障害者雇用の水増し脱却へ向けた公務員試験!その結果と今後の課題は?

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中央省庁における障害者雇用の水増しが発覚してから初めての国家公務員試験が先月行われました。国は法定雇用率を満たすため、今年中に常勤約1210人と非常勤約3150人の採用を目指しています。

今回の試験では予定の採用枠を広げたうえで754人の障害者が採用され、全員常勤として配属となりました。残る450人程度の常勤職員は、今秋に再度試験を行うことで採用していく運びとなるでしょう。ちなみに、倍率は10〜12倍という、有効求人倍率1倍切りとは何だったのかと思うほどの狭き門でした。

ただ、今回の採用活動には幾つかの反省点が持ち上がっています。水増ししていた分を急激に雇用しようとした焦りでしょうか。採用後の定着や非常勤職員の雇用といった課題も残っています。

採用活動の課題

今秋に公務員試験を実施するにあたっての課題は以下の4点となります。

①知的障害者に厳しい筆記試験
採用された754人の内訳は、身体319人・精神432人に対し、知的障害者はわずか3人でした。比率にして0.4%です。この低さの原因は一次試験の筆記にあります。筆記試験が統一された問題で行われたため、そこで知的障害者の大半が不採用となりました。実施前から知的障害者視点での難しさは認知されていたのですが……。

②非統一の応募フォーマット
二次試験は異なる省庁をいくつでも応募できるようになっており、一次試験の合格者だけなのに各省庁へ応募者が殺到するという事態となりました。この中で、省庁ごとに履歴書などのフォーマットが違っているという問題が浮き彫りとなります。健常者でも混乱を招きかねないので、応募フォーマットの統一くらいはしてもらいたかったところですね。

③合理的配慮の不足
筆記試験やフォーマット違いにも通じるのですが、全体的に配慮不足が目立っていました。公務員採用には内定が先着順という独自の習慣があるのですが、これが確認や応募に時間のかかる障害種に対して不利に働いたのです。また、面接では「出来ないこと」の質問ばかりされ圧迫だと感じた応募者もいます。必要な配慮が気になるあまりのことでしょうが、それは応募者側が自ら提示することです。それに「何が出来ないのですか?」ばかり聞かれては気が滅入ることでしょう。

④民間企業との人材争奪戦になる
今回の公務員試験で採用された障害者の中には民間企業を辞めたり内定辞退したりして応募した人もいます。民間企業にとっては、人材流出と雇用率未達成のダブルパンチに見舞われかねない状況です。採用活動が民間企業への圧迫にならないよう努めると政府は述べていますが、具体的な救済案については未だ出ておりません。

非常勤3150人は?そもそも職場定着は?

先月の反省点を活かして今秋に納得のいく公務員試験が出来たとしても、課題は残っています。

まず、約3150人という膨大な数の非常勤職員をどう採用するかです。常勤のほうは倍率が10倍を超える人気ぶりでしたが、これは「最初から正規雇用」が障害者にとって極めて魅力的な条件だったが故のブーストでしょう。翻って非常勤は結局非正規と変わらず、障害者求人としてはこれといった魅力のない平凡なものです。民間の障害者求人と比べて特別優れたところがない中で、年内に3000人超も採用できるのでしょうか。

そもそも就職がゴールではありませんよね。職場に馴染んで定着し、働き続ける意志が芽生えて初めて就労できたといえるのです。目標数の障害者を雇えたとしても、定着支援が不完全で辞職されるとどうでしょう。結局法定雇用率を達成できず、再び水増しに手を染めるであろうことは想像に難くありません。とはいえ、合理的配慮だとか互いの歩み寄りだとかを納得いく形にするまで時間はかかるでしょう。今からでもできるのは、「障害者が働きやすい職場は健常者も働きやすい」という理念のもと職場環境を見直すくらいでしょうか。

正直、今から急に矯正するのは難しいと思われます。40年以上も水増しで誤魔化していた風土があるので尚更です。

一部のA型事業所を国有化してみては?

そこで提案なのですが、就労継続支援のA型事業所を省庁で雇い入れるのはどうでしょう。国で別途審査を行い、優良と判断されたA型事業所には省庁の特例子会社的存在になる権利を与えるのです。優良とする基準は「定着率」「創業からの年数」「経営の安定性」「施設長・サービス管理責任者・職員の練度」「利用者が一般就労できているか」あたりは外せないでしょう。

なぜA型事業所だけに焦点を当てるかといいますと、障害者だけの職場かつ雇用契約慣れしているからです。障害者だけといえばB型や移行支援もそうなのですが、これらは雇用契約がないので、省庁の子会社にするといった時点でB型や移行支援ではなくなります。A型は雇用契約を結んで最賃で働いていますので、省庁が子会社として丸ごと雇い入れるだけでよく、A型事業所の肩書きも変わりません。職場定着のために環境や風土を矯正する必要もありません。事業所そのものは変わらず運営されますので。

1社につき20人と考えると、A型事業所を150社も国有化すれば非常勤3000人雇用に届きます。施設長も経営が安定し、利用者は失職リスクが減り、省庁も法定雇用率を満たせ、民間との奪い合いにもならない、win-winを超えたwin-winの関係となるでしょう。今あるものを今のまま応用するだけで解決する課題にさえ思えてきます。

細かい法整備に関しては根拠ありで「どうにかなる」と言えます。連年にわたり締め付ける法整備が行われていたので、障害者就労に関する法律の改正は意外と簡単に出来るのではないでしょうか。省庁によるA型事業所の特例子会社化を認める方向での法整備を早急に済ませれば年内4000人の雇用目標は難しくなくなります。

まとめ

水増し分を取り返すために採用すべき人数は、常勤約1210人に非常勤約3150人と膨大とも思える数字です。求人として魅力の薄い非常勤ともなれば尚更です。

そこでA型事業所を省庁の特例子会社とすればどうかと提案しました。今あるものを今のまま、雇用形態の変更ひとつで解決できます。常勤へのステップアップ等もそこから行えば、就労継続支援の理念にも反しません。

「結局数合わせか!」「障害者雇用のチャンスはどうなる!」との批判は出るでしょうが、今から年内解決を掲げて採用活動に腐心するほうが無理のあることだと思います。元凶は国が40年以上も先延ばしにしていた宿題です。1年で取り返すにあたっては、地道な活動ばかりでは間に合いません。

参考文献

「統一試験から見えてきた課題 障害者雇用促進水増し」(時論公論)|時論公論|解説アーカイブス|NHK解説委員室
http://www.nhk.or.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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