「類を見ない成功」からの転落 発達障害のキャリアを考える
発達障害
画像:https://www.pakutaso.com/20190613158post-21092.html
1【成功と転落】
私は陣内マリアと言います。小学校6年生の頃に非言語性学習障害(限局性学習症/LD)と診断されました。言語性のIQは平均でしたが、それ以外の項目は全て境界知能〜軽度知的障害の水準という大きなハンデを抱えていました。それでも努力を重ね、有名私立大学に合格し、給付型奨学生に選ばれて交換留学も経験。その後、2019年には新卒就職人気ランキング1位の大手企業に入社しました。
周囲からは「類を見ない成功」とまで言われました。しかし、実際には障害の影響で仕事をこなせず、退職。現在は就ける仕事が見つからず、生活に困窮しています。この経験を通して、発達障害とキャリアについて伝えたいと思います。
2【誤診される障害、受けられない支援】
私がこのような「表面的な成功」を収められたのは、幼少期に適切な支援を受けていたからだと思われるかもしれません。しかし、実際には支援はまったく受けられませんでした。理由は主に以下の2つです。
1. 誤診されやすい障害
私のような非言語性学習障害は、「言語性のIQは平均かそれ以上で、その他が平均より低い」という特徴があります。私は特に「知覚推理」が極端に低く、見た情報を処理する力に困難がありました。例えば、散らかった物をどこに片づければよいか分からない、そのために整理整頓ができない——といった特徴からADHDと誤診され、「処理速度」が遅く不器用だという印象からASDと誤診されることもありました。
2. 障害名が知られていない
私に必要だったのは、非言語性領域の学習支援でした。しかし、当時はASD、ADHD、LD(文字が読めない学習障害)しか広く知られておらず、私の障害は理解されませんでした。
3【なぜ私は成功したのか】
支援は受けられなかったものの、私は有名大学に合格し、大手企業に入社しました。その理由は「言語性の能力を徹底的に伸ばした」ことにあります。
母は「健常者と同じように生きてほしい」と願い、毎晩本を読み聞かせ、塾に通わせ、私立高校の学費も負担してくれました。私も母の期待に応えるために、年間数百冊の本を読み、1日8時間以上勉強しました。その努力が実を結び、国語と英語で学年トップになり、一般入試で大学に合格。得意な言語性を活かして面接にも挑み、給付型奨学金を得て交換留学も果たしました。その経験が評価され、大手企業に採用されたのです。
4【転落】
「大きなハンデを背負っているのに大手企業に入った私は健常者よりすごい」と信じていました。しかし、現実は違ったのです。
私の障害、特に目で見た情報を処理する「知覚推理」の弱さが仕事に大きく影響したのです。
書類の誤字やフォントの違いが見ても分からない。書類の保存先が理解できず片づけができない。PCのどのボタンを押したら何が起こるかが分からず操作できない。こうした問題が繰り返され、次第にハンコを押すだけの単純作業しか任されなくなり、それが苦痛で退職しました。
その後、心機一転して日本で保育士資格を独学で取得し、得意な英語を活かしてオーストラリアに留学。現地の保育園で働きながら保育士資格取得を目指し、最終的に主任や経営もできるレベルの「Diploma」資格を取得しました。しかし、現場では子どもたちを1時間もまとめられず、学級崩壊。保育士の仕事も辞めざるを得ませんでした。
敗因は「知覚推理」が弱いため、子どもたちの様子を瞬時に把握できず、「処理速度」の遅さから次々に起こるトラブルに対応できなかったことです。
5【自信の崩壊】
オフィスの仕事もできない。現場の仕事も続かない。では発達障害に向いていると言われる工場作業は?と挑戦してみましたが、物の組み立て方が理解できず、流れてくる製品に対応できませんでした。
私は「大手企業に入社し、海外で資格を取った賢い人間」だったはずです。それなのに出来る仕事が何もない。このギャップに、自信が崩れていくのを感じました。
6【唯一できた仕事】
そんな私にも唯一できた仕事があります。それがライターです。
現在は前職の経験を活かし、同じ業界の会社から業務委託を受けて記事を書いています。継続的に依頼もあり、これだけが「評価された仕事」です。とはいえ、収入は月数万円。とても生活できる額ではありません。
7【この経験からキャリアを考える】
私が学んだのは「表面的な成功には意味がない」ということです。
発達障害のある子どもが有名大学に入り、大手企業に入ったとしても、それだけでは根本の問題は解決されません。障害は努力で「治る」ものではなく、きちんと対処しなければ、結局、私のように仕事ができずに退職し、キャリアに迷うことになってしまいます。
8【結局どうすればいいのか】
私がおすすめしたいのは、「得意分野で資格を取得し、同時に支援を受けて苦手を補う」方法です。
私は保育士の仕事を辞めましたが、保育業界は求人数が非常に多く、日本と海外の資格を持つ私には、まだ一定の需要があります。将来的に担任を務めるのは難しいかもしれませんが、非常勤の保育士や英語を活かした幼児教育などであれば、働くことは可能だと思います。
経験から言えば、事務職や営業職のようにできる人が多い職業は求人も競争も厳しいですが、「資格職」ならば求人が多く、需要も高まります。
お子さんに得意な分野があるなら、または好きなことがあるなら、それに関する資格を取得しながら、楽しみつつ稼げる道を探してみてください。そして、早期から専門家に相談し、診断名を理解したうえで苦手を支援で補う——それが一番大切なことだと思います。
【参考文献】
・非言語性学習障害とは何か
https://www.houmonshinri-station.jp/learningdisorder
・非言語性学習障害とASDの違い
https://gray-zone-family.hatenablog.com/entry/2022/04/15/123000
学習障害(LD)