海外移住-発達障害のあなたが知るべき現実と戦略
発達障害
1.【発達障害が海外で暮らす時に気を付ける5つのこと】
こんにちは。国際保育士の陣内マリアです。
お子さんが発達障害で、なおかつギフテッドの特性を持っている場合、保護者の方の中には『日本はこの子に合わないかもしれない』『海外でこそ才能を伸ばしてほしい』と考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私自身もLD(非言語性学習障害)を持ちながら海外に移住し、現地で保育士資格を取得し保育園で働いてきました。
今回はその経験をもとに、発達障害を持つお子さんが海外に移住する際に気をつけてほしいことについてお話ししたいと思います。
1-1【失言は死に繋がる】
発達障害のある方が海外に行くときに、特に気をつけてほしいのが『失言』です。
発達障害の当事者や保護者の方であれば、自分やお子さんが人前で思わぬ発言をしてしまった経験があるのではないでしょうか。
日本では特定の政治家を批判したり、多少人種差別的な発言をしたりしても命に関わるような事態にはなりません。
しかし海外では、たとえ悪意がなくても、トランプ大統領を支持した、イスラエルを批判したといった発言がきっかけで暴力沙汰になることもあります。
実際に私が暮らしていたオーストラリアでは、先住民族アボリジニの方々を批判することは許されませんでした。
オーストラリアではアボリジニは絶対的な存在で保育園でも、1日の始まりに彼らを称え、敬意を表す言葉を唱えることが求められていました。
彼らを非難すれば、職を失うだけでなく、場合によっては危害を加えられる可能性もありました。
海外ではこうしたことがあるため、特に政治的、人種差別的な発言には細心の注意を払う必要があります。
1-2【海外でも「空気を読む」ことは必要】
海外は日本に比べて同調圧力が少ないと言われることがありますが、それは正しくありません。むしろ海外こそ、周囲の空気を読むことが強く求められる場面が多いのです。
残念ながら、私たちのような移民であるアジア人は、海外では非常に不利な立場に置かれることが少なくありません。例えば白人なら自分の意見を主張しても受け入れられるのに、移民が同じことをすると嫌われ、誰も助けてくれなくなるということが、よく起こります。
仕事の面でも私が働いていた保育の世界では、白人であれば保育資格がなくても正社員になれるのに、アジア人は園長や学年主任が務められるような上位資格を持っていても派遣社員にすらなれない、ということがよくありました。
こうした不利な状況をカバーするために必要なのが、『空気を読む』力です。常に周囲の空気を感じ取り、素直で明るく、可愛げのある移民を演じる。多少面倒な仕事でも、チームの中で必要なら積極的に引き受ける。そうして信頼を積み重ねることで、移民でも少しずつ有利に立ち回れるようになります。
実際に私はこの方法で、保育資格を取得する過程で多くのオーストラリア人保育士に助けられ、無事に資格を取ることができました。さらに、資格取得中には就職先も紹介してもらい、学費や生活費を稼ぐこともできました。
1-3【発達障害は隠した方がいい】
海外では、発達障害を公表している有名人が多く存在します。実際に私も、職場などで発達障害をオープンにしている人を何人か見てきました。ただし、それが可能なのは、彼らに「強力な後ろ盾」がある場合です。たとえば、市民権や永住権を持っていたり、権力のある家族の支援があったりなど、社会的に守られた立場であることが多いのです。
一方で、私たちのように弱い立場にある移民が発達障害を公表することには、以下のようなリスクが伴います。
1. 就職が難しくなる
オーストラリアには毎年多くの移民が訪れ、慢性的に「人手余り」の状態です。たとえ能力が高くても、発達障害を公表することで「わざわざリスクのある人材を雇う必要はない」と判断され、採用のチャンスを失ってしまうことがあります。
2. 詐欺や搾取の標的になる可能性がある
残念ながら、オーストラリアでは日本人が同じ日本人を騙したり、オーストラリア人が移民を搾取したりというようなケースが見られます。発達障害を公表することで「扱いやすい」「抵抗しにくい」と思われ、悪意のある人に狙われやすくなる可能性があります。
