出生前診断絡みの訴訟を起こす、おやじ・おふくろの背中

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Photo by Hữu Phú on Unsplash

「出生前診断の是非は高齢妊娠・少子化を踏まえ、今後も慎重な議論が求められるでしょう。しかし、妊娠出産は母体の命や健康と今後の人生に直結した問題です。メディアの情報や一部の偏りある意見に耳を傾ける前に、パートナーと丁寧に話し合い最良の答えを導き出すことが大切です」(NIPTに詳しいヒロクリニックのコラムより)

出生前診断絡みで訴訟があったようです。原告はオーストラリア人の夫婦で、大阪市内の病院で受けた出生前診断の結果が「陰性」だったにも関わらず、ダウン症児が生まれたというのが訴訟の背景です。言語面でのコミュニケーション問題や院内での“言った言わない”が争点となっています。

言った言わないの争い

原告妻が受けた診断は「超音波検査」という、うなじ付近などからダウン症含めた染色体異常の確率を算出するものでした。しかし出生前診断として機能するのは妊娠11~13週のあいだ限りで、それ以降は顔や体の形が分かる程度で染色体異常については判別できなくなります。原告妻がこれを受けたのは妊娠18週目のことでした。

なぜ遅れて検査を受けたかというと、前週の17週目に相談を受けた医師が超音波検査を提案したからだそうです。そこで「異常なし」と出たものの、現実ではダウン症児を産んだことで係争へと至りました。曰く、「心の準備が出来なかった」とのことです。

原告夫婦は「ダウン症の懸念を伝えて検査を希望した」「超音波検査を受けるには遅すぎるとは知らなかった」「医師からは99%正確だと言われていた」と訴え、被告の病院は「遺伝学的検査の希望は聞いていない」「ダウン症への懸念は検査になって初めて聞いた」「各段階で必要な説明はしている」と反論しています。

そもそも超音波検査は、染色体異常を診る目的に限れば他にもっと良い検査があるという立ち位置です。とはいえNIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)でも平均13.1週なので、原告妻が行動に移すのが遅いという印象は拭えません。より精度の高い羊水検査もありますが、あちらには流産リスクという欠陥があります。

ところで、出生前診断を実施していながら先天性疾患に関する知識に疎い医療機関もあるそうです。出生前診断への需要が高まった表れでしょうか。

子どもに見せられない背中

「おやじの背中」「おふくろの背中」という言葉があります。子は親の背中を見て育つといいますが、これは比喩でもなんでもなく実際にそうです。また、教育に留まらず家庭環境そのものでもあります。

原告夫婦の供述や事情が何であろうとも、訴訟のきっかけが「ダウン症で生まれたから」であることは疑いようもないでしょう。もし健常児であったならば、夫婦は訴訟を起こしたでしょうか。確かに原告は「心の準備が出来なかった」と言っていますし、出生前診断には「家族の知る権利を尊重し、妊娠期間や将来をより健やかに過ごすためのもの」というのが本来の目的らしいのですが。

何をどう言い繕っても、ダウン症児を産んだことが訴訟のきっかけであることに変わりはありません。子どもからみれば、自分がダウン症だったばかりに病院を訴えている親の背中がずっと映っている訳です。このような親が、子どもにとって安心できる家庭を築けるかというと、多分に疑問視せざるを得ません。

ましてや、「乳幼児なら分かるまい」「ダウン症なら分かるまい」と高を括っているようなら、子育てと子どもの心を完全に舐めています。原告夫婦が何を思って訴訟に踏み切り、弁護士が何を思って協力しているのかは知りませんが、配られたカードにいつまでも不平不満を垂れ流すような生き方だけはしないで欲しいですね。

産むつもりなら受けない

この手の話題に湧き出る“キレイゴト反対派”は、出生前診断を全能神のごとく崇めており、「ダウン症が見つかった妊婦の9割近くが中絶を選んでいる」というデータを掲げて障害者の不必要性を熱く説いています。10万人以上の妊婦に追跡調査を実施してきた「出生前検査認証制度等運営委員会」の調査によると、確かにダウン症陽性の判定が出た妊婦のうち86.9%が中絶を選択しています。

しかし「出生前~」はこのように分析しています。「あきらめた方が多い背景には、妊娠継続を希望する方ははじめからNIPTを受けない傾向があるためと思われます」

要するに、最初から産むつもりなら出生前診断を受けないという初歩的な話です。出生前診断を受ける妊婦の多くが、高齢出産などの不安要因を訴え、産むことに迷っています。迷った末に中絶を選ぶのは、想像以上に心苦しい決断といいます。“キレイゴト反対派”はしばしば「出生前診断に反対するのはダウン症の現実を知らない門外漢だ」と罵りますが、向こうの方が「中絶を選んだ家族の苦痛を考慮しない部外者」という尚更闇の深い存在です。

そして、出生前診断では分からない先天性の疾患や障害は山ほどありますし、生まれた後(生まれる瞬間も含む)に負う障害も多数あります。出生前診断が万能でないことは、「出生前~」の語る「妊娠中にはさまざまなことが起こり、その一部が赤ちゃんの染色体トリソミーであるといえるでしょう」の一文に集約されています。

それにも関わらず、発達障害の話で出生前診断を持ち出す手合いには、よくその程度の見識で首を突っ込む気になれたものだと感心すらしてしまいます。現実の見えていない自称リアリストの限界といえばそれまででしょうけれども。

参考サイト

出生前診断で「異常なし」、生まれた子はダウン症 30代夫婦が病院に起こした訴訟の行方
https://news.yahoo.co.jp

出生前診断でダウン症と分かったら?倫理的な問題と中絶|ヒロクリニック
https://www.hiro-clinic.or.jp

NIPTを受けた10万人の妊婦さんの追跡調査|出生前検査認証制度等運営委員会
https://jams-prenatal.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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