心の一歩

失った自信と、新たに得た自信のようなもの 『心の一歩 』vol.3

『心の一歩 』 vol.3 <毎月30日連載>

脊髄小脳変性症が怖くないと言ったら嘘になる。しかし、これは現実で、逃げることはできない。ならばと、たたずんでいたって、何の解決にもならない。ならば一歩前に進むしかない。どうせ後戻りだって出来ないのだから。どこまで行けるか分からないけれど、そんなことは大した問題じゃないと、進むことを決めた。

小さい頃から体を動かす事しかしてこず、頭を使って頑張ったなんてことは記憶にありません。運動神経の良さが自慢でした。なのに、運動神経が失われるという症状はどんどん進行していき、それと同時に私から消えていくものは、まさに自信でした。症状の悪化よりも自信を無くすことが、私にとっては最も辛い事でもありました。自信を無くし、そして、全てを失いました。

自信のようなものを取り戻すきっかけになったのは、先輩の影響でチャレンジしてみた宅地建物取引主任者という国家試験でした。必死に取り組み、そして合格。そこで得たことは、とにかく一歩踏み出して、また一歩踏み出して、ガムシャラにでも、それを続けていけば結果は後から着いてくるのではないか、という感覚でした。これは全てに通じることだとも思いました。症状に眼振の激しさが出てしまい、教科書や本を読んだり、字を書いたりと勉強するのは大変だけれども、取り戻したこの感覚が失われていくことはありません。

ある日、障害者水泳の見学をした時でした。様々な障害者が、各々のやり方で泳ぎ、タイムを競い、水泳競技を楽しんでいました。皆なりたくてなったわけではない、なろうと思ってなれるものでもない身体を使って、ゴール目指して一生懸命でした。記録はどうであれゴールした姿は、とても楽しそうでした。そんな姿を見て、なぜか涙があふれたのです。私は元来、そんなに情熱的な人間ではなかったのに、感動して水泳を更には競技として始めるだなんて私自身、驚きのことでした。考えてもみれば、競技を始めたって、運動神経が失われていくのだから成長なんて見込めないのに。自信のような何とも言えない感覚を得た私は、水泳を始めてみることにしました。

そして、私が所属した水泳チームは『千葉ミラクルズSC』。ここでの出会いや経験は、その後の私を大きく成長させてくれました。また、生きる考え方も変わったと思います。水泳の練習を続けるうちに、どうしたらこの身体の動きで早く泳げるか?という、プラス思考のような、前向きな考えにも変わっていったのです。以前なら、なぜ俺の身体は思うように動かないのだ?なんでだ、なんでこうなったんだと、なっていたはずです。とにかく、前を目指して前向きに考えているから楽しいんだとも思いました。

自信を失い自暴自棄にもなっていたあの日、それでも一歩を踏み出してみた。踏み出す瞬間に、未来なんかは見えなかった。私に関する全ての物事が失われていく状況で、最後の意地で一歩踏み出したのかも知れない。ゴールなんかも、ちょっとした目の前のゴールしか見えていなかった。それでも、続けていくうちに考え方が変わった。考え方が変わるうち、いろいろな結果が表れ出した。今の状況に満足かと言われると、あの日の自分からすれば考えられないくらい上出来で、だけど今は、もう少し先に行ってみたいとも思っている。


2015年和歌山県で行われた「紀の国わかやま大会」と2016年岩手県で行われた「希望郷いわて大会」という国体に出場し、2年連続で大会新記録を更新することができた。この記録は今後、私が出場できなくても記録が破られることがなければ、記録として残るのである。飛び上がる事は当然出来ないが(笑)、本当にうれしかった。そしてまた、私はその記録を更新したい。

佐久間 勇人 Powered by スマイリーエッジ

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2010年、小脳が萎縮し、伝達神経系が徐々に破壊されていく神経難病脊髄小脳変性症であることを知りました。そこから今日までは沢山の経験・後悔がありました。人と出会い、生まれた笑顔、そのありがたみを人一倍感じとり、今まで気が付かなかったようなことを学べてきたような気がします。ハンデがある。でも、それは「個性」でもある。そう思うようになった時、生き方がかわりました。そして、障がい者水泳というスポーツに出会うことが出来たのです。目標を持ち、チャレンジし、全国障害者スポーツ大会(2015わかやま大会・2016いわて大会)においては新記録を樹立しました。まだまだやりたい。まだまだチャレンジしたい。継続していくことに最大の意義があると思います。何もしないで、後悔するのではなく、「いま」できることを思いっきりやりたい。限りある時間の中で出会うべくして出会えた“こと”。体験の中で見つけた思いをお伝えしています。

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