このようなトラブルを避けるためにも、自分にハンディキャップがあることをむやみに公表せず、信頼できる相手や必要な場面に限って伝えるという慎重さが大切だと感じています。
1-4【学歴は役に立たない】
日本では、発達障害の特徴があっても高学歴であれば大手企業に入ったり、公務員になったりすることが可能です。しかし海外では、学歴はそれほど役に立ちません。私が住んでいたオーストラリアでも、東京大学を卒業して英語が堪能な日本人が就職できないというケースをよく目にしました。
なぜなら、東京大学出身の日本人を雇うよりも、国立大学卒のオーストラリア人を雇うほうが、ビザなどの手続きが不要で採用側にとって都合が良いからです。
では、海外で働くために最も重要なものは何でしょうか。それは『資格』です。オーストラリアでは、同じ日本人でも、東京大学文学部出身者より、無名私立大学の看護学部出身者の方が仕事を得やすいのが現実です。看護は医療機関だけでなく、介護施設や教育現場でも常に人手不足で需要が高いからです。
もし本気で海外で働きたいと考えているなら、大学の偏差値や知名度にこだわらず、むしろFランでも構わないので、医療、工学、法律、建築、保育、栄養学・調理など、海外でもすぐに専門性を活かせる資格を取得することが大切だと思います。
1-5【永住権は取れない】
家族に博士号を持つ者がいる関係で、私もオーストラリアで博士号を持つ方々と交流する機会がよくありました。そうした中で分かったのは、たとえアカデミックの最高峰である理系博士号を取得していても、オーストラリアのような人気の高い国では、永住権を得ることが非常に難しいという現実です。
なぜなら、オーストラリアのような先進国は移住先として非常に人気が高く、世界中から優秀な移民が集まってくるからです。さらに、就職においては基本的にオーストラリア人が優先されるため、たとえ高い学歴や専門性があっても、現地での就職が難しいケースが多くあります。
私の知り合いの中には、理系の博士号を持ちながらも就職先が見つからず、博士号であることを伏せて炭鉱で肉体労働をしていた方もいました。それでも最終的にはビザの問題で永住権を取得できず、泣く泣く帰国することになりました。
他にもビザの更新が認められない、住んでいた家の契約を突然打ち切られるなど、さまざまな理由で、どれほど優秀であっても永住が叶わない人が多くいるのが現実です。
2.【海外経験をどう活かすか】
私はオーストラリアに3年間滞在し、海外での就労も経験しました。確かに大変なことも多くありましたが、この海外生活が無駄だったとは思っていません。むしろ、その経験をどのように今後の人生に活かしていくかが大切だと感じています。
ここでは、「海外生活を今後のキャリアにどう活かすか」という視点から、2つの考え方をご紹介します。
2-1 帰国を前提に人生設計をする
前述のとおり、海外で永住権を取得するのは非常に難しいのが現実です。そのため、最初から「日本に帰国する」という前提で人生設計を立てておく方が、精神的にも計画的にも安定しやすいです。
2-2 長期プランで考える
海外では学歴よりも「資格」や「実務経験」が重視される傾向があります。たとえば、日本の大学で保育士資格を取得し、その後オーストラリアに渡って現地の保育園で実務経験を積みながら、現地資格を取得。その経験を活かして、帰国後にインターナショナルスクールや外資系の幼児教育関連企業に就職する──このように「日本で学び、海外で経験を積み、日本でキャリアを発展させる」という一貫した流れが理想的です。
もっと若いお子さんであれば、高校生の段階で現地の全寮制の学校に1年間留学し、移民支援などの専門的なボランティア活動に参加。その実績を活かして帰国子女枠で入管法を学べる大学に進学し、最終的には入国審査官などの職に就く──といった具体的かつ一貫性のあるプランを立てるのが良いかと思います。
まとめ
華やかに見える海外移住ですが、その裏には多くの苦労があり、とくに発達障害を持つ人にとっては不利な状況に直面することも少なくありません。しかし、だからといって夢を諦める必要はありません。大切なのは、「現実を正しく知ったうえで、どうすれば海外生活を自分の強みに変えられるか」を考え、具体的なプランを立てることです。
勢いだけで海外移住を決めるのではなく、将来を見据えた人生設計をしっかりと行い、それでも海外での挑戦を望む方には、ぜひ一歩を踏み出してほしいと思います。