知的障害者の体型についてふと考える~肥満か痩せ型か、はたまた筋肉質か
知的障害「そんなもの個人差だろう」と言われてしまえばそれまでなのですが、知的障害者の体型については色々と思い込みのある方もいるのではないでしょうか。過去に見た支援学級の生徒を思い返せば、太り気味が一人に対し痩せ型が二人程度いたような感じです。特に法則性はありません。
一方、筋肉質が多いという声もあります。昔いた作業所に筋肉質の引き締まった知的障害者の方がいたのを覚えていますので、似た事例はよく聞くと思われるでしょう。しかし、それもまた個人差によるもので、特に鍛えていなくても筋肉がつきやすい体質の人間はいるようです。
体型の個人差と知的障害は何ら関係がないと結論付けてもよさそうなものですが、公衆衛生学の分野では知的障害者と肥満の二次障害的な関係性について少しだけ研究されていたことがあるのです。
知的障害と肥満
日本公衆衛生学会の学会誌で2012年に出された論文「地域で生活する成人知的障害者の肥満の実態とその要因」では、施設でなく地域で暮らす成人の知的障害者には肥満が多いという仮説のもと調査を行い、概ね仮説通りの結果が出たとしています。さらに論文内では、間食の多さや運動習慣の欠如が関わっているのではないかと考察されています。
この論文がどのような調査を行ったかなど、詳細なことは後述するとして、どうやら知的障害者は肥満になりやすいというのが通説であるとみてよさそうです。ダイエット的な体の動かし方はおろか、理想体型のイメージや肥満の弊害に対する理解すらもままならない二次障害的な流れが一因とされています。
若干話は逸れますが、Eテレ(教育テレビ)の人気キャラクター「ストレッチマン」には元々支援学校や支援学級の子ども達に体を動かす習慣をつけてもらうという趣旨があり、20年以上一貫したテーマとして続いています。裏を返せば、知的障害を持つ児童の運動不足は昔から懸念されており、それゆえにストレッチマンが誕生したとも取れるのです。
調査の準備は入念
「地域で生活する成人知的障害者の肥満の実態とその要因」の論文では、調査方法として「面接調査」が選ばれています。面接の対象は、東京都某市内で4つの通所施設と1つの相談施設に通う18歳から65歳までの「愛の手帳」所持者から、施設長の許可を受けた99人となります。この程度のアポ取りは論文に向けた調査をするにあたって誰もが行う範囲内です。
ただ面接の相手が知的障害者とあって、健常者相手よりも数段丁寧な準備や説明がなされています。まず、対象者が面接の受け答えを出来るか職員に確認を取り、難しければ対象者の了承を得たうえで家族や職員からの聞き取りに変える柔軟な調査計画です。
更に論文の著者らは調査を受ける対象者と信頼関係を築くため、1~2週間程度一緒に施設で作業をしていました。 「匿名である」「答えたくない質問は答えなくていい」といった回答前の説明も、挿絵やふりがなを付けて分かりやすくしている徹底ぶりです。
ところが、データとして使用できたのは結局39人分だけでした。論文内でも残ったデータの少なさはサンプリングとしてどうなのかという懸念が述べられています。驚愕の発見や通説の証明といった大きな役目は果たせませんでしたが、通常の学術論文とはそういうものです。
二次障害での肥満は十分あり得る
サンプリングの少なさという不信がられる要素はありますが、得られた結果そのものは「地域の成人知的障害者は肥満になりやすい」という仮説に賛同するものでした。一般成人に比べてBMIの数値が高かったのです。肥満判定となるBMI25以上が男性で65.2%(一般30.6%)、女性で68.8%(一般18.2%)でした。
BMIが上がる理由としては「間食の多さ」「運動の少なさ」「摂取量の多さ」がデータより挙がりましたが、知的障害者特有となる「障害の程度」「抗けいれん薬の服用」は無関係という結果でした。太る理由そのものは健常者と変わりません。
しかし、ダイエットが健常者よりも難しい背景も幾つか指摘されています。「運動法の周知」「理想体型のイメージ」「肥満リスクの周知」「減量計画の立案」などにハードルがあり、健常者でも難しいダイエットの実行が知的障害者では更に困難となっているのです。これは二次障害による肥満と言ってもいいでしょう。
食事や運動の習慣に適切な介入があれば肥満の防止や改善も不可能ではありません。ただ指導についていけるかどうかは障害の程度も関わってくるでしょう。別の論文である「知的障害児の発育期における運動能力について」では実験の方法として体力測定を採用しているのですが、対象者の障害の程度によっては測定を理解できず、背筋0kgや50m走30秒など極度に悪い結果が出ていました。
個人的な体験ですが私も知的障害を持つ子ども(肥満ではない)の体力測定に立ち会う機会がありました。普段は風のように走り回っていたのが、測定になると棒立ちになっていたのをよく覚えています。食事や運動を指導するにしても一筋縄ではいきません。説明のスキルと我慢強さを非常に高い水準で求めてきます。
論文が書かれたのは2010年代前半です。知的障害者の肥満対策について、現在は少しでも改善されているといいですね。
参考サイト
増田理恵 田高悦子 渡部節子 大重賢治 「地域で生活する成人知的障害者の肥満の実態とその要因」 日本公衛誌 第59号 2012 (PDFファイル)
https://www.jstage.jst.go.jp
早川公康 小林寛道 「知的障害児の発育期における運動能力について」 人間生活文化研究 No.24 2014 (PDFファイル)
https://www.jstage.jst.go.jp
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知的障害