世界的なビジュアルコンテンツ大手であるゲッティイメージズが、日本国内の広告表現に関する調査結果を発表しました。その内容は、私たちの社会がいかに「障害者の日常」を可視化できていないかを浮き彫りにするものです。

調査によれば、日本人の83％が「日常生活で障害者を目にする機会がある」と回答している一方で、広告に障害者が登場する割合はわずか1％に留まっています。この圧倒的な乖離は、表現の世界が現実の多様性に追いついていない証左と言えるでしょう。

さらに、その1％の表現も、車椅子や白杖といった「目に見える障害」に偏るワンパターンなもの。聴覚障害や知的障害、精神障害といった「目に見えない障害」については、表現のテーブルにすら載っていないのが現状です。表現のプロフェッショナル集団であるゲッティイメージズが投じたこの一石は、単なる批判ではなく、表現に関わるすべての人への「宿題」と受け取るべきでしょう。彼らの洞察に基づき、現状の課題を整理してみます。

「記号」の中に閉じ込められる障害者

日本の人口の約9.3％は何らかの障害を有しているというデータがあります。決して少なくない人々が社会を構成しているにもかかわらず、広告という鏡に映る彼らの姿は極めて限定的です。

特に問題視すべきは、描かれるテーマの偏りです。障害者のビジュアルには、常に「ケア」や「他者依存」という文脈が付きまといます。「希望」を描くシーンでさえ、誰かに車椅子を押されている構図が選ばれがちです。これは見方を変えれば、「誰かの助けがなければ未来へ進めない」という固定観念の再生産に他なりません。また、登場人物の年代も、壁に突き当たる若者か、サポートを必要とする高齢者に二極化しており、働き盛りの中年層や、自立して生活を楽しむ層が等身大に描かれることは稀です。

このようなステレオタイプな広告は、障害者を「特別な存在（非日常）」として切り離し、結果として「見えない存在」へと押しやってしまいます。今の広告表現の多くは、残念ながら「障害者は日常の一部ではない」という誤った学習を消費者に促す材料になってしまっているのです。

表現をアップデートするための指針

ゲッティイメージズは、単に問題を指摘するだけでなく、広告表現をより豊かに、より正確にするための視点も提示しています。彼らが重んじるのは、「日常との地続き感」です。

• 生活の彩りを描く： 日常はリハビリやケアだけで構成されているわけではありません。友人との語らい、趣味への没頭、仕事での達成感。そうした「当たり前の喜び」の中に障害者を配置することは、表現のリアリティを高める第一歩となります。

• 年代とアクティビティの多様化： 現代的なライフスタイル（ゲーム、ファッション、デジタルスキルの活用など）を楽しむ姿を描き、彼らが社会のあらゆるシーンに存在することを強調すべきです。

• 「自律」した希望の表現： 「希望」は他者から与えられるものではなく、本人が自ら掴み取るものです。自己決定に基づき、社会活動に参加し、自身のスキルを発揮する姿。それを「支援される側」としてではなく「主体」として描けるかどうかに、表現者の手腕が問われています。

視覚広告は記憶に深く刻まれます。だからこそ、作り手は常に「現実との乖離」を自省しなければなりません。障害者の表現は、義務感でこなす「宿題」でも、一時的な「トレンド」でもありません。彼らが社会の一員であるという、ごく当たり前の事実を反映させる作業なのです。

「見えない障害」をどう描くか

では、具体的にどう表現すればいいのか。特に「見えない障害」を可視化するのは困難だという声もあるでしょう。しかし、それを「表現不可能」として切り捨てるのは、表現者としての怠慢かもしれません。

障害そのものを記号（アイコン）として強調する必要はありません。自然な文脈の中で、手話や字幕機能を活用する姿、特性に合わせた環境で集中して作業に取り組む姿などをありのままに写し取ればよいのです。日常の工夫や、周囲とのフラットな関わりを切り取ることこそが、真のリアリティを生みます。

現在、障害者の多数派は「見えない障害」を持つ人々です。それにもかかわらず広告が「車椅子のビジュアル」に依存し続けるのは、企業の炎上リスクへの過剰な恐れや、社会全体の無知が原因でしょう。

広告の目的はすべてが「啓発」ではありません。しかし、特定の存在を「いなかったこと」にする表現は、もはや時代に即しません。プロの表現者であれば、説明過多にならずとも、その人がそこに「居る」という事実を、洗練されたビジュアルで刷り込んでいくべきです。

「見えない障害」を持つ人々は、私たちのすぐ隣に、当たり前に存在しています。その事実を、いかに自然に、いかに美しく「日常」として描き出せるか。広告の真価が今、試されています。