますが、それでも出来ることはまだあるので、色々やってみるといいと思います。本人に断りを入れなくても、断酒会側が上手くやってくれるので、一緒に作戦を立てていきましょう」

障害者ドットコムニュース編集部

障害者ドットコムニュース編集部

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